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過去を炉にくべて⑪

 みー。

 勇者は何をするでもなく彼女達の戦いを傍観していた。謎の少女は極力街を傷付けない様に立ち回っているが、二人の聖女はそうではない。持ち余す力を全力で行使し、甚大な被害を街へともたらしている。

 どうにかしようと思ったけれど、勇者にそんな力は備わっていない。


 ただ何もせず、ぼんやりと戦いを眺めていた。


「貴様が勇者か」


 空から、一人の青年が突如として降ってきた。魔法で強化しているのか、着地の際に音は鳴らず、紙のようにふわりとしていた。

 貴族然とした青年は、勇者に問い掛けた。


「竜をほふったのは、貴様で間違いないか?」


 勇者は頷いた。寡黙に、ぼんやりと戦いを眺めながら。


「そうか」


 青年は頷いて、それ以上何かを訊ねる事をしなかった。動きの少ない表情で勇者を見詰め、すぐに彼女達の方へと振り返ってしまう。けれど、そこに何かしらの熟考があったのだと、年幼い勇者でも察しがついた。


 彼女達の戦いは熾烈を極めている、と勇者は思う。実際は、謎の少女が聖女二人を相手に戯れているだけなのだろう。が、異界の勇者は戦いその物を目にした事がない。比較出来ず、あれが本当に戯れなのかそうでないのか、判然としないのだ。


「全く、面倒な」


 誰に告げる気のない、ボソリとした独り言が聞こえた。思わず視線をやると、青年はしまったという様子で口元に手を当てている。悔しそうに呻いて、彼は彼女達に向かって手を振り上げた。


 瞬間、謎の少女と二人の聖女を隔てるように氷の壁が隆起した。剣の聖女が振るった渾身の一撃で僅かに傷が付き、術の聖女の魔法で小さな震動が発生する。恐らく、大地を裂き、地形を変える威力を備えている筈の攻撃を、氷の壁は見事に防いで見せた。


「あら?」


 愕然とする聖女達と違い、謎の少女は楽し気に微笑み、氷の壁にノックした。信じられない事に、氷の壁は徐々にひび割れ、轟音と共に砕けてしまう。


「……おい」


「流石に老年竜の相手で疲れたのね。造りが甘いわ」


「言われずとも分かっている。敢えて手を抜いたのだ」


 腕を組んで負け惜しみ染みた台詞を吐く青年。その口調はとても悔しそうだった。


「それよりも。フィオレ、スン、貴様等は何をしている」


 質問というよりも詰問だった。


 街の惨状を見て頭を痛めているのか、眉間を揉んでいる。


「だ、だってグリム! その女が竜を呼んだんだよ!」


「そうです兄様! だからスン達は彼女を捕らえようと」


「成る程。貴様、何か紛らわしい事を言ったな」


 青年は詰問の対象を聖女達から謎の少女へと切り換えた。若干の呆れを含んだ声は、ある程度の予想が付いた様でもある。


「心外ね。私が紛らわしい言葉以外を吐いた事がある?」


「……納得してしまう自分が凄く悔しい」


 僅かな問答で事情の把握と整理が出来たようで、彼は砕かれた氷の山を消し去り、この場を去る為に歩き始めた。


「あ、グリム!」


「聖女の仕出かした事だ。街の修繕費用は神殿が出すだろう。貴様等の心配する事ではない」


「いえ兄様、そうではなく、あの」


「貴様等が気にすべき事は、元の居場所に戻る事ではない筈だ。違うか?」


 近辺の建物は砕け、引き裂かれ、怪獣でも暴れたかのような倒壊ぷりを見せている。そんなつもりは無かったのだろうけど、彼女達は力を制御出来ずに惨状を作り出していた。恐らく、彼は目の前の現実の事を言っているのだろう。


「今現在、あの屋敷に貴様等の居場所はない。話は以上だ」


 そのまま、彼はこの場を立ち去っていった。そう言えばと思い、謎の少女の姿を探したけれど、何時の間にか消えている。


「……ぇぉ」


 剣の聖女が何かを抑えようとして、けれど抑えきれずに漏れだし、堰を切ったかのように感情を爆発させた。


「なんでよ! なんで、どうして! そんな、そんな突き放すのっ!? なんでそんな酷い事言うのっ! グリムのバカァッ!」


 空に響く程の声量を出したせいで、剣の聖女は息を切らしている。そんな彼女の隣で、術の聖女が静かに涙を堪え、身を震わせていた。


 二人の様子を見て、勇者は思い出した。


 第二王女(ソーシャ)が言っていた。ミリュームネル家に仕える侍女が聖女だと。


「あの人が、ミリュームネル」


 この場に来てからの彼の言動を思い出し、突き放された聖女達見て勇者は思う。


 余りにも、余りにも言葉が足りなすぎる。


 察しの良さと、思慮深さも多大な影響を与えているのだろう。あの青年の言葉は気持ちを乗せられていない。あれでは意味ばかりで、裏に隠された気持ちを気付かせるには足りていなかった。


 問題点は単純な筈なのに、状況が何故か複雑になっている。


 勇者はなんとも言えない気分になった。

 色々と厳しくはされたけど、突き放された経験のない二人である。スンに関しては義理の妹なので、その心情は推して知るべし。

 本来なら⑥辺りで終わる予定だった過去に炉の話し。友人のリクエストに応えて戦闘シーンを入れたらこんな事になりました。ひぃー。

 正直NTRされるまでこんなにグダグダしたのはこの作品だけだと思う。それもこれもテンプレ通りにやらないからだ! ここだけ友人関係無くて草生えそう。


 ところで、来季のアニメが気になる物ばかりで(時間的な意味で)困ってます。どうしよう。

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