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1、星の少女

挿絵(By みてみん)




 白い煙の中から現れたその少女の顔を目にしたとき、ダニエラは、喉の奥に生温かい液体が一気に流れ込み、そこに留まったのを感じた。

 日常では決して目にすることないものを眼の当たりにすれば、多くの人が驚きを覚え、息をするのも忘れることはあるだろうが、それとは違う衝撃がダニエラの身体を駆け巡ったのである。


― シンパシー ―


 ダニエラは確かに、そう感じた。

 それは、ダニエラが学問を修めるための単なる教材であったはずだ。

 しかし、カプセルの中から現れた姿を目にした瞬間、ダニエラの心が少女に同調した。とうの昔に遺骸と化したはずの少女が、かつて思い描いたであろうことを、感じ取れるような錯覚に陥ったのである。


 ダニエラの前で、少女は確かに息づいていた。固く閉じられた唇が何かを語ろうと、僅かに震えたのを見た。


 

 三年前、少女は凍てついた高山の頂上で、固く凍った状態で発見された。死後すぐに氷点下の地面の中で凍ったらしく、その顔はまるで生きて眠っているかのように瑞々しく美しい。しかしその姿は冷凍庫のようなカプセルの中でしか保つことができないのだ。



 大変な作業だったよと、少女を掘り起こした調査員は語ったそうだ。雪と氷に閉ざされた標高5000M超の高山の頂は空気が薄く、ただでさえも息をするのが難しい。一緒に登頂した他の隊員に両脚を支えてもらい、真っ逆さまになって狭い墓穴に潜っていった調査員は、瞬時に死を覚悟した。朦朧とする意識と、ほとんど何も見えない暗闇の中で、どうやって少女の身体を探し当てたのであろうか。

 隊員たちに引き上げられた彼の腕には、しっかりと少女が抱きかかえられていた。

 凍り付いて固まった少女は、死の瞬間に膝を抱えて天を見上げていた。その姿のままで地上へと戻ってきた。

 数百年ぶりに浴びた陽の光を受けて、少女の顔は眩しく光ったという。おそらく少女の額に巻かれた頭帯の銀と宝石の装飾が反射したのであろう。

 しかしその光は、高山の上に光り輝く星のようだったと、調査員は振り返った。


 その時の調査員の感動を表すように、少女はラ・エストレーヤと名付けられたのだった。



 ダニエラは、今も少女の額に張り付いている装飾をしげしげと見つめた。酸化して黒ずんだ銀の板に嵌め込まれた傷だらけの宝石は鈍い光さえも放ちそうにない。

 その時ダニエラは、調査員が見た光は少女自体から発せられたものであると直感した。

 彼女は、暗い地下から救い出される日を知っていたのだ。


 すべては少女が仕組んだことだ。こうしてダニエラを呼び寄せたことも……。

 


 


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