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精霊の湖

 闇。


 私は闇の中にいた。


 ニナ、ニナは?


 そう思い辺りをみまわそうにも体の感覚がない。


 死んだのかな、私。


 どうやらニナと一緒の天国には行けなかったみたいだ。


 ごめんニナ。


 ごめんミランダ。


 この間転生した時には、すぐに女神様が迎えに来てくれたのだけど、今回はそうでもないらしい。


 すぐに、何もわからない闇に飲み込まれてしまうだろう。


 私は、自分が消える瞬間を待った。


 ……


 ……


 私には意識があった。異常にはっきりとした意識だ。しかし、動かす体はなく、辺りは暗闇。外界との接触は一切ない。


 私には、一つの恐ろしい仮説があった。それは、転生前の世界で読んだ吸血鬼小説の中に出てきた「精霊の湖」というものだ。その湖は、生前に罪を犯したものの魂を永遠に捉えておく場所。その中で罪人は永遠に後悔し続けるのだ。


 私も今、そこにいるのかもしれない。


 ニナを、ミランダを、みんなを救えなかった後悔。実らなかった恋。復讐を果たせなかった後悔。そういったものを全て抱えて永遠にここで後悔を続けるのだ。


 人生の終着点としてはあんまりじゃないだろうか。私そこまで悪いことしたっけ? 怖く、苦しかった。


 死人の魂は女神様が拾い上げてくださるということはすでに知っている。女神様が何もしてこないということは、ここはすでに悪魔の領域ということおだろうか? 悪魔に魂を売り渡した記憶はない。しかし、悪魔は死人の魂をこうやって幽閉してコレクションしているのかもしれない。


 ニナと幸せな関係になりたかった。肉欲がないとは言わないが、私がニナに抱いていた感情はもっと高尚なものだった。もちろん私は元男とはいえ転生後は女、同性愛に寛容な世界ではあるものの、ニナがそうとは限らない。


 でも、返事を聞く機会くらい欲しかった。もっと言うなら、せめてニナだけは生きていて欲しかった。


 私に力がないばかりにこうなってしまった。


 もし転生できたら、次は本気で鍛えよう。もう二度と誰も死なせないように。



 私は復讐について考えた。結局月島桜への復讐は実らなかった。もっとも、奴隷の身分から解放されてからは楽しかったので、月島桜のことはほとんど忘れていた。今の自分に満足していた。だからこそ、私は次に同じ世界に転生できたら、絶対に月島桜を許さない。


 私を女奴隷に堕とした復讐じゃない。これは、ニナの、ミランダの、みんなの仇打ち。


 もっとも私が転生する気配はなかった。

 

 女神様がこないということはやはり私は悪魔の掌の上にいるか、あるいは女神様に見放されたのだろう。


 ……



 ……



 ……



 何度後悔しても後悔が絶えない。なぜ私はあんなに非力で満足していたのだろう。力がなければ誰も守れない。そんな当たり前のことを無視していた自分が憎い。


 私は…、私は…


 ……


 ……


 長い、気絶したい。もう許して。


 ……


 ……


 突然身体中に激痛が走り、私は目が覚めた。

ところで、主人公の一人称が俺→私に変わっていることに気づいた方どのくらいいるでしょうか?

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