番外編 屋敷とキャミソールと豚汁
ゲームであるグリモア。
作品の設定としても存在し、そして志人の世界にも存在していた概念。
「暑っち……」
ゲーム、と言うよりも今の彼からすると似て非なるこの異世界にでも四季の存在していた。
元の世界である日本は時の流れが同じなのであれば今現在季節は冬、もう一月に入っている頃だろう。
だがこちらでは夏真っ只中だった。
起床した彼が額に浮かぶ玉の様な汗を腕で拭った後、漸く最初に口からこぼれたのは小さな訴えだった。
そして図らずも、志人がこの世界の住人となった日から既に、十日が経過していた。
駄々をこね、エルと志人の二人を困らせたマイと、最後の最後で追い討ちをかけたエメラ、
その騒動の日から特にこれと言った事も無く、
此方に来てから初めてではないだろうか、平和に過ごしていた。
「何も起きないのはいいけど、暑さも出来れば……。……窓開けるか」
ベッドから出て部屋の換気をする為、全ての窓を開けるが、
ここ最近は窓から見る景色を楽しむ余裕なんて無い、日差しが強すぎる。
窓を開けるだけの本日最初の任務だが、起きてすぐの行動、そして夏特有の猛暑により寝ている間に汗をかき過ぎていたのだろう。
暫くぼーっと立っていると軽い立ち眩みに襲われ、体は水分を欲していた。
まずは水分補給をしなければとは思うが、台所は一階にある。
「あー……。面倒臭い……」
降りるのも面倒だがフラフラしている状態の体に渇を入れ、
とりあえず部屋からの脱出を果たし、一階へと降りる。
そして台所に着くや、瓶に入った水に直接口を付け、身体の中に流し込む。
水分も補給し、徐々に弱っていた身体に力が戻ってくる。
「一息ついたな。とりあえず今度から寝る時は水を持ってくか……。次はトイレにでも……」
次は用を足す、という事で俺はトイレへ向かったが、トイレの扉の隙間から光が漏れている。
「あれ、昨日明かり消し忘れたっけ……。うわ……」
単純に消し忘れてしまっていたのかとそのまま扉を開くが、中を見て驚いた。
夜中に起きてトイレに入るが用を足した後そのまま寝てしまったのだろうか、
便座に座ったまま寝ているエメラの姿があった。
志人に対しては強く当たる事も多い印象のエメラ。
ここ最近仕事が終るとすぐに彼の屋敷に来ていた。
来ると決まって、酒に強いわけでもないのに飲み始める、挙句絡み酒。
絡まれていた志人がそのまま酔って寝てしまった彼女を寝室に運ぶという事を繰り返していた。
とりあえずパッと見た感じでは幸い、絵的に不味い姿ではない事に自分は安堵したが、
こういう事に慣れてきてしまっている自分に危機を感じる。
「何か一つぶっこまないと気がすまないのかこの女は……」
と俺は目の前で寝たままの彼女に対し不満を垂らす。
「おい、起きろって。寝るなら自分の部屋に戻ってくれって」
肩を揺らすが、くぐもった声を出すだけで一向に起きる気配を見せなかった。
普段の彼であれば放置もしていただろうが、先ほどまではまだ我慢も出来ていただろう尿意は
急を要する物となっていた。
次第に声に焦燥感を混じらせ、
「クソ領主! 早く起きやがれ! おおおおい!」
焦りからか先程よりもさらにエメラの肩を激しく揺する。
「痛っ! 起きる、起きるから静かに、そして揺すらないで。頭が割れるわ……」
暫く志人により肩を揺すられていたエメラは、
起きたかと思うと両の手で耳を押さえながら彼女は二日酔いで青くなった顔を彼へ向ける。
だが今はそんな事は気にしていられない志人は構わず続ける。
「そこを退けって! 早く出ろ! お前が出てくれないとこっちが出る!」
「痛い痛い痛い……! 大声出すなっていってるじゃないの……!」
大声を出され苦しむエメラと早くトイレから出て行って欲しい志人。
いつもなら仲裁役になってくれるエルが居る時間だが、彼女は自分の店がある為ここ最近は屋敷に来ない。
暫く口喧嘩をしていた二人だったが限界に来ていた志人が無言になり、
そして中からエメラが出たと同時に、事は済んだのだった。
「何よ、トイレに入りたかったのなら最初からそう言えばいいのよ」
「最初から俺はお前を退かそうとしてたっての! 大体なんでこんな所で寝れるんだよ!」
「うっさいわね! 気付いたら此処に居たのよ!」
「どうせ夜中にでもトイレに起きて、そのまま寝ちまったんだろ!」
「そんなの私くらいの歳の奴ら大体やらかしてるわよ!」
用を足し終えた志人とエメラの口喧嘩はエメラの余計な一言によってまた再燃したが、
エメラの返した言葉にいやいやいや、と返す。
「お前くらいって……。人間で考えるともう大往生か、生きてても老人だぞお前……」
「はっ! 短命な人間種と一緒にしないでちょうだい」
「あー……わかったわかった」
流石にそろそろ稚拙な言い合いになって来ているなと気付き、俺は落ち着かせる。
もう既に用も足した事だし、何故言い合いをしているのか分からなくなっていたのだ。
「なんかこう煮え切らない感じねぇ。よく分からないけど、もう終わりって事でいいのよね?」
志人が冷めたおかげでこの言い合いはあっさりと終了した。
この二人の言い争いはエルが居ないと、大体こんな感じの流れで終わる事が多いのだ。
「で? アンタなんか二日酔いに聞く薬とか出せない? ズボってやつで」
と、今だ痛むのか片手で頭を押さえ、エメラは志人に聞く。
「なんか嫌だなぁその擬音……。そんなピンポイントのは無いな、今度からは酒を飲む前に牛乳を飲んでおけ」
「そうするわ……」
「とりあえず飯用意するから、その前に軽く風呂入って来い。まだ酒臭いぞ」
「そうね……」
頭に生えた羽がいつもと違い寝てしまっている、相当参っている様子で着替えを取りにでも行ったのだろう、部屋に戻っていった。
辛そうな彼女に対し、志人にはどうする事も出来ない、二日酔いになどなった事も無いし、まだ未成年の彼は一度も酒を嗜んだ事も無いのだから。
彼女が温泉に浸かっている間、俺は二人分の朝食の用意をするために台所に入る。
まだ此方に来てまだ短いが、実質あのエメラと二人で暮らしているような現在だが、
食事の用意は全て自分がしていた。
初めは不満に思っていたが今はまったくそう思わない、寧ろ自分がやらなければと言う使命すら感じる。
勿論最初からそう思っていたわけではない。
ある日いつものように酒を飲んで、愚痴を吐くだけ吐き、毎日泊まって行くだけのエメラに言った事があった、
「お前もこれだけ泊まるんだったら、たまには食事の用意くらい変わってくれ」と当然の主張をした。
「え? そうね、そのくらいなら別にいいわよ」
そんな俺の言葉に対し、彼女は意外にもそれを受け入れた。
だがそれは今思えば間違いだった。
書くまでも無い。彼女が此方に出した物としては、暗黒物質……、
という事も無くただのカプセル。それは栄養摂取の目的だけを果たすだけのサプリメントだった。
食べれない物が出てくる事も覚悟していたが、それよりも先にここにもサプリはあるという事に、
そしてそれを食事に当たる物として出すエメラに俺は驚いていた。
「忙しいときはこれがこれが一番良いのよ。食事なんて満足に取れない時もあるんだから」
「その割には毎日決まった時間に俺の家に来るけどな……。というか、こんなのばかり取ってたら逆に体に悪いぞ?」
俺はそんな、間違った意識高い系のオフィスレディのような、まぁ普段の格好からすると間違っていないがそんな物を普段から摂取しているだろうエメラに対し注意をする。
「でも良いのよ? これ」
「こういうの取るなら片手間に食べられる物を持って行っておけよ。それにお前の場合飲むなら下剤だろ」
「そんなのいつも飲んでるわ! もうそれが食事なんじゃないかってくらいにね!」
「何でちょっとキレてるんだよ……」
「そこは本気で悩んでるからよ! っていうよりもご飯の時の話じゃないわ。汚い」
下剤も一応身体には悪いんだけどな、と思いつつも俺はそこを指摘しなかった。
だって何をされるか分からないんだもの。
とまぁ、知った所で特に何も無いお通じ事情は兎も角、エメラの食事情を知った俺は最初の主張を取り下げ、この家での彼女へのエサやりは俺の担当となったのだ。
「普段から美人だ麗人だと主張するなら食生活から改善しろっての……」
この世界に来てから増えたかもしれない愚痴をまたこぼす、当人が聞いていたら新たな火種にはなっていただろうが幸いまだ降りてくる様子はなかった。
食事の用意を再開しよう。
準備は至って簡単。
一.人数分の器を用意。
二.インベントリから消費アイテム、料理の中から期限が近い物を選択
三.ウィンドウの端を掴み、器の上で振るだけで、選択した調理済みの物が出てくる。完成である。
こういう時、世の出来るイケメン達は手軽にささっと旨い物を作るんだろうが、
そんな事、俺には出来ない。
レンジで暖めたコンビニの弁当を皿に盛るのと殆ど変わらない工程を済まし、出来たソレはただの豚汁定食セット。
何かのイベントで大量に配布された体力回復系のアイテムだったのだ。
すばらしい事にたくあんまで付いている。
それを二つ、両手に持ちリビングへと運ぶ。
家具はそのまま前の住人が置いていった物をそのまま使っている。
何時だったか家具を買う名目で街に繰り出した事もあったが、その時は訳あって買う時間など取れなかったのだ。
今にして思えばリビングとして使っているソファと暖炉のある部屋のテーブルは買い換えれば良かったのかもしれない。
「そこにもしかしたらソファも追加だな。やめろって言ってるのに虫食い穴に指を突っ込む奴がいるから……」
エメラと、それを真似するマイである。
長い時を経た事で痛んではいたが状態としてはまだ使えていたソファも、彼女達の手によってボロボロだった。
手にしていた食事を、これまたガタの来ているボロいテーブルの上に置いた後、件のソファに腰を下ろし、彼女の帰りを待つ。
二階程の暑さを感じない一階であっても、ただジッとしているだけでも肌から汗が滲み始める。
換気をする為に庭を望む大きなガラス窓を彼が全て開くと、涼しい風が部屋に入ってくる。
だがすぐに涼しくなるわけでもない為、
「はぁ……クーラーが恋しいなぁ。ログとか……無理か。メカニックってわけでもないし……」
一人掛けのソファを開け放った窓へ向け、そこに座ると元居た世界の利器に思いを馳せてた。
しばらくの間茹だっているとリビングの入り口の方から足音が聞こえた。
「来たわよ……あ、窓開けたのね。温泉が熱いから、十分涼しく感じるわね」
風呂から上がった、キャミソール姿のエメラが入って来たのだ。
普段の彼女は志人にしてみればマイナスのイメージが多いものの、容姿に限っては美女のソレだ。
油断を見せる彼女に対し、彼はまだ若いし当然来るモノもある、が。
「熱が冷めたら早く服着てくれよ? 一応目の行き場に困るんだから」
以前にも同じような場面があったのだが、その時は照れが入ってしまい、普段のお返しとばかりに志人は散々エメラに弄られ、それ以来彼は表情に出さなくなった。
だが内心は穏やかではない。
そんな気も知らず涼むエメラを一瞥し、俺は溜息をついた。
「もう飯の用意は出来てるから、先に食べててくれ。俺はもう少し涼む」
「あら……。じゃあ今日も私出なきゃいけないから、先に頂くわ」
そう言って彼女は先に食卓へと着くと、早速豚汁をスプーンで掬うと口にする。
「初めて食べるけど、私これ気に入ったわ」
「そりゃよかったな、てっきり、まぁまぁね、とか言うかとおもったわ」
中でも里芋が気に入ったようだ。
食事を続けるエメラを見て、志人はずっと気になっていた事を彼女に聞く。
「そういや何でだか分からないけどずっと此処に泊まってるよな? そろそろ自分の家に帰らなくてもいいのかよ」
出会ってからずっと、志人の家で寝泊りする彼女は家に帰る様子が無かったのだ。
志人はそんな彼女を不思議に思っていた。
「家には前、アンタが街の探索だって私達と出かけた日に一度帰ったわよ?」
「いやでもあの日ってお前もう酔っ払ってただろ」
「その前よ。ほら家出る前にもう朝には私達居たでしょ?」
「そんな前からかよ。俺が此処買ってから一日も経って無いじゃないか」
「二人にお願いして私の家の物を運んで貰ったのよ。あ、ちゃんと二人には給金を弾んだわ」
「そんなの知るか! なんか最近物が増えたと思ったら……。俺、エルは味方だと思ってたのになぁ……」
「私が無理にお願いしたのよ、あまり二人を責めないであげてちょうだい」
今まで妙に毎日来るなぁと思っていたから聞いては見たが、第二の住処にでもされるのだろうか。
そこまで今と変わらないな。
「で? 最近忙しいみたいだけど、それが終ったら自分の家に戻るんだろ?」
一応ここら一帯の領主でもある彼女はちゃんと家持ちだ、
遠方にある実家では無く、あくまでエメラ個人がこの街で所有する住居である。
今現在この屋敷の持ち主である志人に対し、何も言わないでここまでの事をしたエメラに対し、少しの間だけであれば良いか……と軽く考えていた。
「私の家、今売りに出してるわよ?」
が、そんな志人の考えはエメラの言葉で崩れる。
「えっと。何を言ってるのかわからないのは俺なんだけど……」
もう怒る気すら湧かない。
コイツは何を言っているんだろう。
「だから私の家はもう売りに出してるのよ。それに、家ならもう此処でいいしね」
「売りに出してって……。此処に住む為にか? 俺はまだ何も聞いてないぞ」
暫く何事も無く平和を満喫していた志人はまた彼女によって乱される。
「今言ったわよ? それに、アンタの言いたい事も分かる。勿論タダで住むとは私も言わないわ」
「家賃でも入れてくれるのか? 言っておくが、金には困ってないぞ俺は」
(エル曰く、ここで一番の金持ちは俺らしいしな……)
「でしょうね。だから、この、誰もが羨む美しい身体を持つこの私を一回だけ、好きにしても構わないっていう権利をアンタに譲るわ……!」
赤く顔を染め、エメラはそう志人に申し出るが、
彼はこれ以上無いほどゲッソリした表情で返す。
「お前の中での俺はどれだけの鬼畜野郎だよ。そんなのいらないし、嫌だぞ」
そんな返しをする志人に対し、彼女はこれ見よがしに溜息をついた。
「よく考えなさい? これだけ広い空間でアンタ一人で寂しく暮すより……」
「別に構わないけど。うん」
「異性と一緒にこのトンジルを食べて暮す、甘酸っぱい生活のほうが華があるとは思わない?」
「甘酸っぱいって言うか……。今の所、酸っぱい臭いか酒臭さしか感じた事ないけどな」
酸っぱい臭いは胃液的なアレだ。
余程気に入ったのか推して来たが、毎日食べるつもりなのだろうか。
この女と住むだけで死ぬまで豚汁を食わされるのか? 冗談じゃない。
「今の所、華っていうか鼻のダメージがすげぇんだよ、それに百歩譲って……」
まだ続けようとしたがエメラによって遮られる。
「あーはいはいもう終わり! 全く男の癖に文句が多いわね……。でも、もう決定事項だから。私はもうここから出て行く気は無いし。それとこれ」
エメラが言い終わると不貞腐れている志人に何かを差し出した。
渡されたそれは陶器か何かで出来ていて、振ってみると中からチャリンチャリン聞こえる。
小銭か何か入ってるようだ。
「これなんだ?」
「私の貯金箱よ。まだ家も売れてないからそれが実質今持ってるリンド全てよ。
あ、それ割らないでね、その貯金箱気に入ってるんだから」
「割るなって……」
渡されたそれは、投入口こそあったが他に穴らしき物は存在せず、壊す意外中身を取り出す方法などない。
こんな物を渡された俺はどうするのが正解なのだろうか。
それに答えたのは渡した本人のエメラだった。
「一応担保として持っておいてちょうだい。家が無事売れたら渡すから……と、ちょっと話が長くなったみたいね」
まだ言ってやりたい事があったが、
いつの間にか食事を終えていたエメラは一旦この会話を切り上げ、
「私、もう着替えて職場に向かうから。それとアンタも早くご飯食べちゃいなさいよ」
自分はまだ手を付けていない食卓を見た。すっかり豚汁は冷めてしまっているのかもう湯気が見えない。
視界の端でエメラが片付けた食器を流しに置いているのが見える。
領主と言えば裕福だろうし、実家にでも帰ればこういう事は雇った手伝いが下げてくれるだろう。
親の教育が良いのかはわからないが、こういう所はしっかりとしている。
「はぁ……。帰ったら色々決めるからな?」
皿を濯ぎ終わり、リビングから出ようとした彼女に俺は声を掛けた。
間接的にではあるが、エメラが此処に住む許可を出したのだ。
直して欲しい所は色々あるが、特に今までと変わらないのだから別にいいやと、思ってしまったのだ。
それに、口は悪いが、此方と遠慮無く言い合う事の出来る相手であるのも許した理由だ。
決して風呂から上がった後の、露出高めな格好を見てそれを決めたのではないと思う……。
いや多分それも理由の一つだ。
「ふふ、分かったわ。帰ってから続きをしましょう」
彼女にも伝わったのだろうかは分からない。
エメラが着替える為、部屋に戻った後、すっかり冷めてしまった朝食を食べていると階段を下りてくる足音が聞こえ、リビングの入り口付近で止まった。
「それじゃ、行ってくるわね」
すっかり仕事服でもあるオフィススーツを着たエメラがそこに立って居た。
風呂上りの時は下ろしていた髪も、いつもと同じように後ろで団子にして束ねているのが分かる。
「帰り遅くなるなら、もしかしたら俺寝てるからな。鍵は閉めてくれよちゃんと」
「分かってるわよ。その時は軽く何か食べるから気にしないでいいわ」
いつもは志人の言葉に棘を感じさせた物言いの一つもあるのだが、今日は何も無かった。
よく分からない感覚を味わっている彼。
「それじゃ。もう行くから」
そう言って、玄関に向かおうとするエメラ、
「ああ、行ってらっしゃい」
その後ろから志人がそう送り出す。
てっきり断固として反対されるかと思っていた。
家を売りに出しているなんて真っ赤な嘘。いや、遠回しにだが許しは得たのだ、今日売りに出す。
まだ出会ってまだ日の浅い相手に、私はどうして此処までしているんだろう。
エルから聞いた彼に関する話の中で出てきた、
似た別の世界からの客人という所に興味が湧いたのか、
それともただ単純に、あの男は私をこうするほどの魅力でもあるのだろうか、冗談でしょ?
(でも、もう少し調べるという意味では彼を知りたいと思っているのは事実か。今頃になって、いい歳して……笑えてくるわ)
思わず自嘲してしまう。
もう考えるのは終わり。顔をさっさと引き締めて、さっさと館へと向かわねば。
今日もきっと忙しくなるだろうから。
いつもの外向きの表情とは違い、自然に浮かんだ笑みも隠さず彼女は歩むペースを速めた。
立ち並んだ街路樹の一本に隠れ、志人が所有する屋敷を見続ける視線にも気付かぬまま。
次回更新は1週間後を予定しております。
【現在2017/12/01/13:10】
嗚呼、文章力をオラに下せぇ……。
今回のこれはエメラ回です、ハイ。
今後の物語に関係してくるのは最後の方だけです。それまでは普通にエメラとの絡みだけでした。('-')