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8、使命

"この声が聞こえるのは、選ばれた者だけだ。

ピウラ、君がまだピウラの村でチャスカと呼ばれていた頃に、神は君のことを見つけ出した。君は使命を背負ってこの世に生を受けた。特別な存在なのだ。


アクリャワシに居ながらも、ほかのアクリャと同じ仕事をしなくて良いのはそういうわけなのだ。

ここでの生活に慣れた頃、君の本当の仕事が始まるのだ。どうやらその時期がやってきたようだ。


これからその使命を果たすべく、君にその方法を教えていくこととする。

難しいことはない。毎日決まった時間に月の神殿に通えば良いのだ。

しかし、今度は勝手に休んではいけないよ"


エストレーヤの心臓がこれ以上ないというくらい早く打っている。

"難しいことはない"と神官は言うが、それ以上に怖ろしいものであると、彼女は予感していた。


何よりも、これまでエストレーヤが太陽神殿へ行かずにアクリャワシを抜け出していたことを、大神官は知っていたのだ。知っていて、見逃していたのだ。それは、その『使命』とやらに向かう道筋だったというのだろうか。この先、それは叶わなくなるのだろうか。


神官は付け加えた。


"友だちと遊ぶ時間も、今はまだ必要だろう。神殿へは夕暮れ前に来ればよい"



「昨日はどうしたの? ピウラ」


月の神殿に連れて行かれた翌日のこと。エストレーヤが宮殿に行くと、ユタがそう訊いてきた。

これまでも時々面倒になって宮殿に行かない日もあったというのに、わざわざユタがその理由を訊いたのは初めてだ。

一番触れて欲しくないときに限って………。エストレーヤは泣きたい気分になった。


「何かあったんでしょう? またママコーナに叱られたの?」


これまでも時々、エストレーヤは、ママコーナへの不満をユタにこぼすことがあった。昨日彼女が宮殿にやって来なかったことと、今日のどことなくおかしい様子から、ユタはまたママコーナに叱られたのではと想像したのだ。


本当のことを話して不安な気持ちを晴らしたかったが、例えユタが誰にも言わないと信じていても、決して口にしてはいけない出来事なのだと、エストレーヤは感じていた。


「そうなのよ! ママコーナったら、本当にうるさいのよ。その言葉遣いはなんですか? そのふて腐れた表情はなんですか? って。

知らないわよ、これがあたしなのに! これでいけないなら、どうすればいいっていうの?」


それを聞いてユタが笑い出した。エストレーヤはその口調のまま、ユタに食って掛かる。


「ちょっと、ユタまであたしがおかしいって言うつもり?」


「違うよ。ピウラがぜんぜん平気だから、ママコーナはくやしがっているんじゃないかと思ったら、おかしくなったんだ」


「確かにそうね! ママコーナはあたしを思い通りにしたいのよ。でも、出来ないからくやしいんだわ!」


「ピウラはすごいね。 ひとりでも、負けやしない」


「あたしだって、何で言う通りにできないんだろうって、悲しくなるときがあるのよ」


「悲しくなることないよ。ピウラはそのままがいいよ」


「そう? ユタがそう言うなら、そうする!」


不安な気持ちを抑え込もうと、エストレーヤは明るくそう言って、笑ってみせた。




ーー ユタの無邪気さが、その時まであたしには救いだった。

でもそれがやがて、あたしを苦しめることになるとは思わなかったわ ーー


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