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新たなる希望
後に残された人々はざわめいていた。それはそうだろう。国家の存亡が庶民に託されたのだ。
しかし、そのざわめきもすぐに雑談へと変わり、人々は家に帰っていった。危機感というものがない。そういう国民性なのだ。
建国時、人々は戦火を避け最果てにまで逃れた。そこは極寒の地で、地獄の生活が待っているはずだった。だが、そこは前述の通り暖流の影響で温暖な地だった。これが人々の心に「なんとかなる」という意識を植え付けたのだった。その意識は、その後の150年戦争らしい戦争が無かったことにより「まぁ、なんとかなるや」という楽観視へと変わっていた。
「魔王怖いなぁ」くらいの感覚である。5百万フォード……これはディフォレスト国の平均年収の10倍だ。しかし、誰も魔王と戦おうとは思わなかった。
「魔王怖いなぁ」といった具合である。
……一人を除いては。
そう、ゼムギルガンである。
「魔王を退治すれば勇者に! おまけに爵位も! そうすれば名前も変えられるっ! よぉしよしよしよしよぉし!」
そしてゼムギルガンは旅立った。
魔王を退治し、名前を変える、そのためだけに。