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過去を炉にくべて③

 本日二話目。

 結局後片付けは終わらなかった。


 残りを白装飾の人達に任せて、一行は王都へと向かう。そこにはちゃっかりアンドロウスの姿があり、グリムとてしてし叩き合っていた。地味に高度な攻防が繰り広げられていて、従者達は一つの演舞を見ている気分である。


「何故ちゃっかり居座っているアンドロウス。貴様、聖女を迎えに来たのではないのか?」


「嫌ですね。わたし達の仲ではないですか。流石に二人も抱えて飛ぶとか、明らかに重量オーバーだと察してくれません?」


「だったら先に帰ればいいだろう。そして歓待の準備でもしているがいい。昔のように床磨きでもしていろ、お似合いだぞ」


「はははは、それは十年も昔の姿。今では部下を顎で使いわたしは悠々自適にティータイムを楽しむ立場ですので」


「堕天使め」


「アァ? 今なんつった?」


「悠々自堕落に日々を過ごして、少し脇腹が弛くなったのではないか?」


「そういう貴方こそ、机に向かってばかりで腹が出ているのではありませんか?」


「ふっ。今でもこの腹は六つに割れているぞ。見るか?」


「見ませんよ、見ませんって! 見ねぇから服をたくしあげるなバカ野郎!」


 腕だけではなく足も使われた為、グリムは若干残念そうにしながら服を正す。


「しかし貴様も可哀想な事をする。見たか? 残された奴等を。哀愁が漂っていたぞ」


 思い返すは出発時の白装飾の人達。心なしか肩が落ちていて、動きも何処か緩慢だった。どうにか地割れだけは直せたが、陥没したり消失したりで荒れ果てた大地を元に戻すのは骨が折れるだろう。あれが平原ではなく草原だったら、芝も生やさなければならない。その点だけは幸いである。


「わたしには貴方から解放された喜びに咽び泣いていたように見えましたが?」


「ほざけ。女神からの飽きた宣言が無ければ、今頃貴様は氷の中で永遠に眠っていたであろうさ」


「いいえ? 寧ろ此方が貴方の存在を根本から消し去っていましたとも。あのまま続ければわたしが勝っていました」


 てしてしが苛烈さを増した。両者、使っている腕は一本の筈だが、残像が発生していて最早一般人には視認できない。無風である筈の馬車の中で、謎の気流が出来上がっている。


「というか、貴方昨夜から女神様に気安過ぎません? まるで会った事があるような口振り」


「ん? あぁ。一度だけ対面する機会があってな。大した用ではなかったのだが、まさか呼ばれるとは思わんかった」


「なんと羨ましい。天使になったというのに、未だお顔を拝見した事がありませんよ、わたし?」


「ほう? ……会った印象を伝えてやろうか、アンドローウス」


「止めてください、止めてください! 何時か会う時の為の楽しみなんですから絶対に止めてください。あ、この! その口を閉じろぉ!」


 アンドロウスが耳を塞いでイヤイヤし始めたので、グリムはネタバレを諦めた。


 先日とは乗る馬車を変えていて、フィオレとスンとは別々である。なので、グリムは心置き無く弾ける事が出来ていた。なんだかんだで、彼はアンドロウスの事を好いている。良き友人として慕っているし、こうして本音を出せる数少ない人物だ。


 互いに嫌いな部分が有れば、好きな部分もある。そういう関係だ。


 だからこそ、分かる事もある。


「それで? 何故貴様が出張ってきた。あの女神の暇潰しの為だけに来たのではないだろう」


「あまり女神様を軽んじてほしくはありませんが。そうですね、えぇ、確かに。私情で来た事を否定しませんよ」


 グリムは無言で続きを促した。


「……グリムニール、貴方に悲運の相が出ました。近い将来、貴方は深く傷付き、その後の行動で未来が大きく変わる事でしょう。より良い未来を掴み取るには、傲慢と色欲との出逢い、そして、省みる事が重要、と出ました」


「相変わらずの謎占いだが、的中率は中々バカに出来んからな、貴様のそれは」


「身近な人物で、傲慢と色欲に当たる者をご存じで?」


「出逢いと言うからには、これから巡り会うのだろうさ。留意しておこう」


「それが宜しいかと。もしもどちらか片方と出逢えなければ、貴方は破滅の道を歩んでしまいます。どうかお気をつけを」


「占い師という人種は無駄に意味深だが、貴様のそれは更に拍車を掛けて訳が分からんな。破滅の道? 何をどうすればこの俺がそんな道を歩むのか、全く以て不思議だ」


「ソウデスネ。では、わたしはこれにて。貴方の言葉通り、歓待の準備でもして待っていますよ」


「王都に着いたらとんぼ返りするがな」


「傲慢と色欲を探せや!」


「冗談だ。二日で出逢わなければ帰るがな。仕事が溜まっているだろうから、憂鬱だ」


 領主代行という立場であるグリム。そんな彼の決裁無しで仕事を回せたとしても、一体何日空けられる事か。グリムとしては一刻も早く都市ミリュームに帰りたい心境である。


 伝えるべき事を伝え終えたアンドロウスは、窓から飛び立つ際にしつこくグリムに念を押している。それでも心配なのか、彼はグリムに一枚の羽根を残した。


 羽根がなんなのかを訊ねる前に、アンドロウスは空高く飛び立ってしまう。グリムは腹いせに魔法を一つ、ぶっ放した。


 それから間も無く、王都が見えた。

 作者

「1500~2000文字なら二・三個落とせるな、多分」

 友人

「週一一万でもいいのよ?」

 作者

「やだよ。下手したら三万行くもん。昔に一つのイベントに2500文字使ってた頃に文字だらけでうへぇ、ってなった。それなら『田舎っぺ勇者とお転婆姫が行く異世界黙示録』練ってたい」

 友人

「また変なタイトルを」

 作者

「そして思ったよりも本編進んでない!」

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