② 外に出れれば良いんです。
――私達の鉱石の収集作業は難航していた。
そのせいもあったかもしれない、一緒に作業をする友人はツルハシを何日も振り続けていた。
彼女が着ている作業服の中はきっと汗でビショビショだろう。
私はまだ良い、ただの選別作業だから。
鉱物が好きな私は時折垂れそうになる涎を拭いながら、出てくる鉱物達の選別作業をしていた。
一応睡眠と食事は十分に取るように彼女には言ってあるし、
なによりも私自身、彼女が心配で付いて来たのだから、私がしっかりしなくては。
作業を初めて経過した日数は初日からもう、三日が経過していた。
――そして4日目
「ぎゃああああああああ!」
先程よりもしっかりと、又、はっきりと聞こえた、
男の人の悲鳴が…。
「えぇぇぇ!?」
素っ頓狂な声を上げる彼女と、
「…」
他人が見たらきっと間抜けな顔をしているだろう私。
きっと私達が掘っていたせいで崩落が起きたのだろう、
おーい、おーいと未だに大声を上げてる少女の後ろに立つ彼女は不安に駆られる。
数十分後、崩落も落ち着き、今ではパラパラと砂埃や小さな石ころが落ちる程度に収まった。
中に居たであろう人がどうなってしまったのか、
今の崩落では、先ほど悲鳴を上げていた男の人はきっともう助かってない。
そう思い込んでいた私の横から、
「あんたらか!! 俺を生き埋めにしようとしていたのは!」
信じられなかった、本当に中に人が居たのもそうだった、
けどそれ以上に無傷でそこに経つこの人は何者なんだろう。
だけどそんな事を思っている私とは別で、
ウキウキとした表情で我関せずと、数日ツルハシを振りっぱなしで疲れているはずの彼女は、
崩壊後をちょこちょこと走り回っている。
「やっと外に出られたと思ったら、死ぬかと思ったぞ!」
「申し訳御座いません! 本当に申し訳御座いません! あの、お身体は…?」
「あ? あ、あぁ身体は別になんとも無いが、
出しっぱなしにしてたランタンなんかは多分もうダメだなー」
「べ、弁償します! ちゃんと弁償しますから! 申し訳御座いませんでした!」
私は心から謝った。なんとも無くて良かったと私は安堵した。
「ああ、いいよいいよ、別に大したもんでもないし……それに結局なんともなかったしな」
「でもそんな……」
死に直面しただろう目の前の彼は困った顔で頬を掻いている。
本来その表情は私のするはずの物なのに。
「エルー! エールー!」
すると彼女がなにやら興奮した声色で私を呼ぶ、
崩落跡で何かを見つけたようだった。
「こんなのあったー! 売れるっ…かなっ…!!」
唸りながら小さな岩を持ち上げようとする彼女は私に手伝いを求める。
気になった私と彼は岩の下を見ると下敷きになったままの短刀を見つけた。
「あぁそれは無事だったんだな」
「あなたの持ち物ですか? あれだけの崩壊があったにも関わらず、
折れてもいないし、欠けてもすらいませんね……コレは一体……」
どうやら彼の持ち物だったらしい。
だが今私が気になっているのは目先の短刀だった。
「これお兄さんのなの?」
「あぁ、この洞窟で閉じ込められてる時に魚を捌くのに使っていたんだ」
「いいなー、いいなー! こんな頑丈なの見た事ない!」
目をキラキラさせながら、彼女が短刀を見つめている。
その横で私もそれを見続ける、どんな材質なんだろう……と。
「なんなら譲るよ」
その言葉を聞くと同時に飛び跳ね、いつのまにか退かしていた岩の下からそれを持ち上げ、
「ぃやったー! もう私の物ー!」
「えぇっ!? 羨ましい……。じゃなくて! 良いんですか? 凄いものなんじゃ……」
「いやいやいや、それは俺が前に鍛治スキルで試しに……、いやなんでもない、特に高価な物ではないし気にする事はないよ」
「そうですか……」
特に高価な物ではない? そんな馬鹿な事があるのだろうか、
少なくともこれほどの耐久性を持った短刀が高価ではないなんて事はあるはずが無い。
「あぁ、その代わりと言ってはなんだが、ちょっといいかな?」
「…あ、はい! なんでしょうか。」
「此処らへんに詳しいプレイヤーなら、ここらへんに住めそうな街があれば教えて欲しいんだ」
「プレイヤー……? あ、いや街への案内であれば、
住めそうな所も私なんかでお役に立てれば……」
この人は何を言っているんだろうかと、思わず私は首を傾げるが、
「いやぁ、俺、たった今住む所が無くなっちゃってね」
彼の居場所を奪ってしまった事を私は知ってしまった。
再度、私は深く腰を折ったのだった。