表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/31

粘着男は夢を見る④

 み・じ・か・い。

 勇者に対する嫌がらせも出来ないまま、鬱屈とした日々を過ごす。いや、それだけならまだしも、最近エドガーが休日に自宅を空けている事が近衛達に知られ、からかわれている事も憂鬱の原因である。


「エドガー、俺は嬉しいぞエドガー!」


 酔った近衛隊長がエドガーの肩をバシバシぶっ叩く。彼は「そっすね」と酒をチビチビ飲みながら気のない返事をするも、隊長は哄笑して更に酔いを回している。


「普段から目上に対して無駄に上から目線で、遅刻常習犯のお前がとうとうまともになるんだなぁー。俺、ちょっと寂しいぞエドガーぁ!」


 笑い上戸なうえに絡み酒と来て、エドガーは既にうんざりしている。早く帰って寝たいと思うも、酒場は貸切状態。近衛隊による「エドガー、恋人おめでとうの会」が開催されているのだ。


「うぅ、女遊びしてばっかで、甲斐性なしのお前がとうとう彼女持ちか。思えば遠くへ来たもんだ」


 と、暇を見付けてはエドガーに剣を教えに来る近衛が涙を流している。泣き上戸だ。


「甲斐性なしは余計だろうがっ」


 思わず小さく毒づく。相手にも聞こえてる筈だが、エドガーの口の悪さは周知の事実なので今更ショックを受けたりしない。そんなもの、朝の挨拶みたいなものである。


「けどお前、最近休日が近付くと落ち着きがないぞ。なんだかんだと楽しみなのだろう」

「そうそう! 休日明けのエドガーは小綺麗だからなぁ。前は髭とかそのままだったのに!」

「香水の匂いとか、ちょっと残ってるのがバレバレ」

「教会のシスターだろう? 平民の間では美人で有名だぞ。ちゃんと彼氏アピールしないと盗られるぜエドガー」

「ほう? 美人とな? どれぐらい?」

「前に隣国の歌姫がこっち来たろ? あれといい勝負」

「おお!? やったじゃねぇのエドガー。美人の嫁さんでシスターかー、夢が広がるな!」


「ああくそっ! てめぇーらうるせっ! 美人美人言うがな、あいつは超めんどくさいんだぞ! 少しおめかししたぐらいでチラチラチラチラ様子を窺って来やがる、そんで褒めるまで神父が帰してくれねぇんだぞ! 分かるかこの苦労!?」


「なんだ? 自慢かエドガー」


「ちっげぇーよこのくそボケ隊長!」


 そう喚き散らしながらも、エドガーの顔には笑みがあった。指摘しても本人は頑なに否定するだろうから、誰も言わないが、彼がシスターとの時間を楽しみにしている事は見ていれば分かる。


 邪な考えは持っているし、王族を守護する近衛としての品格はまるで足りていないが、それでもエドガーは仲間である。この場に、仲間の幸福を妬む者など一人として居ない。誰もがエドガーの幸せを思い、幸運を願っている。


 エドガーは度々彼等を呆れさせるが、彼等がエドガーを見捨てる事はない。


 こんな貴族が居てもいいだろう。


 彼等の胸にその思いがある限り、エドガーが独りになる事は決してない。


 そう、決して、エドガーは孤独ではないのだ。


















「そう、だからよ。あの時ダメだったのは俺の方なんだよ。もっとあいつ等を頼れば良かったんだ。もっとあいつ等を見てやれば良かったんだ。貴族だからって、拒絶して、壁を築いて、頼ろうとしなかった。頼ってもダメだって、勝手に思い込んでいた、いや、思い上がっていたんだ」


 静閑な懺悔室の中で、誰も居ない壁の向こうへ言葉を投げる。無精髭を生やし、薄汚れた、逃亡者然とした身形で、エドガーの告解は続く。


「あいつ等は俺が何を言おうと何をしおうと、俺を見限ったりしなかったろうよ。そんなあいつ等を裏切って、勝手に見限ったのは、俺の方なんだよ。あの人は、隊長は、俺に殺されるまで、いや! 殺されても、俺の味方で居てくれてたんだっ! それを、あんな、あんな……」


 当時を思い返し、抑えられない程に感情が昂ったのか、エドガーは両手で顔を覆った。涙に濡れた声のまま、告解は続く。


「謝れるなら謝りてぇよ。どうして、こんなになるまで気付かねぇんだよ。どうして、こうなるまで信じてやれなかったんだよ」


 教会の外から、甲冑を着込んだ者達の足音が聴こえてくる。十中八九、自分を捕らえに来たのだろう。そう思うには十分な足音の数だった。


 きっと、その中にはあの表情の読めないミリュームネル家の者と、兄達アーベルングの者達が居るだろう。


 ミリュームネル家のあいつは、父にけじめを付けろと告げていた。きっと、処刑は免れないだろう。何かと世話をしてくれた兄達にも、随分な迷惑を掛けた。なんて不孝者だ。嫌になる。


「……最後に、一つだけ願いが叶うのなら、どうか、やり直させて欲しい」


 そして、懺悔室の扉が開かれる。

 作者

「脇役小物屑は、救いの手を振り払い、踏みにじるから自業自得となる。つまりはそういうあれ」

 友人

「ん? エドガー編終わり? 勇者と絡んでないじゃん」

 作者

「あー、実は練り直した部分って、シスターのところなんだ。元々の脳内プロットに彼女居ませんはい。んで、長くなったから一旦視点を主人公くんに戻します。本当は聖女の力がなんで突然上がったのか、まで書きたかった」

 友人

「大丈夫? その脳内プロット破綻しない?」

 作者

「問題なし。それよりも主人公くんのお話をきたんと描写できるかが心配。友人の要望にあった手紙イベントだぜぃ」

 友人

「わーい、待望のテンプレだー、嬉しいなー。絶対にこいつテンプレ外してくるよ」

 作者

「どうだろね」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ