出会い
「お、おい 、何してるんだよ!」
恐怖心と正義感が入り混じる中、俺はその2人組に勢いよく声を掛けた。だが同時にやってしまったとも思った。最悪殺されるのではないかとも思った。
「あ?なんだてめぇは?」
1人が俺に迫ってくる。もう1人は女性が逃げないように見張っているようだ。なるほど考えたな……。と感心している場合じゃない!このままでは完全に死亡フラグだ…。だが、ここで怯んでしまっては本当に死ぬかもしれない。だから覚悟を決めた。
「うわああああ!!!」
無我夢中で声を上げながら突っ込んでいった。
だかしかし、どうやら悪手だったようだ。突っ込んで行ったまでは良かったが、そこから俺の記憶が途切れていた。恐らく、何らかの方法によって気絶させられたのだろう……。
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それからどれだけの時間が経っただろうか。気が付くと、俺は知らない部屋のベッドに寝ていた。
ゆっくり起き上がろうとすると、体の節々が少し痛む。その痛みで、自分がまだ生きている事に安心した。と同時に、あの時の事を思い出して自分に憤りを感じてしまう。喧嘩もした事ない奴が、喧嘩慣れしてる奴に勝てるはずないとわかっているはずなのに。
結局、絡まれていたあの女性はどうなったのだろうか。何とか逃げてくれたのならいいのだが……。
そんな事を思っていると、コンコンと部屋の扉からノックが聞こえたので、はい。と返事をすると、タキシードのような黒っぽい衣装を見に纏った、初老かそれより少し若めの男性が入ってきた。
「失礼致します。……お目覚めになられましたか。いかがですか、お身体の具合は」
「……貴方は?」
「これは失礼致しました。私、この家の執事をしております、緑川昴と申します」
「執事……?」
執事……という事は俺が今いる場所は何処かの豪邸だとでもいうのか?漫画やアニメの世界じゃあるまいし、気が付いたらこんな豪邸にいるなんて……。それに何を言ってんだこの人は……。いきなり俺の前に現れて、自分の事を執事だって?一体なにがどうなってるんだ……
「……色々と混乱されているようですね。無理もございません。目が覚めたらこのような場所におられて、混乱するのは当然でございます。ですから、まずはこれを」
「……これは?」
「私の名刺でございます。私が執事である証明になれば幸いにございます」
「はあ……名刺…」
とりあえず俺は渡された名刺をまじまじと見てみた。その名刺には紛れもなく"執事長"の文字があった。
「執事長……ってことは執事のトップって事ですか?」
「仰る通りです」
「執事長、緑川昴、ねぇ…」
いきなり名刺だけを渡されて、正直なところ、半信半疑だった。ひょっとしたらこの人もあの2人組の仲間かもしれない。でもそんな人が名刺を、しかもわざわざ執事長と書かれているものを持ち歩くだろうか。
だが今は、それが真実かどうかなんてどうでもいい。とりあえず俺は、今この状況で聞きたい事を聞いてみることにした。
「……ところで、どうして俺はこんな所にいるんです?」
「おや、覚えてらっしゃらないのですか?貴方は学校に行く途中で───」
「学校……今何時ですか!?」
「え、あぁ……午前10時30分でございます。ですがご安心ください。学校の方にはこちらから事情の説明をしておりますので」
「ああ……俺の無遅刻・無欠席の功績があぁ…」
「それに関してもご安心ください。こちらから事情を説明した際に、貴方の事をお伝えしましたところ、今回はそれに免じて公欠にして頂けるそうですよ」
「ということは俺はまだ無遅刻・無欠席のまま……?」
「そういう事になりますね」
「ぃやったー!!!……いっつつつ」
「あ、まだ動いてはいけませんよ?怪我がまだ治癒しておりませんので」
「怪我?」
「ええ、お嬢様をお助け頂いた時に少々。ですので、私がその手当てをと思いまして、ここに連れてきた次第でございます」
「ああ、それで……。……ん?」
「ご納得頂けましたか?」
「いや待って下さい。今お嬢様って言いませんでした?」
「ええ、言いましたが、それが何か」
「お嬢様を助けたって……それってどういう…」
「言葉通りでございますが」
「……まさかあの男達に絡まれていた女性がここのお嬢様とでも言うんですか?」
「ご明察でございます」
「マジかよ……まさか自分が助けた人がお嬢様だなんて……そんなファンタジーな事があってたまるか」
「ですが現実です」
「信じられん……」
だがここで、1つの疑問が浮かんだ。
助けた、というのであれば、執拗に絡んでいたあの男達は一体どうなったのだろうか。
まさか逃げたわけでもあるまい。獲物を前にして敵前逃亡、なんてのは考えにくい。
では、一体どうなったのだろうか……気になるところではある……