真実(最終話)
ざっと1時間ぐらいだろうか。俺たちがカフェに居て大体そのぐらいが経つ。
恐らく"まだ"バレてないとは思うがそろそろ限界だろうと思っていた
「あ、あの武嶋くん…」
「ん?」
「あの…ちょっとお手洗いに…」
「おう。じゃあ俺ら外で待ってるから。」
「うん…」
俺と黒部と大宮先輩はカフェの外に出て柏崎さんを待っていた。
そこで言葉を発したのは黒部だった
「光牙、ちょっといいか。」
「なんだ?」
「お前…大丈夫なのか?」
「…なにが?」
「……何がって、あの子、柏崎グループの柏崎さんでしょ?」
「なっ…!!」
「…最初は俺と玲も人違いかなって思ったけど、声といい仕草と言い、どことなく似てると思ったけど、今のお前の反応見て確信した。」
「…いつからバレてた?」
「んー…どっからだろ。最初からかな?多分」
「最初からって、待ち合わせしてた時からですか?」
「多分。そうだね。うん。」
「え、じゃああの時の黒部の驚きは演技だったのか?」
「いや、あの時はガチで驚いたよ。こんな可愛い子が世の中にいるのかってな。でもお嬢様なんだからそら当たり前だよな。」
「じゃあ黒部はどこで分かったんだ…?」
「名前」
そう言われて一瞬間の抜けたような「へ?」という声が出たが、それは黒部の言葉で掻き消された。
「あのお嬢様の名前。…いや名前っつーか、偽名?みたいなやつ?名乗ってた時からもしかしてと思ったんだよ。偽名を名乗らなきゃいけねえような場所でもないだろうに、わざわざ偽名を使ったのが引っかかってな」
何だろう。今の黒部は凄く鋭い。まるで某探偵並みの推理力だ。普段はそこまで鋭いことは言わないのに。
「……さて光牙。本題に入ろうか。」
急に声のトーンが変わった。さっきまでの軽いノリではないので本気なのだろうと、それは誰から見ても分かった
「光牙。単刀直入に聞くが、お前はあのお嬢様と俺達と、どっちを選ぶんだ?」
「……え?」
本当に単刀直入だ。いや待てそれ以前に質問の意図がよくわからないのだが。…選ぶ?どういうことだ?
「…理解してない感じか。なら具体的に話そう。光牙、お前があのお嬢様と仲良くするのであれば、俺達とは距離を置いてくれ。…そういうことだ」
「…え…?」
「んーとね、武嶋くん。武嶋くんが柏崎さんと仲良くするのは良いんだけど、それだと私達が困るの。」
「…どうして…ですか?」
「相手はお嬢様だしな。下手なこと言って退学にされちゃ堪ったもんじゃねえからな…」
「武嶋くん。私前にも言ったよね?下手なことすると退学させられるかもって」
「ええ…。でもそれは———」
「とにかく!悪いことは言わないから、柏崎さんとは関わらない方がいいよ。…武嶋くんが退学になっても私達はどうすることもできないし…」
「…光牙。一つお前に教えといてやる」
「なんだよ?」
「お前の性格上、あのお嬢様に依存されかねないから気をつけろよ」
「…は?」
「なんて言ったらいいのか分かんねえけど、とにかく気をつけろよ」
「どういうことだよそれ。ちゃんと説明してく———」
その時だった、まるで話を遮るように、タイミングを見計らったかのように彼女は戻って来た。
「お、お待たせしました…」
「…っ!?ず、随分長いお手洗いだったね。」
「そ、そうだな。…んじゃ光牙、俺たちはここで失礼するぜ。」
「ま、またね〜」
2人には明らかに焦りが見えた。恐らく先程の話を聞かれたと思って焦ったのだろう。
……しかし俺のクラスといい黒部といい、大宮先輩といい、どうして皆柏崎さんを避けようとするんだ?退学させられる?そんなの単なる噂話じゃないのか…?
そんな噂話なんて俺は信じない。
いや、信じたくもない。
だって柏崎さんは、俺の大切な友達だから。
友達を信じることが出来ないならそれは友達とはいえない。だから俺は柏崎さんを信じることにした。そう、それで良かったんだ。
それで…。良かった…はずなんだ…