過去を炉にくべて②
みじ。
グリムが張った結界には、外の影響を完全に拒絶する効果があり、尚且つ、内部から見た外は幻術によって日常の風景が映し出されている。今回の場合は閑散とした平原。
危険が無くなり、グリムが結界を解くと、その範囲を境界として外側には凄惨な光景が広がっている。
これには朝食の仕度をしていた従者さん方もお口をあんぐり。フィオレとスンも、あの落ち込みようは何処へやら、え? なにこれ? と言わんばかりである。
平原はクレーターだらけ、地割れまみれで、暗雲が立ち込めていたらここは地獄かと見紛うばかりだ。
そんな中で、グリムと一対の翼を持った男性、そして数人の白装飾の人達が後片付けに四苦八苦していた。
「終わらん!」
「終わりません!」
何処から持ってきたのか、グリムが土にまみれたシャベルを地面に叩き付け、翼を持った男性は氷付けになっている岩石を放り投げた。シャベルは白装飾の人が回収して利用し、岩石も無事キャッチして日に当てている。
「アンドロウス! 貴様何故むやみやたらに羽根をばら撒きおった!? 埋めても埋めても全く終わる気がしないぞ!」
「そういうグリムニールこそ! なんですかこの氷! 炎にくべても全く溶けないんですが!? 羽根で消し飛ばそうにも全く消えないのですが!? どうなっているのですか、これぇ!?」
「はっ! 侮るなよ。信孝剣・ミリュームネルによってブーストされた魔法だぞ? 千年は氷ったままに決まっているだろ」
「開き直って自慢しないでくれますかねぇ!?」
「これでも加減している。俺が全力だったら、一生溶けん」
「気取らないでくれます? うざいので」
「それは貴様だろう。なんだその雑な丁寧口調は? 昔はベルセルクの名に相応しい荒々しくも猛々しい言葉遣いだったではないか。お約束のぶっころはどうした? ぶっころは?」
「テメェ、マジぶっころッ!」
「ははははは! あっさりと仮面が剥がれているではないか!」
そのまま取っ組み合いにもつれ込む二人。白装飾の人達から漂う苛立ちは、遊んでないで手を動かせと言いたげである。でも言えない。一人は戦慄の対象、一人は上司。部下は粛々と働くのみ。
徹夜テンションのグリムは普段の冷静沈着な様が剥がれ落ちており、それはフィオレとスンが初めて見るグリムの側面であった。普段は真面目な顔ばかりを見せるグリムに、こんな子供っぽい一面がある事に驚きを隠せない。
その事実が、また二人の心を暗くさせる。
長年一緒に居る自分達よりも、二人の知らない誰かに素の顔を見せている。それは軽い嫉妬であり、劣等感であり、信用されていなかったのだという、不信であった。
実際は、単純にグリムが二人に良いところを見せようと意識して見栄を張っていただけで、二人の思い込みとは真逆の想いがそこに有ったのだが、ものの見事にすれ違ってしまっている。
三人の思いが通じ合うのは、まだまだ先の事である。
と、その時、グリムが様子を窺う二人に気が付いた。
ビシリ、と固まり、ごほん、と咳払い。襟を正して衣服に付着した土埃を払う。
そして、何事も無かったかのように、彼は声を投げてきた。
「昨夜はよく眠れたようで何よりだ」
「グリムニール。その二人が聖女ですか?」
グリムニール。先程から翼を持つ謎の男が彼をそう呼んでいる。流れから見て、グリムの事を指しているのだろうが、耳馴染みのない名称に嫌でも意識が行ってしまう。
「あの、グリムニールって?」
代表して、フィオレが疑問を投げると、二人は顔を見合わせた。その様子にまたチクリ、胸が痛い。
「伝えていないので?」
「すっかり忘れていた」
「呆れてものも言えませんよ、それ」
自分の知らない事を二人は当たり前のように共有している。自然と、フィオレとスンの心に黒いものが溜まっていった。
「何時もはグリムと名乗っているが、俺の名はグリムニールだ」
「どうして、今までそれを黙っていたんですか、兄様?」
「必要ないだろう?」
何を当たり前の事を、と続きそうな響き。グリムとしては、スンリーニャと同じ理由で、短く句切っているだけの事だが、その含みが正しく伝わるかは別問題である。
結果として、フィオレとスンは、突き放されたような、心の壁を感じてしまった。
三人の溝は、深まるばかりだった。
作者
「ローストシュ、ガー。続けて言うとローストシュギャー。普段無口だとこういう時に困る。バイトで困る」
友人
「作者の諸事情はいいとして、暗殺問題何処いったし。そして仲良しか! というか、こんなに主人公との折り合いが悪いところを書く意味とは? なんかしつこいんですが」
作者
「重要な部分なんだからしつこくやるともさ」
友人
「えぇー、俺もっとランキングにあるようなノリが良いんだけどー」
作者
「そこは作者の拘りよ。まぁ、短くやるならあのノリが良いんだろうけど、俺の場合その辺拘っちゃうから」




