過去を炉にくべて⑩の②~某友人に一行で済ませるなと言われて~
王都上空から、東側で展開される竜同士の戦いを楽し気に見守る目がある。
光の加減で赤から青へと変わるけれど、元は朱色の不思議で不揃いの頭髪。星屑を散りばめたような瞳は吸い込まれそうな程に神秘的で、男なら放っておかない顔立ち。
自称、傾国の王女。
通称、駄目男製造器。
男を駄目にする事を生き甲斐とし、今日までひっそりと生きてきた彼女の興味は一人の貴族に向けられている。
グリムニール・フォン・ミリュームネル。
アレクトロフ王国を建国した、王を中心とする始まりの七人、調停者ミリュームネルの正統後継者。
彼について、分かっている事は少ない。
かつて受けていた英才教育は、他国の内事情に移る前に終わってしまった。
王族の女がもたらす混乱が、国外へと及んだ影響だった。
誰も彼もが王族の女を欲し、戦争を起こし、そして滅んでしまった。
時に女神の様だと崇められ、時に悪魔だと貶められ、それでもなんとか続いてきた国は、男の下らぬ所有欲に擂り潰されてしまった。
だからこそ、彼女は囁くのだ、甘言を。
甘言に惑わされず、心を揺らしながらも、それでも己を見失わずに律し続ける男を彼女は求めていた。
「お母様、私、ようやく見つけたわ」
かつて、彼女の母は言った。
「良き妻は、常に夫の敵であるべきなの。真に男を想うのなら、試し続けなさい」と。
「……」
気配を感じて、視線を下へ向けると、勇者と呼ばれている少年が、二人の少女を伴って東へと急いでいた。その後ろを、神官達が必死に走り、何かを叫んでいる。
どうやら、勇者は神官に足止めを食らっていたらしい。
聴けば、「貴方が出る程の事ではない」と叫んでいる。叫びながらも、神官達の顔は満足そうだ。流石勇者様だ、と思っていそうな顔である。
けれど、そんな事彼女には関係ない。
「邪魔をしないでもらえるかしら?」
『っ!?』
勇者達の前方に急降下して姿を見せると、彼等は突然の事に驚いたのか、武器に手を添えた。勇者を追っていた神官は、彼女が姿を見せるに際し脇道へと姿を隠している。恐らく、勇者の邪魔にならないようにと配慮したのだろう。
「……美しいきみが、ドラゴン達を引き寄せた首謀者かな?」
と、きらびやかな装飾の施された剣を抜きつつ、勇者が言う。
歴代の勇者が使用してきた聖なる剣。見た目を重視する神殿らしい、ゴテゴテとした仕事だ。
まだ少年と言える勇者。声変わりも訪れていないのか、声音もまだ幼い。
そんな勇者が、まるで女慣れした優男の様な台詞を宣う。
可笑しくてついつい笑ってしまった。
「ふふっ。いえごめんなさいね。余りの不似合いっぷりに我慢が出来なかったの」
「不似合い?」
「ええ。だって、貴方はそんなにも愛らしいのに、どうして勇者に選ばれてしまったのかしらね」
「む。第二王女にも言ってるけど、可愛いとか言ってほしくないね。格好いいと言われたい」
「背伸びしてる子供みたいね。可愛い」
「こ、これから大人になって行くんだ。後八年もすれば、僕は立派な大人だ」
「それは貴方の居た世界の基準かしら?」
「そうだけど」
「……そう。凄いお国なのね」
「ん? 凄いか凄くないかは分からないけど、僕は格好いい大人になる。絶対だ!」
そう宣言する勇者の横から、剣圧が飛んできた。
見ると、赤いボブカットの少女が剣を振り上げている。鞘から抜くついでに切り上げたのだろう。とすれば、彼女が剣の聖女か。
飛来する不可視の斬撃を、鎌鼬で相殺する。
ついで、魔法の発動を感知した。
彼女が頭上を見上げると、そこには闇魔法に覆われた火の球があった。炎の輝きを隠す為に闇の魔法を使う発想は評価するが、術の聖女なら十や二十ぐらい魔法を同時展開してほしい。
指を鳴らす。ただそれだけで魔法に使われたエネルギーが霧散し、無害化された。
薄青いツーサイドアップの小さな少女が猫の様な警戒心を露にしている。それなりに自信があったのか、魔法を掻き消された事実は相当ショックだったのだろう。その後もまた何度も魔法を発動しているが、目に見える形になる事はなかった。
「アンタ、ほんとに人間?」
「ええ」
「嘘です。有り得ません! 普通の人が、術の聖女であるスンの魔法を消すなんて」
「事実よ。それにこの程度の芸当、この国の貴族なら誰でも出来る筈よ。丁度、彼処で戦っている彼も、欠伸混じりにやって退けるでしょうね」
東の空では丁度氷の竜と老年竜がインファイトを繰り広げているところだった。氷の竜が頭突きを喰らわせ、老年竜は尻尾をしならせている。時折放たれるブレスがお互いの体に直撃するも、痛痒にもなっていないのか、構わず近距離戦を継続していた。
少なくとも氷の竜のブレスは、九十九体による同時攻撃を軽く凌駕していた筈なのだが。……老年竜、恐るべし。
術の聖女も、彼が放つブレスの威力を理解できたのか、唇を震わせている。
一応は彼の義妹である筈だが、彼は魔法を指導したりしなかったのだろうか、と一瞬思ったが、指導に実力を見せる必要は無いなと思い直した。
突然、風が巻き上がる。それは等身大の質量が高速で動いたが故の旋風であった。
常人の目では捉えられない速度で距離を詰める剣の聖女だが、軽く地面を隆起させるだけで蹴躓き、無様に転倒していった。
「不意を突くなら優雅に、虚を狙うなら流麗に。格に見合う力は嗜む程度に。……私、彼処の彼より強いから、仕掛けてくるだけ無駄よ?」
作者
「しばらく書きたくねぇ」
友人
「唐突! なぁ、これって色欲ヒロインと第二王女ってどっちが強いん?」
作者
「色欲。因みに、素は兎も角信仰装具とか言うチートアイテムは漏れ無くドングリの背比べ。そして同じ内容を三回も書かせやがってからに」
友人
「足止めを一行で済ませんなと。でもって作者ぁ! これを読め」
作者
「はいはい日間日間。……で? ヘイト高めて何がしたいのかね?」
友人
「いやなんか前に復讐物とか狂人物とか怖いの書いてたじゃん? お前の書く主人公大体サイコだけど、それをもっと濃くしたやつ。パーティー追放物に乗っけね?」
作者
「データクラッシュしたやつな」
友人
「そうそれ。でもって感想をどうぞ」
作者
「《個人的な意見を長々と述べているだけなのでカット》結論、アルティメット勇者パンチを喰らえ」
友人
「好きだねぇ。と言う訳で、文句が出たなら書こうぜ!」
作者
「貴様、それが狙いか」
友人
「おい元剣道部員、その竹刀を仕舞え。目がこえぇよッテェ! くない!」
作者
「そりゃ天井届いちゃうもの。思いっきりは出来んよ」
友人
「可能ならやるんだ……」




