名
一方、その人間はというと魔王軍4大将軍の一人と戦っていた。魔王城エントランスに鍔ぜり合いの音が響く。剣と剣がぶつかり合って火花が舞い散る。
「やるな。人間!」
流水の如きかろやかな動きでゼムギルガンの剣を受け流す魔王軍将軍。褐色の肌に緑に輝く髪の美しい女性だ。その瞳に宿った鋭い輝きは百戦錬磨の証である。
魔王に続きまたしても女性だが、魔族において大抵魔法力は女性の方が強い。魔法の力は大男の筋力に勝る強力を生み出し、また獣を超える素早さを生み出すこともできる。ゆえに魔王軍の要職のほとんどが女性だった。
「とりゃー!」
ゼムギルガンが斬りかかる。全身の力を込めたその一刀で相手の剣を弾く。そしてその隙に突きを繰り出す。将軍は上体をそらしてかわし、更にそのまま剣を突き出す。ゼムギルガンは一気にバックステップでそれをかわすと、その勢いを利用して距離をとる。
実家の剣術道場の跡取りとして育てられた彼女は、望む望まないに関わらず一流の剣術を会得していた。だが何より「名前を変える」という一念により恐るべき力を発揮していた。
「フフッ、本当に強いな貴様は。名は何という?」
将軍は聞いてきた。ごく自然に、ごく普通に。
瞬間、ゼムギルガンの動きが止まる。しかし気を取り直して、
「ぜムギルガンだ」
と名乗った。
「ムギか。なるほどいい名だ」
「ホント!? ねぇそう思う!? だよね! だってゼムとかギルとかだとこわすぎるもんね! 必死で考えたんだよ~」
突如話に食いつくゼムギルガン。あっけにとられる敵将。
「……コホン、それでは私も名乗ろう。我が名はマリー! 四大将軍が一人、マリー・シルヴィアだ!」
場が凍りついた。
「マリー……だって? どちくしょーっ! なんでそんなに可愛い名前なんだよーっ! 魔将軍だろー!」
瞬間ゼムギルガンの闘志に火がついた。いや、爆発した。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!」
「なっ……!?」
号泣しながら飛び掛ってくるゼムギルガン。
あまりの光景にマリーは反応できない。できるわけがない。
「き、きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」