輪廻
で、当の本人まじかる☆キャンディはというとディフォレスト国よりはるか南のリゾート地である常夏のビーチ、ソーラコーストに居た。子爵になったとはいえ領地があるわけでもなく、当面の目標もないので懸賞金で観光をしていたのだ。
やしの木々の間に引っ掛けたハンモックに体を横たえ、傍らにトロピカルジュースのグラスを置き、まさに悠々自適であった。
「ふんふ~ん♪」
はなうたをしながらごろごろと時を過ごす。静かに流れていく時間。音といえば寄せては返す波の音くらいだ。
と、背後で砂が踏みしめられる音がした。誰かが来たのだ。
「やっと見つけたぞ! 〝まじかる☆キャンディ〟!」
聞き覚えのある声。ゆっくりと振り返るとまずフリルのついたピンクのワンピースが目に入った。
「! それはアーケイシティの洋服屋にあったワンピース! いいなぁ」
「そこではないっ! もっと上を見らんかっ!」
「ん~?」
まじかる☆キャンディは言われるがままに視線を上げると、そこには麦わら帽子をかぶった銀色の髪の女性が額に血管を浮かび上がらせ鬼のような形相で睨んでいた。
くまのぬいぐるみを抱きかかえて何とも乙女チックだが、それは紛れもなく……
「あ、魔王。どーしたのこんなところまで?」
緊張感のないまじかる☆キャンディ。それに対して魔王は歯をギリギリ鳴らして今にも飛び掛らんばかりであった。
「どーしたのじゃないっ! 貴様に決闘を申し込む!」
魔王は叫んだ。だがまじかる☆キャンディはけだるそうに転がりそっぽを向き、やる気の欠片も見せなかった。
「めんどいからパス」
言ってトロピカルジュースをすする。
「キッサマァーッ! こっちは『ゼムギルガン』なんて名前を押し付けられてるんだぞっ! 勝負しろっ!!」
魔王ゼムギルガンは血管が切れんばかりに激怒して叫んだ。
「知~らないっ」
まじかる☆キャンディはハンモックから飛び上がると、一目散に逃げ出した。
「こら~っ! 待たんかぁ~!」
砂浜を爆砕しながら猛スピードで追いかけるゼムギルガン。
「い~じゃない。魔王っぽい名前で」
「いいわけあるかっ! それにもう魔王はやめたっ! あれは伝令に押し付けてきたっ! だからやっと自分の好きなファンシーグッズ集めとかできるんだ! 可愛い名前じゃなきゃいやだっ!」
逃げるまじかる☆キャンディとぬいぐるみを振り回しておいかけるゼムギルガン。
全く立場が逆転した二人。伝説によればその後二人の名前は何度も入れ替わり、本人たちもどっちがどっちだかわからなくなったという。しかし二人ともまじかる☆キャンディと名乗ってたそうな。
めでたしめでたし?




