終わった後のお話②
まだ一部しか投稿してないのにPVが多いなこれ、と思ってたんですが。これ多分あらすじ効果なんでしょうね。変えようかな。
ミリュームネル領の都市、ミリュームへと帰ってきたグリムは、ほうほうの体で自宅である屋敷へと辿り着いた。
そんな主人の顔色を見たフィオレの母が、静かに憤怒の角を露にしながらフィオレの頭をがしっと掴み、何処かへと連行していった。恐らく三時間程お説教をされるのだろう。南無三。
幾らグリムがぐろっきーであろうと、仕事は舞い込んでくる。執務室へと赴くと書類の束が仕事机にどさりと積まれていた。
疲弊していても、手を抜く訳には行かない。報告書の中には今回のように放置すればとんでもない事態へと発展しかねないものもある。それを見落としたとなれば、責任問題で飛ぶのはグリムの首だけでは済まないのだ。それに、飛竜の件を国へ報告しない訳には行かない。すぐにでも報告書の作成をしなければならなかった。
報告書を書き上げ、封をして執事に王都へ送るよう指示をする頃には既に昼を過ぎていた。
息抜きに体を力を弛緩させて執務机に伏せる事数秒。よし、とグリムが気合いを入れ直していると扉が静かに開かれた。ノックも無く静かに開ける人物は、グリムの知る限り一人である。
「兄様、居ますか?」
顔の半分だけを扉から覗かせて、執務室の様子を確かめるのはグリムの義妹である。薄く青みのある瞳がグリムを捉えると、宝物を見つけたように開かれ、するりと扉の隙間から素早く入ってくる。小動物を思わせる一連の所作に思わずほっこりしてしまう。
義妹の手には、トレーに乗せられたサンドイッチがある。
「あの、お昼に顔を出されなかったので、お腹空かせてるかと思って、その、作ってみました」
「……貰う」
自信なさげにはにかむ義妹を手招きすると、彼女はぴょこぴょこと跳ねるようにグリムへと近寄る。けれど、
「…………」
その動きは手が届くか届かないかの距離で止まった。
仕方無く手を伸ばして、トレーを受け取り机へと乗せる。
「スン、まだ、見えないのか」
「あ、はい。えと、まだ」
スンと呼ばれた義妹は、慌てた様に光のない右目へと手を添えた。彼女の顔にはフィオレと同じく大きな火傷の痕がある。フィオレと違うのは、広範囲である彼女に対して、スンは一部分に集中しているのだ。
右目を中心に右側頭部へと。
勿論、フィオレと同じく皮膚は綺麗に整えられ、薄青の髪も問題なく生えてきている。時間が経てば、髪を結う事も可能だ。けれど、一度失った部位を取り戻す事は難しい。
右目の再生は終わっているが、上手く脳と神経が繋がるかは分からない。定期的に薬を入手しているが、スンの視力が戻る保証は何処にもないのだ。
「ごめんなさい、兄様」
と、グリムが難しい顔で考え込んでいると、スンは申し訳なさそうに俯いた。
「再生薬は高価なお薬なのに、スンの目は未だに治りません。このまま兄様に負担を強いるくらいなら、こんな目、治らなくても――」
治らなくてもいい、と息巻くスンの言葉を遮るようにして、彼女の額を小突いた。スンは「あう」と僅かによろめく。
「……大切な家族の為、に、渋る金などない」
後半部分だけの台詞に慌てて言葉を付け加えたせいで、どうにもぎこちない言い方となったが、本心だ。
嘗ては、必要の無い言葉。余計な言い回し。と、切り捨てていたせいで深く傷付けてしまった。慣れずとも、最大限改善するべき悪癖である。
「兄様……」
「……それで、父上の様子はどうだった?」
嬉しさと悲しさが半々となった顔のスンを見て、グリムは話題を変える。
グリムの父、ミリュームネル現当主は数年前に過労で倒れている。
ミリュームネル家はアレクトロフ王国で三番目に強大な権力を持っている。国から任されている領地は広大であり、グリムの父はそこに加え国の運営も一部分任されていた。
明らかなオーバーワークに、グリムの父は耐えきれなかったのだ。
「あ、はい。義父様は、義母様と今朝方旅行に出られました」
「…………。自由を満喫しているようで、何よりだ」
どうやら、グリムがフィオレを連れて飛竜討伐に出掛けている隙をついて、妻といちゃいちゃしに行ったらしい。来年には弟か妹のどちらかが出来ている事だろう。
色々と出てくる言葉はあれど、浮かべられた苦笑は実に楽し気である。
グリム一人で仕事を十分回せている現状、ほぼ隠居状態なのだから本人以外は誰も文句を言わない。寧ろ、これまで頑張っていた分、周囲の目は生暖かく微笑ましい。
けれど、
「無断で留守にするのは頂けない。帰ってきたら説教してやる」
父が療養を始めてからというもの、グリムは度々その自由奔放っぷりに振り回されている。小言や説教も増えるというもの。過労で倒れた父とはまた別の理由で床に伏せるのではないかと、周囲は冷や冷やしている。執事もこっそり胃薬を処方する程だ。
そんな据わった目になるグリムに、どうフォローしたものかとスンはわたわたする。
そうして舞い上がった埃にムズムズするものがあり、スンはくしゃみをしそうになる。
「……しくじった」
泡を食って重要な書類を執務机の下へ退避させると同時に、それは起きた。
「くちゅんっ!!」
そんな可愛らしいくしゃみと共に、屋敷の執務室から炎が窓を突き破って勢いよく噴き出た。
スンリーニャ・ミリュームネル。静謐を思わせる薄青の髪をおさげにしている、小動物のような血の繋がっていない義妹である。彼女はグリムの遠い遠い親戚で、事故で両親を失い、あちらこちらへと引き取られては転々としていた。
そんな彼女の境遇に思うところがあり、グリムは初めて我が儘を言った。
それからというもの、虐待の様な扱いに心を閉ざした彼女の心を癒やし、家族以上の想いをお互いに抱いていたが、それも過去の話。今では家族である以上の歩み寄りはしていないし、壁を築いている。
彼が彼女の想いに応える日は、きっと来ない。
どうにか代えの利かない書類を守りきり、執務室の鎮火を終えたグリムは自室のベッドの上でぐでんぐでんになっていた。疲れきってもう何もしたくない。
その横で、スンはひたすら平謝りを繰り返している。
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
と、傷の入ったレコードの様に永遠と繰り返している。
「問題ない。そこまで高価な物は置いてないし、重要な書類は無事だ。気に病むな」
「ですが! ですがですがでぇーすぅーがぁー!!」
幾ら気にする必要性の無さを説いても、スンが納得する事はない。彼女にあるのは「また迷惑をかけた」という罪悪感ばかりなのだ。理路整然と説得されても、彼女が頷く事はない。果てしなく面倒臭く、手のかかる可愛い義妹である。
「スンは兄様に迷惑をかけてばかりです。あの時もあの時もあの時もあの時もッ! 兄様を殺そうとしたスンを兄様は許してくれたというのに、スンは、スンはっ」
「……あぁ。あの時は大変だったな。都市の住民にあれは殺し合いじゃないと説得するのに苦労した」
グリム的に、殺し合いよりもその後の後処理の方が問題だったらしい。気にするべき点は他にもある筈なのだが、問題になっていないのなら問題にしないのがポリシーな彼に、そんな常識は通じないのである。
幼馴染みに腹を抉られ、義妹に内臓を焼かれた経験を持つというのに、グリムの懐の深さはなんなのだろうか。
「そうではなく、そうじゃないんですよ兄様!」
「落ち着け、スン」
一度心が壊れた後遺症なのか、スンには情緒不安定なきらいがある。精神の均衡が少しでも崩れると、酷く感情的になり周りが見えなくなるのだ。
物事を理屈で捉えるグリムにとって、スン程扱い難い人物は他に居ない。
そうして騒ぎ立て、舞い上がる埃。グリムは既知感を覚えた。
「退避、は、間に合わないな……」
現状、ベッドと一体化せんとばかりに体を沈めている。ここから力を込めて起き上がり、窓か扉から退避するには時間が足りない。
グリムは大人しく自分の運命を受け入れた。
後日、ミリュームネル家の庭師がこう後述した。
「いやー、ビックリですよ。庭の手入れをしていたら突然二階の窓が爆発して、なんだと思ったらシーツで身を守った坊っちゃんが降ってきたんですもの。そんでそのまま噴水にドボン。それはもう、見事な流れでした」
作者
「義妹キャラでなんか要望ってある?」
友人
「お茶目な感じで」




