ナレッジ・ハルの疑問
「先に私が答えます」ナレッジ・ハルが抑揚のない言葉を紡いだ。「私が風の民を知っているのは……、私が生きていた時代がはるか昔だからです。アンデッド時代の私は休眠する能力がありました。誰かが近づくまで千年、二千年くらいなら眠りにつけます。記憶はあまりありませんが、おそらく、あなた方が千年戦争と呼んでいる戦争の時代でしょう。あの戦争は千年で終わったのですね。よかった。無事に和平も結べたみたいですね。」機械的な声だが、本人は安堵しているようだ。
「よかっただと?」ウェルが言う。「千年も続いたのだぞ。しかも和平も結べておらぬ。敵は全て葬り去った」
「千年がどうしたというのです。それに、和平を結んでいない? では、そちらの魔族の方は?」ナレッジ・ハルはレイを見た。「捕虜でしょうか?」
魔族が敵? どういうことだ?
レイが口を開く。反論するのかと思ったら何かよく分からない文言だった。
「『地の裂け目より異種族現る。異種族、我ら21氏族のうち14氏族を滅ぼす。残った7氏族は和平を請うた。異種族、認めず。我ら7氏族、全滅を覚悟す。その時、龍現る。龍は世界を割き、世界を繋いだ。異種族の戦士は異界に消え、異種族の奴隷5種族が残された。龍曰く「我平和を司るもの。悪しきものは地の底に去った。汝ら手を取れ。我汝らに平和を与える。我汝らの力を整える。我汝らの寿命を整える。我汝らの命を整える。我汝に神を与える」我ら6種族、手を取りこの地を復興せん』」
みんな聴きいっていた。
「誰かこの伝説知ってる?」
「立場は違いますが、エルフには似た伝説が伝わっています。もちろん支配者のことも」とミネルヴァ。「風の民にも」とヴァン。「ただ、風の民とエルフの伝承は混同している部分がある」と注釈をつけた。
「他は?」とレイが聞いたが、誰も返事をしなかった、「そう。意外と覚えている種族は少ないんだね」
「これは、支配者戦争と呼ばれる戦争の顛末だよ。正確な時期は知らないけど」とレイが言うと。
「終戦が今から数えて約3500年前だと約2000年前のノームの学者が分析しました」とミネルヴァ。
「だから、その人、3500年前の人だよ」




