秘密
俺は焦っていた。いずれバレるのではないかと、焦っていた。
とっさに柏崎さんが妙な名前を名乗ってくれたからいいものの、正直いつバレるか不安である。
カフェに入ってからというもの、俺はそればかり考えていて他のことが頭に入ってこなかった。
「…光牙…おい光牙、聞いてるか?」
「えっ!?ああすまん、なに?」
「お前今日ちょっと本当に変だぞ?風邪でも引いたか?」
「そんなことないけど…」
「わかった!初めてのデートで緊張してるんだね!武嶋くんも隅に置けないねぇ〜」
「だから違いますって。」
「ねね、鏡花ちゃんは武嶋くんとどこまで行ったの?もうキスはしたの?それとも…もうそれ以上の関係とか!?」
「ぶっ!!」
俺は飲みかけていた飲み物を盛大に吹き出した。まるで漫画やアニメでよくみる光景のように。
「うわっ、汚ねえ!」
「わ、悪ぃ…」
「あっはははは!冗談だよ冗談。チェリーボーイの武嶋くんがそこまで行けるわけないもんね。」
「大宮先輩…カマかけましたね…」
「ごめんごめん。ちょーっとからかっただけだから」
「あ、あの…」
「ん?」
「お二人は武嶋くんと仲が良いんですね…。」
「仲がいいっていうか。昔からの腐れ縁ってだけ。いわゆる幼馴染ってやつ。」
「そ、そうなんですか…」
「まあ光牙は昔から変わんねえもんな。」
「そうそう。チェリーボーイだし。女の子にモテないし」
「わ、悪かったっすね。モテなくて」
こうやって笑っていられるのも時間の問題だと思う。いつ柏崎さんだとバレてもおかしくない。…いやもしかしてもうバレてる?だから俺の話題ばかりしてくる?
俺はただ、心の中でバレてないことを祈ることしかできなかった。