激進
「魔王様! マリー将軍が敗れました!」
フェイが慌てて報告する。
「何!? そうか……マリーが敗れたか……フフッ、今度の相手は骨があるようだ。だが人間では勝てぬのだよ。我ら〝魔族〟は半人半霊。肉体のみならず心の強さが無くては我らには勝てぬ。フフッ……」
魔王は笑った。
魔族は半人半霊であるが霊とは精霊をさし、精霊は意思を持ったエネルギーのようなものであり、精霊との戦いは精神力の戦いである。魔族との戦いの場合、肉体を削る戦いと同時に精神を削る戦いが行われることになる。無意識のうちに行われる精神の戦い、それはすなわち気を呑まれた方が負けるということだ。
それを言って魔王は笑っているのだ。先程より少し楽しそうに。
マリーを破ったとはいえ未だ3人の将軍が控えている。高潔な将軍たちは一人の相手には一対一で戦うだろう。だが、その強大な魔法と魔技の数々にいつかは疲労し恐怖する。そしてその時が勇者の最後なのだ。
しかし、魔王は知らなかった。
恐怖を超える『名前に対する想い』があることを。
そして、四大将軍の名前が……
「大変です! ストロベリー将軍が敗れました!」
「何っ!? なかなかやるようだな。勇者!」
「魔王様……ザグゼルム将軍も善戦むなしく、数十分に渡る戦いの末敗れました」
「むぅ、だがなぜマリーやストロベリーに比べ実力の劣るザグゼルムに苦戦したのだ? 疲労か?」
魔王は考えたがわからなかった。
わかるはずもない。
可愛い名前でなかったから苦戦したのだと。
そして、自分と同じように変な名前を付けられた少女だと思っていたザグゼルムが、単に線の細い少年だと知った瞬間ゼムギルガンが豹変し、敗れたなどと。
「ふぇぇぇぇぇぇぇん! まおうさまぁ~! ミルク将軍まで一瞬でぇ~!?」
「バカな! ありえん! ……本物か! 本物の勇者かっ! おとぎ話だと思っていたが……実在するのだな……真の資質を持った勇者が! フフッ、面白い! 面白いではないか! 私直々に相手をしてやる。フハハハハハハッ!」
魔王は立ち上がり、高笑いとともに出撃した。こんなに心躍るのは久しぶりだった。
玉座の間に一人残されたフェイは、魔王の勝利を祈るのだった。