獣人のさらなる絶望
「まず、確認しておきたいことがあります。人間はどこまで知っているのですか?」
「帝国では、千年戦争の七英雄より前の話をすることはない。支配者も今日初めて聞いた」とウェルが答えた。
「事実だ。現代の人間の元老院議員で真相を知っているものはおそらくおらんだろう。制度上露骨な話だから聡いものなら気づいているかもしれない。ただ、私は戦争が終わってから話したことはない」と賢者ミラドリスが補足する。
「そうですか。ではこの話を知らないみなさん、と言っても4人だけでしょうか? 特にアリシアさんとアダムさん。疑問に思ったことはありませんか? なぜ人間の議会である元老院に獣人の席があるかを」
「え、他の種族は元老院に席がないの?」とアダム。
「千年戦争での功績をたたえてじゃないのか?」とアリシア。
「他種族に席はありません。千年戦争での功績をたたえて、というのは一面の真実ではあります。しかし本質ではありません。帝国元老院は、帝国の意思決定を行う場ではありません。帝国の『人間』の意思決定を行う場です。
帝国の最高意思決定者は皇帝陛下ですが、非常時の事案以外は拒否権を持つ者がいます。その拒否権の行使、及び皇帝陛下への様々な進言を行う場が『六種族会談』です。先ほどの話に出てきた六種族です。この『六種族会談』は、皇帝陛下、魔貴族議会代表とアルファ家が会談をする場です。たまに、獣王や人間の王も呼ばれますが、それはあくまで皇帝陛下の補佐として、です。当然拒否権はありません。
帝国が始まってから3回だけ、アルファ家とともに風の民のドラゴニア家が参加したことがあります。帝国始まって以来拒否権の行使が認められたのはわずかに4回だけですが、そのうち3回はドラゴニア家によるものです。余談ですが、魔貴族議会の7氏族は内乱が絶えず、代表を送れないことが多いです。また、魔貴族議会の拒否権は全会一致っでなければ行使できないと決まっているので、一度たりとも魔貴族議会が拒否権を行使したことはありません。
ここまで良いですか?」
「ミネルヴァさん、その話さっきの質問とどう絡んでくるの?」と聞いたのがアリシア。
口に手を当てて目を見開き、蒼白になっているのがアダムだった。
「なぜ拒否権は4度しか行使されなかったのですか?」とウェルが聞いた。確かに、1400年で4回は少なすぎる気がする。
「それは、ほとんど常に皇帝陛下が非常時大権を持っていたからです。要するに、拒否権とは名ばかりなのです」とミネルヴァが答えた。
「ちなみに、俺たちが3回も拒否権を行使できたのは、俺たちにとっての大問題のほとんどは奴らにとってどうでもいいことだったからだ」とヴァンが補足する。
ナレッジ・ハル以外は、皆知った顔だ。この世界では暗黙の常識なのだろうか? いや、でもリベルタス様ヴァンのこと知らなかったし、知ったかぶりかもしれない。それにしても、今の話からすると獣人ってもしかして……。
「他にも疑問に思ってしかるべきことはたくさんあるのです。なぜ獣人は百年の寿命を全うできるものが少ないのか。なぜ獣王を決めるのが獣人ではなく獣神なのか。なぜ士官学校の入学生の2割は獣人なのに特待生のほぼ全てが人間なのか。
「もうやめて」アダムは耳を塞いでいた。
アリシアも涙を流していた。
執拗な獣人いじめ




