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小人の王

「改めて自己紹介するぜ。俺の本名は、ヴァンパニオン・ドラゴニア。これはいつもみたいに名前を変えているのではなく、本名だ。すまなかったな、俺たちの間でも、名前はコロコロ変わるものじゃない」

 ウェルはムッとした表情だ。賢者ミルドリス様も何か思うところがあるかと思ったが、ナレッジ・ハルのことで頭がいっぱいだったようだ。話聞いてるのかな?


「まあ、女神様とそこの二人」そう言って私とレイの方を見た。「その3人の方が俺より重要な話を知っているみたいだからな。俺から話すぜ。くだらない話だが我慢して聞いてくれ」


「まず、街中で俺たちがまともにしてるのを見たことあるやつ、どのくらいいるかね?」


 皆が顔を見合わせた。誰も見たことがないらしい。


「俺たちがどのくらい長期間一つの街にい続けるか知っている奴は? 俺以外で単独行動していない小人を見たやつは? 俺たちの子どもを見たことがあるやつは?」


 また、皆が顔を見合わせた。この世界に来てから、小人は見たが、一人で、しかも追いかけられるところしか見てない。


「そう、俺たちは、常に阿呆のように動き回り、法を守らない。しかし、捕まらないギリギリの線を生きる。そういう生活をわざとやっているんだ。俺たちは、街を作らないと思われているが、それも間違いだ。人知れず街を作っている。俺たちの人口は帝国推計のおよそ3倍くらいいて、人の街にいない俺の仲間は、そこで真面目に暮らしている。

 帝国のほとんどが俺たちの存在には注意を払わない。何人か協力者はいるがごくわずかだ」


 皆が皆、顔を見合わせていた。リベルタスさまですら、驚いているようだ。


「こういった生活の理由は、二度と狙われないようにするためだ。俺たちはドワーフ、ノームとともに絶滅しかけた過去がある。そのため、生活を改め、自分たちの持っている能力を隠した。そして、千年戦争の間中ずっと、人類史から俺たちの歴史を消した。無論、ドワーフ、ノームが絶滅するまでは、俺たちの盟主はドワーフだったが、しまいにはドワーフすら歴史を忘れちまって、俺たちをないがしろにするようになったらしい。そのくらい隠蔽はうまくいったってことさ。戦争が終わったあとはひたすら繁栄を享受した」


「俺たちの種族の名は、風の民(ヴェントゥス)。風の如き速さで走り、生命の神秘を操るもの。俺たちの特技は医術だ」

 ヴァンは、さっきまでと違ってカッコよかった。皆が見る目を変えたようだ。


「そこまで、能力を持っていながら、何故隠れて生きる。帝国のために尽くすとか、あるいは帝国を支配するとか色々できることはあるだろう」


「それは私が説明します」ミネルヴァが初めて口を開いた。「この事実をヴァン本人の口から言うのは酷です」

「ミネルヴァさん、あなた知っていて黙っていたの?」とリベルタス様が聞く。「はい。私たちはエルフ。この世の魔法を守るものですから。風の民(ヴェントゥス)、ドワーフ、ノーム、彼らに共通していたことは、低い身長だけではありません。それだけではこの三種族が手を結ぶことはなかったでしょう。

 彼らは、魔力が一切なく、魔力に対する耐性もほぼありません。一般に魔力が低いとされる獣人や人間でさえ、最低限の魔力耐性はあります。しかし、この三種族は呪われていると言っていいレベルで、魔力に耐性がないのです。だから、人里から魔符を盗み取り、身体中に隠し持つのです」

「さっきは、魔法で攻撃してごめんなっさい。軽く痺れさせるつもりだったの」リベルタス様が素直のヴァンに謝っていた。

「もう一つ、エルフ王家は数少ない協力者の一家です。エルフが小人に手を出すと厳罰に処されます」


 ヴァンは嫌な顔をしていた。

「そういうわけだ。いい話じゃなかったな。その上で二つ聞きたい。どうしてそいつは生きている? それに、なぜそのロボットは俺たちのことを知っていた?」

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