人体実験
今回のオークションは雰囲気が違います。
今度のオークションは、おかしな雰囲気だった。販売の前に血液検査や魔力検査など様々な検査があった。俺が女であることには誰も気を払わず、ただ妊娠していないかどうかだけチェックされた。
オークション会場に集まったのは、知識人階級みたいだった。どことなく皆理知的な顔をしている。
そしてそいつらの一番の関心ごとは俺たちの健康状態だった。何が起こるのかとドキドキしていたが何事もなく競りが終わった。
俺を買ったのは妙な女性だった。牛乳瓶の底みたいな眼鏡をかけて、たくさん書物を抱えていた。
「私はドクター・アレクサ。さて、あなたを買った理由を説明するわね」
家に帰るとすぐに女性からの説明があった。
「あなたは、快楽薬を二月にわたり投与されていた。この事実に相違ないかしら?」
俺の人生が始まってからは一月だが確か二月だったはずだ。もっとも当時のことはほとんど記憶にない。
「当時の記憶はほとんど残っておりませんが、おそらく」と俺は答えた。
「まずは、あの薬は一般に無害と言われていますが、本当に無害なのかをあなたの体で調査します。そのあとは、私の研究のための実験に協力していただきます。」
アレクサは医者らしかった。しかも、実験が終わったら俺を自由の身にしてくれると約束してくれた。(ただし、実験の過程で死ぬ可能性があることも説明してくれた)。
アレクサは俺の体の状態を毎日のように観察した。健康診断と思えば退屈ではあるもののまあ、悪くはなかった。恥ずかしいところをつぶさに観察されるのは恥ずかしかったが。
アレクサはこう結論付けた。
「やっぱりあの薬は後には残らないようね。不思議だわ。大体の快楽薬には副作用があるのに」
次の日アレクサが言った。
「これから私の研究を説明するわね。私の研究テーマは人の体力・回復力増強よ。つまり、切られても傷がふさがるとか、血が勝手に止まるとかそういうのね」
俺は頷いた。
「それであなたには、不死鳥の一部を移植します。この実験がうまくいった暁には、あなたは、多少の怪我では死ななくなります。また、年をとるのも遅くなるでしょうね。ただし、たちどころに傷が回復するとか、死ななくなるとかそういうのはないわ。いくら不死鳥 でも一部だからね」
「わかりました」
アレクサは真剣な表情になると言った。
「あなたには拒否権を与えます。もし嫌なら、普通の体のまま生きて行きたければ、私の研究に付き合う必要はないわ。もちろん、協力しなくても奴隷からは解放します」
「いえ、奴隷の身から解放してくださったこと、深く感謝しています。だから、あなたの研究に協力したいのです」
「そう。ありがとう」
無論俺の決断の裏には、後9か月俺は死なないだろうという推測があった。
次の日、術式の前にアレクサが効いてきた。そういえばあなた、名前はなんていうの?」
「ありません」
「ない?」
「はい。親は私に名をつける事なく亡くなり、その後も誰も私に名前をつけようとはしませんでした」
「そう。術式が無事に終わったらあなたに名前をつけてあげる。私からじゃ嫌かしら?」
「いえ、とても嬉しいです」
「そう。あなたとは良い友達になれそう」
「うん」
そういうと、アレクサは俺に麻酔をかけた。
「目が覚めた?」
アレクサが聞いた。
「はい」
「実験は成功したわ。あなたの体には不死鳥が宿っている」
「不死鳥の力……。ありがとうございます」
私とアレクサの間の関係は、奇妙だった。
「ふふ。今日から論文を書くために眠れない日が続くわ。それで、あなたの名前なんだけど、フェニカってどう? フェニックスから取ったのだけど」
「ありがとう。フェニカ……。アレクサ、大切にするね」と私は言った。