過去を炉にくべて⑩の①~ドラゴンブレスを吹っ飛ばせ!~
グリムが王都東側の城壁に辿り着く頃には、既に戦闘が始まっていた。
空から降り注ぐ高圧魔力砲を甲冑を着込んだ騎士が十人がかりで防いでいる。彼等は必死で防いでいるのだが、グリムから見れば無駄が多すぎた。
「障壁の魔力密度ばかりを高めるな! 拡散式を組み込みブレスを四散させ、城壁にぶつけろ! 城壁防護班は防護式に魔力を込めろ、ピンポイントでな!」
『っ!?』
突然の怒号に騎士達は動揺するも、すぐに指示を理解して対応する。
高圧魔力砲が騎士達の展開したシールドに衝突すると、一条の閃光は四散した。威力の分散されたブレスは城壁に直撃するも、傷を付ける事すら叶わない。
速度と威力の下がった魔力砲を捉える事など、訓練された騎士にしてみれば造作もない事だった。無駄なくピンポイントで展開されたシールドが威力の減衰されたブレスを捉え、完璧に防いでいる。
これならば一発に対し五人で対応でき、騎士達の負担が減り、攻勢に打って出る事が可能である。
「ミリュームネル殿!」
「戦況は?」
騎士達を指揮していた隊長が王都外周部に出て来たグリム一行に駆け寄る。彼とグリムは一応知り合いと呼べる繋がりがあった。彼が黄金騎士団の七番隊隊長に任命された際、グリムは立ち会っている。
しかし、そのまま指示に対する礼を述べる暇すら与えられず、現状報告を急かされた。
隊長は慌てて報告する。
「はっ! 王都東側よりドラゴンの群れが襲来、ドラゴン共は天空よりブレスを撃ち放っており、目下対応中であります!」
「種別の判別はついているか」
「ほぼ全てが青年竜、最後尾に老年竜の影有り! 部下に情報を洗わせたところ、先日キジカ森林に幼年竜の目撃報告があり、近衛騎士隊が対応に向かった事と関連があると推察します!」
「自然の掟を重視するドラゴンが同胞の報復をするとは考えづらい。事の顛末が詳細に書かれた報告書がある筈だ。王宮へ申請したか?」
「既に早馬を走らせております!」
「そうか。なら、捕縛用バリスタで天空の使者共を地に落とせ。翼を落としてドラゴンをただの蜥蜴にしてやれ、良いな?」
「御意!」
素早く敬礼を済ませ、隊長は伝令を走らせた。城壁上層で待機している者達に捕縛用バリスタの準備をさせる為だ。彼自身はシールドでブレスを防ぐ班に加わり、必死の形相で威力を拡散させている。
隊長自らが加わった事で、防御班の士気は向上したようだ。シールドで防ぐ傍らで、ドラゴンに攻撃魔法を放つ騎士が現れ始める。
攻撃魔法を回避する為、ドラゴンは空中を旋回している。同時にブレスを放つ勢いも弱まり、更に騎士達の攻撃は激しいものとなった。
攻防は完全に逆転し、天空の使者は魔法の直撃を避ける為に大空を翔る。
なんとも情けない姿だ。
「貴様等も攻撃に加われ、そして落ちてきたら、分かっているな?」
『了解っ!』
攻撃に加わった従者達はミリュームネル家に仕えているだけあり、練度が高い。騎士が放つそれよりも、一層激しさのある魔法がドラゴンの足を掠めただけで、焦がすか凍らすか弾け飛ばすかしている。
彼等彼女等の目付きは完全に獲物を狙う狩人そのもの。
翼に掠めて地に落ちれば、どうなるかは一目瞭然である。
二度と空を翔べない体にされる恐怖に、ドラゴンは身震いした。ついでに騎士達も戦慄した。
「……さて、青年竜程度なら任せても問題無かろう。が、流石にあれの相手は俺がせねばならんか」
群れの後ろに控える老年竜を見据える。
ドラゴンは段階的に力を増す生物だ。
人間が努力によって強くなる生き物なら、ドラゴンは成長によって強くなる生き物である。
判別しやすいように幼年竜、少年竜、青年竜、成年竜、老年竜と分けられているが、老年竜よりも更に上の段階に居るドラゴンも確認されている。伝説竜と呼称されているけれど、基本的に人間の領土に姿を見せる生き物ではないので知識としてしか周知されていない。
騎士団で対応可能なのが成年竜まで。老年竜を相手にしようと考えれば、一国総出でお出迎えしなければならない。
そんなドラゴンと、グリムの視線はガッチリとかち合った。
どうやら向こうもこちらを脅威として認識したらしい。
遠目に見える老年竜の目は、グリムを試すように挑発的だ。
「ふむ。そうされると、貴族として受けて立たねばなるまい」
グリムは手の中に冷気を発する拳大の珠を生成すると、無造作に宙へと投げた。
投じられた氷の珠はパキパキと割れるような音を響かせながら、そして次第に勢いを増しながら膨張する。
そうして出来上がったのは全長十二メートルの巨大な竜だった。
冷気を発する竜はまるで生物の様な動きで頭部をグリムの元へと寄せる。彼は氷の竜の頭から背中へと登り、目指すは玉座の如くつき立った背ビレ。氷で出来たそれに柔らかく腰掛けると、主の到着を歓喜するように氷の竜は咆哮を轟かせた。
老年竜とも引けを取らない巨大さ。
人間は突如現れた氷の竜に驚愕し、そしてその美しさに見惚れた。
氷の造形ながらも、雄大さを感じさせる風格。鱗の一枚一枚まで丁寧に手掛けられたそれは朝日を反射させなお美しい。
翼による羽ばたきは力強く、年甲斐もなく胸が踊るようであった。
驚き見入っていたのは何も人間だけではない。
老年竜に勝るとも劣らない強大な力を宿す氷の竜。
青年竜であるドラゴン共は動揺し、そして恐怖に駆られて排除に動いた。
総勢九十九体による同時攻撃。
ドラゴンが顎を大きく開き、高圧魔力砲を最大限まで高め始める。
グリムは、そして氷の竜は大空に飛び上がりながら、その様子を観察していた。
見せ付けるような強者の余裕。
彼等はドラゴン共の準備が終わるまで、悠然と構えていた。
そして繰り出される一斉射撃。
ドラゴン共の放つ色鮮やかなブレスは一条の閃光へと集束され、人間一人どころか、町一つを呑み込む程に巨大である。
回避すれば、王都は跡形もなく吹き飛ぶだろう。
「消し去れ」
グリムは氷の竜へ静かに命令を下した。
主の命に応える為、氷の竜は冷気のブレスで巨大な閃光を迎え撃つ。
拮抗などしなかった。
巨大な閃光に呑み込まれたに思われた氷のブレスは、それの中を突き進んでいた。
そして、突き抜けたのだ。
高圧魔力砲の束を圧倒的なエネルギーで突き破り、そして霧散させた。
指向性を失ったエネルギーは消滅するしかない。
天空高く伸びる白い雲を吹き飛ばし、氷のブレスは天へと突き立つ。
氷のブレスの近くに居たドラゴンの鱗には霜が出来上がっている。
骨まで凍らされた様な感覚に、ドラゴンは慌てて氷のブレスから離れた。
氷のブレスは次第にか細くなっていき、最後には消えてしまった。
およそ半日、王都界隈の気温は著しく低下するだろう。
氷の竜が放ったブレスは、それ程の影響を環境に与えていた。
恐ろしい事に、これでも手加減した方である。
全力でブレスを放てば、一ヶ月は季節外れの雪が降る事だろう。
そうしたら農家は頭を抱えるし、牛飼い等は家畜のストレスに涙を流す事になる。
それでは本末転倒だ。
故の手加減であったが、グリムは小さく、口の中で舌を鳴らす。
「もう少し加減するべきだったか……」
高圧魔力砲こそは消し去ったが、周辺の気温を低下させてしまった。
まだまだ魔力制御が甘いと自省する。何故それが身近な人物への接し方に向かないのか、謎である。
グリムは氷の竜を老年竜の元へと進ませる。
圧倒的な実力差を見せ付けられた青年竜が、彼等の道を遮る事はなかった。
「さて、イントロダクションは楽しんで頂けたかな?」
老年竜へと挑発的な笑みを向ける。
老年竜は、蜥蜴顔を楽し気に歪ませた。
友人
「作者の好み的にこの展開は有りなん?」
作者
「大丈夫。騎士団全員で防御に回れば塞げるから。千人ぐらいで。いざとなれば謎の少女とか王様とか、他の信仰装具持ちの貴族とか居るし。主人公くんが出なくても本当にどうにかなる世界です」
友人
「アンドロウスは?」
作者
「基本、主人公くんと同じ芸当は出来るよ。別に主人公くん一強って訳でもないし」
ネタバレになるので中略。
友人
「話は変わるけど、ちょっとこの辺読んでみそ?」
作者
「おー、見事に日間で見た事あるタイトルばっかな。取り敢えず序盤だけ」
友人
「……ピンと来るものは?」
作者
「無い。リアル思考の気がある作者には合いません。だから読んでないのに何考えとん? 常識ゼロ主人公書けって言われても書かないよ?」
友人
「ではなく。不遇スキルや加護を主人公に与えるとしたら何にするかって話し」
作者
「そんなん《重量挙げ》一択でしょうよ。アホなの?」
友人
「待って、なんで重量挙げ一択なのか分かんない!」
作者
「ロマンだ」




