悲嘆
翌日、宿をチェックアウトした彼女は傷心のまま故郷へ帰ろうとしていた。昨日とはうって変わってどんよりと曇った空は、まるで彼女の心を映しているかのようだった。
祭りの屋台のようにさまざまな店が整然と並ぶ大通りをてくてくと歩く。ふと、洋服屋が目に留まった。フリルのついたピンクのワンピースがショーウィンドウに飾られていた。
いいなあ。サイズは……合いそうだ。たまにはこういう可愛いのも着てみたいなぁ。ウェンディお姉ちゃんとかシェリー姉ちゃんみたいに私だって……
などと考えていると、ショーウィンドウのガラスに人影が見えた。上はなめし皮の簡易鎧に下は黒いスパッツといういでたちの、少年のような姿。
自分だった。
こんな私が似合うわけないよね……でも……それでも……
せめてもの抵抗にガラスに映った自分の像をワンピースに合わせてみる。
「……何よこれ……女装したガキじゃない……何で……何でなのよ!」
何でお姉ちゃんたちと違って私だけ……
ゼムギルガンには姉が三人いる。長女ウェンディ、次女シェリー、三女リムルである。ウェンディ、シェリー、リムル、ゼムギルガン、と並べると明らかに四女の名前だけ異質だ。
実は実家が剣術道場であり、彼女の父は跡取りとして息子を欲しがっていた。
だが、3人連続女の子、今度こそはと思った四人目も女の子が生まれ、こうなったらと男として育てることを決意した彼女の父は英雄ゼムギルガンと同じ名を付け剣技を叩き込んだ。ゼムギルガンも幼い頃は自分が男だと思っていた。
小学校に入り、自分が女で、かつ変な名前だと知った。中学校に入り、周りがみんなおしゃれをするなか自分だけさせてもらえず、ひたすら剣術剣術の日々。ゼムギルガンのストレスは日々蓄積されていったが、母は父のいいなりで娘の悩みを黙殺し、おっとりしている長女は妹の悩みに気づかず、わがままな次女は妹の悩みを笑い、クールな三女は妹の悩みに興味がなく、ゼムギルガンはよく父とケンカした。
中学を卒業し、進学せず剣術道場を継ぐことにしていたゼムギルガンだったが、弟が誕生し「お前には苦労をかけた。これからは自分の道を進め」と父に言われ「今さらそれはないだろーっ!」と家を飛び出した。
そして念願の改名と可愛い格好、つまりは普通の女の子になりたいという夢のため首都までやってきたのだった。
なのに……こんなのってないよ……