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ナレッジ・ハルの秘密

「まず誰から話しましょうか?」とリベルタス様。また睨み合いになるかと思われたが、賢者ミルドリス様が口を開いた。


「提案したのは私だ。私たちから話そう」


そういうと賢者ミラドリス様は、ナレッジ・ハルの横に移動した。

「ナレッジ・ハル、いいかね?」

「はい。ご命令とあらば」とナレッジ・ハルは答えた。


「ナレッジ・ハルの正体は……。と言いながら、バサーーッとマントを脱がす。そしてナレッジ・ハル自身が仮面を外すとそこにいたのは……


「ロボットだーー」とリベルタス様。「すごい。動いてる。えーどうしてー?」なんか超はしゃいでる。


 私、ロボットが動いたり話したりするくらいじゃ驚かないんだけど……世代差かな?

 中身は、機械と魔法の融合したものだった。本体は中に浮いており、足はない。両手は精巧なロボットアームで、表面のカバーが透明になっているために、中身が動くのが見えた。頭は、人間っぽい造りになっているが、無表情だった。目はカメラとライトになっているらしく。光っていた。鼻の形はしているが鼻はなく、口は全く動かない。


 他の面々の反応は様々だった。ヴァンは中身について予想はついていたみたいだが、動いていること自体に懐疑的だった。レイは、しげしげと眺めていた。中がどうなっているかずっと気になっていたのかもな。魂なさそうだし。残りの人々は、ナレッジ・ハルとリベルタスさまを交互に眺め不思議そうな顔をしていた。


リベルタス様以外で最初に口を開いたのは、ウェルだった。

「その奇妙な甲冑の中には誰が入っているのですか?」そうか、この世界の人にはこれが甲冑に見えるのか。

「それが中身みたいだよ。魂みたいなものが見えるけど、生き物じゃない。性別は男に近い。アンデッドに似てるけどそれとも違う。なんか謎」


「えー、魂あるんですか? ロボットに? 本当に? すごいじゃないですか」

「リベルタス、説明するから少し黙らんかい」と賢者ミルドリス様が諌めた。他の面々は何を言っているのかわからない、という顔だ。私も転生のことはばれたくないので、驚いたふうにしておいた。


「ナレッジ・ハルの体と魂は出自が別での。それぞれ説明するぞ。


 私は昔から、行き場の無くなった魂に体を与える研究をしておった。帝国に『魂の牢獄』刑が出来てからだ」


「帝国歴1023年でしたっけ?」優等生ウェルが年号を言う。

「そうじゃの、そのくらい最近だった。その100年後くらい、正確には1151年から始めた」400年前を最近というかこの爺さん。

「私は当初から『魂の牢獄』には懐疑的だった。しかし、ある事件をきっかけに明白に反対するようになった。あれは人類に執行していい刑ではない」

 私は「魂の牢獄」を思い出して身震いした。そんな私をレイが見ているのに気づいて、そちらを見たら、レイは目をそらした。レイは魂が見えるという。何か知っているのかもしれない。

「今までに執行された『魂の牢獄』刑の数を誰か言えるかの?」

「116件、218人に執行されました」とウェル。「パラディオンの2人が抜けておるぞ。ウェル、いつも言っておるだろう、教科書を信じ過ぎるなと。教科書的な正解は116件220人だ。しかしのう、ウェル、『魂の牢獄』刑が400年で100回を超えて実行されたと本当に思うかね?」

「教科書が間違っているということですか?」

「そうじゃ。一番最近のはもちろんパラディオンの二人だ。パラディオン事件はもちろん数々の衝撃を生んだ。中でも特筆すべきは、面識のないはずの領主が共謀して罪を犯したこと、ドラゴンの営巣地が一つになったこと、アルファ家が長子を失ったこと、ドラゴンの炎を浴びて生き残った初の例が生まれたこと。などなど様々だが私にとって一番の衝撃は『魂の牢獄』刑が執行されたことだ」賢者ミルドリス様は私を見、泣き出したミネルヴァを見、ウェルを見た。

「私は神ではないから、この事件が仕組まれていたことは後から知った」リベルタス様と私は他の者にとっては大きな衝撃だったらしい。

「仕組まれていた?」とウェル。「そんな……姉様……」と言って泣き続けるのがミネルヴァ。あとのものも驚きの表情だった。


「ここまで語って良いんじゃよな?」「はい」賢者ミルドリス様は、リベルタス様に確認する。


「その詳細は、敵の正体にも通じるから、リベルタスに譲るとして……。パラディオンの前の『魂の牢獄』刑はいつだかわかるかの? 無論教科書には載っているぞ、ウェル」


 皆が沈黙した。私だよ私、とは言わなかった。


「答えは、1150年の皇帝暗殺だ。この刑は今年まで250年ほど一度たりとも公的には実行されていない。少し話は変わるが、『魂の牢獄』刑に処されたもののその後を知っているものはいるかね?」


「永遠に牢獄に捉えられるのでは?」とウェル。「だから言っておるじゃろう。教科書を信じるな、と。あれは、都合の良いことしか書かれておらぬ。おそらく『魂の牢獄』刑のその後を知っておるのは、リベルタスと……、レイ、フェニカ、そなたらも知っておるかのう?」

「復讐権……ですか?」と私が答えた。

「そうじゃ」


 皆の頭上にハテナが見えた気がした。

「法律に詳しくないドクター・アスクレス・ジルバは知らなかったのだけど……、あれは法律にはない権利なの」とリベルタスさまが補足した。


「帝国国内では復讐は禁じられているのに、魂の牢獄系に処されたものにだけは、復讐することが慣例上許されている。この理由がわかるかの?」賢者ミルドリスは皆に問いかけた。


「魂を売買するため」レイが答えた。


「その通り。帝国内では、刑に処されたもののその後と称して、魂があちこちで売買されていた。それを元老院は自然なものとするために、刑の数をでっち上げていたのだ」


「その当時の元老院議員の腐敗はひどかった。私の友人が、私の眼の前で『魂の牢獄』に入れられ、体は滅多切りにされた。元老院議事堂の中でだ。そう1150年のことだ。どういうことかわかるかな、ウェル?」

「えーと」

「お前は、応用が利かないのう。たぶんこの場にいる半分くらいのものは意味がわかっておるぞ。のう、レイ」賢者ミルドリスはレイに呼びかけた。私もだいたい何を言いたいのか見当はつく。

「その友人というのが当時の皇帝陛下で、その事件が元老院議員の間で衝撃であり、それ以降は二度と『魂の牢獄』刑は行わないことにし、あなたは『魂の牢獄』に囚われた人を戻す研究を始めた、というところでしょうか」


「その通り、と言いたいところだが少し違う。『魂の牢獄』に囚われた人を戻すのは簡単なのだ。体さえあればな。私が始めた研究は『魂の牢獄』から戻ってきた魂を入れる体を作る研究だ。普通は『魂の牢獄』を使ってすぐに体は壊れる。フェニカの義父、ドクター・アスクレス・ジルバほどの名医でも1日生きながらえさせるのがやっとなのではないかと私は考えている」


「「そうなんですか?」」私とレイの声がダブった。


「あなたたちの疑問に答えるのは後よ。ちゃんと私が答えるから安心して。続けて、ミル様」とリベルタス様が促した。


「なんだ? 私の知らないことでもあるのか?」とミルドリス様が言うのに対して、リベルタス様が「後で私から説明しますから、続けてください」ともう一度言った。

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