勇者と魔王
大広間。ここでは魔王とゼムギルガンが対峙していた。
「フフン、貴様が勇者か」
「へ?」
魔王の問いに対しゼムギルガンはぽかんと口を開けた。いまいち話がかみ合っていない。
「成る程、心理戦は心得ているということか」
肩透かしをくらう形になった魔王はそう解釈したが、もちろんゼムギルガンにそんな意図はない。別に勇者だと思って来たわけではない。
彼女にとって勇者とは名前を変えるための手段であって目的ではないのだ。
「まぁどうでもよい。久々の戦いなのだ。楽しませてもらうぞ!」
魔王はそう言うや否や、呼吸によって肺に取り入れた魔力を精神力で電気に加工、指先から放った。雷の弾丸、雷指弾である。
それは低級な魔法であり、ここまで来る勇者なら当然かわせるだろうと牽制の意味で放ったものだった。ところが……
「ほげーっ!?」
雷指弾はゼムギルガンを直撃し吹き飛ばした。彼女の細身はきりもみしながら宙を舞い、壁に激突して地面に叩きつけられた。
「へ?」
今度は魔王がそう言った。
「……??? その実力でどうやってここまで来たのだ?」
ゼムギルガンはぴくぴくと痙攣していた。が、よろよろと剣を杖代わりに立ち上がる。
「名前……をっ……名前を変えるんだっ……!」
傷ついた体を動かす不屈の闘志。その目はまだ死んでいない。
「フフッ……根性は本物のようだな。それともそのダメージは演技だとでも言うのか?」
魔王は心底楽しそうに言った。笑みがこらえきれていない。いや、こらえる気すらない。
「よかろう、その精神力! 我が相手にふさわしい。ならば名乗るが流儀!」
魔王は胸を張った。そして高らかに言った。
「勇者よ! 我が名はまじかる☆キャンディ! 魔王まじかる☆キャンディだっ!」と。




