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過去を炉にくべて⑦

 短いけど句切りが良かったんじゃあ。

 腹の虫をぐるぐる鳴らすグリム。


 そんな彼の状態を察したシスターは、満杯の紙袋から瑞々しい果物を取り出した。パンもあるが、今は飲み物を持っていない。パサパサしていて喉が乾くので果物である。


 彼女は貴族に対する畏怖の念や、過去にされた嫌がらせ等で良い思い出は一つとしてない。ここでグリムを見捨てたとしても、シスターを知る者は誰も彼女を責めないだろう。


「お貴族様、果物です。食べられますか?」


「……あぁ。感謝する。有り難う」


 思うところは有るけれど、チリチリと燻る黒いものは自分のもので、彼に当たるのは筋違いだと理解している。何よりも、貴族から感謝の言葉を貰ったのは初めての経験だった。


「貴方は、簡単に感謝を口にする人、なのですか?」


 人の性格は千差万別。ただたんに、彼が感謝を頻繁に口にする性格なのではないかと疑ったが故の問い掛けだ。


 グリムはむしゃりと果物をかじり、思い出す様に首を捻る。


「ふむ。貴様はわたしの召し使いではない」


「え? えぇ、そうですね」


「金で雇われた者が主に奉公する。それは当たり前の事だ。彼等彼女等の仕事、ならば感謝を述べる必要はない。彼等彼女等は正当な対価を主から与えられるのだから」


 なんとなく、シスターは彼の言いたい事が分かった。


「しかし、一般家庭に於ける家族はどうだ? 子に与える奉仕は、彼等彼女等の善意によって行われている。金銭にならん仕事を自分から行っている。ならば感謝する事は当たり前であろう」


 彼は、喉を潤すようにまた一口果物をかじった。


「わたしは、そんな者達に報いたいと常々考えている。だからシスター、何時の日か必ず、貴様の善意に応えよう。ミリュームネルに誓って」


「ミっ!? ミ、ミリュームネルぅ!?」


 その名を聞いた瞬間、シスターの心臓は嫌なくらいに鼓動し、地面から浮き上がる程に身をすくませた。


 ミリュームネル。その名前は王都界隈でも有名な名だ。


 侯爵でもないのに王に口を出す事を許され、役職を与えられている訳でもないのに一部の国の運営を任されている歴史の人。


 シスターにとって、まさに雲の上の存在が、文字通り空から降ってきたのだ。


「あわわわわわ。わたしったら、そんなお人にただの果物を、果物をォ!!」


「構わん。ねだったのは此方だ。貴様が気に病む事などない」


「でででですけど! でぇーすぅーけぇーどぉー!」


「全く……。貴様もいい加減降りてきたらどうだ」


「あら? 良かったの?」


「ぴゃーっ!」


 屋根の上で高見の見物をしていた謎の少女に呼び掛ける。すると、少女は木箱に入ったまますぃーっと下降して来て、シスターを驚かせていた。色々と落ち着きのないシスターである。


「どうしても気に病むのなら、この女を一晩泊めてはくれまいか」


「は、はい! 喜んで!」


「えぇー、私、百合の花を咲かせる気はないのだけど?」


「咲かせんでいい、咲かせんでいい」


「寧ろ貴方の思想を聞いてきゅんきゅん疼いてしまったのだけど?」


「それこそ知った事か、だ。付き合ってられるか」


「溜まっているものを抜いてもいいのよ?」


「間に合っている」


 そう吐き捨て、グリムはマントを翻す。スタスタと早足にその場を後にし、しばらくしてから後方を確認した。


 路地から出て来る二人を見付ける。謎の少女は楽しそうに笑い、シスターは顔を真っ赤にしていた。下らぬ事でも言ったのだろう。


「……寝よ」


 フィオレとスンと別れたり、謎の少女に追い掛けられたり、シスターに施しを貰ったりと、何かと疲れる一日だった。普段が仕事漬けな為、新鮮な刺激に対する耐性が落ちているのだろう。


 慣れない疲労は睡魔となり、グリムを襲っている。丁度小腹を満たした事も繋がっているのだろう。


 起きているのか寝ているのか分からない状態で街をさ迷い、泊まる予定の真紅の竜亭に辿り着いた。


 従者達との挨拶もそこそこに、グリムは硬い寝具に身を投げ出し、貪るように、寝た。

 友人

「こいつ、やりやがった!」

 作者

「むしゃくしゃしてやった。反省も後悔もしていない。寧ろ清々しい気分だ。はいこれプロット」

 友人

「ただのあらすじだろ。読者に読ませる気皆無かよ!?」

 作者

「だってぇー、終盤までクソ主人公による胸糞まみれよ? そんなの読みたい? 俺は嫌だね」

 友人

「なら書くなよ」

 作者

「何処かの誰かが言った。文句があるなら自分で書けよ、と」

 友人

「某静止画のコメントだろどうせ」

 作者

「にーこに」

 友人

「止めろ」

 作者

「あれだよあれ。クソ主人公からのバッドエンドを流行らせようという作者さんの粋な計らいよ」

 友人

「そんな文才ないだろ」

 作者

「確かに」

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