きっかけ
通常、「お嬢様」と呼ばれるような存在は一般の学校に入る事はまずないだろう。お嬢様学校と呼ばれる、もんの凄く頭のいい学校に通っていて、もんの凄くお高い制服を着て、ちょっぴり世間知らずな一面もあるようなイメージが殆どだろう。
例えそんな高貴な存在が普通に存在していたとしても、怖くて簡単に話すことなんか出来ないだろうし、話したところでなにが起こるか分かったもんじゃない。というか分かりたくもない。
しかし、そんな高貴なイメージを持つお嬢様の中にも例外はきっといるはず、と俺は思いたい。
俺の名前は武嶋 洸河。今年の春に、ここ鷹元高校に転校してきて、そろそろ半年が経とうとしている。色々と紆余曲折あり、高校2年生の時に転校生と言う形でこの学校に通うことになった。当時では異例の事態だったそうで、周りからは色々質問攻めにされたりしたが、今ではすっかり周りに溶け込めている。
────10月某日。とある通学路にて───
「まずい!このままだと完璧に遅刻だ!」
鷹元高校に通い始めて半年、1度も遅刻なんてした事はなかった。無遅刻・無欠席で、このまま行けば皆勤賞が貰える一歩手前まで来ていたのだ。
この日俺は、決して寝過ごしたわけではない。むしろ早く起きすぎた。高校生になってから親元を離れて一人暮らしをしており、下宿も学校とさほど遠くない場所に位置している。……が、それなのに俺は遅刻しそうになっていた。
その理由としては、言い訳がましく聞こえるだろうが、"人助け"をしていたからだ。そう、"人助け"だ……。
──時は遡る事数十分前になる。
この日、早く起きすぎた俺は、せっかくだからランニングでもしようかと、近所の道を走っていた。10月とはいえ、やや肌寒い日が何日か続いている。だからこそ、この程度の寒さなら走ればちょうどいい暖かさになるだろうと思っていた。
ランニングの途中で、どこからともなく声が聞こえ、ふと足を止めていた
「や…………い…………」
「いい………か………たち……ぜ」
「ん?なんか声が……」
数人の声が聞こえて、何だか妙に嫌な予感が脳裏をよぎり、声のする方へと足を運んでいった。
「あの……や、やめてください……」
「クク、いいじゃねえか、俺達と遊ぼうぜぇ?悪いようにはしねえからよォ?」
「こいつメチャクチャいい女じゃないスか!流石兄貴!やっぱ見る目最高っスね!」
「クク、そうだろうとも。俺は女を見る目だけは冴えてるからなァ!…さて嬢ちゃん、今から俺達とイイ所行かねえか?なァに、大丈夫だ、ちょーっとイ・イ・ト・コ行くだけだからサ」
「や、やめてください……誰か、誰か……助けて……」
「クク、そんな蚊の鳴くような小せぇ声じゃ誰も助けに来てくれねえぜ?」
物陰から一部始終を見ていた俺は、その場ではどうすることも出来ず、ただ物陰に隠れて見ているしかなかった。
「な、何だよあれ……ナンパか?……にしては何かちょっと雰囲気違うような……」
ガラの悪そうな2人組の男がナンパをしている。側から見ればそう見えるだろう。いや、そうとしか見えない。明らかにヤンキーだと言わんばかりの服装をした2人組が、か弱そうな女性に絡んでいる。そのせいか、周りの人達は見て見ぬ振りをしている。
「……何で誰も助けないんだよ……あのままだとアイツらの思う壺だろ……!」
どうして誰も止めようとしないのだろうか。普通、女性が絡まれていたら誰か助けるだろう。そう思ったが、恐らくヤンキーのような見た目をした2人に突っかかると、ろくなことはないと思い、誰も止めようとしないのだと悟った。
ここは自分が……とも思ったがそれは無理だ。喧嘩なんてした事ないし、したくもない。俺は平和主義なんだ。だが、今はそうも言っていられない