隣の心配
———昼休み———
考えた。俺はひたすら考えた。
なぜ黒部やみんなが柏崎さんを避けるのか。柏崎さんは何者なのか。
俺はただひたすらに考えた。
……が、答えは見つからない。
…こうなったら思い切って本人に直接聞くしかないか…。でもどうやって聞こう…。柏崎さんってどんな人なの?
とでも聞くのか?ああでもそれだと失礼な気がするな…
そうやって1人で考えていると、元気な女子の声が。
「やっほ!スーちゃんいる〜〜?
あ、武嶋くん!やっほ!」
「あ、こんにちは。大宮先輩」
そう言いながら黒部の席に
嬉しそうに駆け寄って行くこの人は大宮 玲。
俺と黒部の一個上の先輩でありながらなんと黒部の彼女。何かとポジティブな性格で、黒部の名前が「すぐる」という事から「す」だけを取ってスーちゃんと呼ばれてる。
「はいこれお弁当。」
「あ、ああサンキュ。」
「スーちゃん聞いたよ!今日このクラスに転校生が来たんだって!?」
「さすが、情報早いっすね…」
「そりゃね。転校生が来たってうちのクラスにも情報入ってたし。」
「そうなんすか?」
「うん!……それで?スーちゃん。その転校生はどこにいるの?」
「え、あの、俺の——」
「光牙の隣」
黒部に先に言われた。チキショウ…
けどその時ふと気が付いた。
そう、彼女…柏崎さんがいつの間にかいなくなっていた。
「…あれ…?」
「え?武嶋くんの隣?…誰もいないけど?……はぁ残念。せっかく仲良くなれると思ったのになあ」
俺はいつの間にか柏崎さんがいなくなっていたことに気が付かなかった。
「なあ黒部、柏崎さんは——」
「知らん」
被せてくるように黒部はそう言った。
少し怒ってるように見えたが…。
そりゃそうか。飯の時間を邪魔されれば誰だって怒るか。
「…ごめん黒部、俺ちょっと柏崎さん探してくるわ」
「あ、武嶋くん!私も行く!」
「あ、おい!2人とも!…ったく。……どうなっても知らねえぞ…」
心配だった。柏崎さん1人だけクラスで浮いていたのも気になるし、それになぜみんなが柏崎さんを避けるのかも気になった。それも含めて心配だった。ほとんど話もした事がないのに、なぜか心配になっていた。
色々と聞きたい事もあるが、今は柏崎さんを探すのが先だ。
「うーん…どこ行ったんだろう」
「武嶋くん!」
「あれ、大宮先輩?」
どうやら大宮先輩が後からついて来ていたようだ。…全く気付かなかった。
「大宮先輩、ついて来てたんですか?」
「まあね。転校生がどんな子なのか気になったし。それに、ここで会わなかったら一生会えないと思ったしね!」
「んな大袈裟な…」
「後さ!転校生って女の子?男の子?さっき聞きそびれちゃって」
「先輩のクラスならもう分かってるのかと。」
「うちのクラスの情報では、転校生が来たって事ぐらいしかわからなくてね」
「そうなんですか…。女ですよ。」
「やっぱり!?だと思ったんだよね〜。私も薄々そうじゃないかな〜とは思ってたのよ。さっき武嶋くん柏崎『さん』って言ってたし。」
「あ、名前は知ってるんですね」
「何となーくそうじゃないかな〜って気はしてた。……でも、柏崎さんかあ…うーん…」
「どうかしたんですか?」
「いやね、柏崎って名前どこかで聞いた事あるな〜って思って。どこだったかな…」
「有名な人なんですか?柏崎さんって。…そういえば、クラスのみんなも何かソワソワしてましたよ。柏崎さんの名前聞いた途端。」
「うーん…まいっか!そのうち思い出すと思うし!考えるより行動しなきゃ!」
「はあ…そうですか。」
「何事も前向きに考えなきゃ、物事は進まないからねっ!」
俺はたまに、大宮先輩のポジティブな性格が羨ましいとも感じる事がある。考えるより先に行動するってのはなかなか出来ない事だと思う。
—第3章—
心配 END