第2章 生み出される平和
職業体験。彼女らは児童保護施設へ行くことにした。そこには赤ん坊がいた。その赤ん坊には、名前があった。
第2章 生み出される平和
「こんにちはー」
「今日はよろしくお願いしまーす」
小学6年生。職業訪問をするという学校のイベントだ。一人で行ってもいいし、何人かのグループで行ってもいいことになっている。今回、『ACE』と『CPS』は(二人の先生の)知り合いのつてで児童養護施設に行くことになった。
二人とも、子供がいっぱいいるというところというイメージしか持っていない。
かつては孤児院とも言われていたところだ。
……まぁ、そんなにギスギスした雰囲気は無いところだ。さまざまな事情を抱えている子供がいるもの、それは裏を返せば思いやりを持った人間が集まっているということでもある。もちろんそれら性格は、周囲の雰囲気によるものだ。この施設はとても雰囲気がよく、同年代の子供同士、仲良く遊んでいるような場所だ。
だから『ACE』と『CPS』のお仕事は小学生、中学生くらいの子供と遊ぶことだった。……いろいろやることもあるが、それが主である。
この施設も、『魔法行』内にある。
「あー……『CPS』ちゃん」
『ACE』は遠目で『CPS』を見る。
「なんでジャングルジムで政治体形繰り出しちゃってるのかなぁ……?」
お城のようだ。『CPS』は王様。というか女王様。
「はぁーっ……」
子供たちと遊んでいたが、バテてしまった。笑ってしまうような話だが。……やっぱり昼休み少しは遊ばないとダメだったんだなあ。
そんなわけで屋内で休んでいた。窓から運動場の運動場が見える。そこのジャングルジムのトップに立って、ほかの子供たちを従えている。その子達も喜んで従っているというので……なんだろう。『CPS』ってあんな子だっけ?
……リーダーシップあるなぁ。
私とは大違いだ。
将来たくさんの人を従えてそうだ。
私は無理そうだけど。
「……なんかないかなー」
施設の中を歩く。時刻はお昼前。12時には食堂にみんなを集めるように(まあみんな集まるから大丈夫だろうとの事だが)言われている。しかしまだ時間がある。なので少し探検をしてみようという考えだ。
うん? デリケートな部分があるからダメか? ……いや、いいや。勉強にはなるかもしれないし。行ってみよう。
現代風の建築……というのは古風な感じがないからというものであった。床は板張りの木造だが、壁や天井は白だったり、いろいろな絵が飾られていたり……と落ち着くような雰囲気だった。
ピアノもある。
一階は家具の高さが低い。二階、三階と階数を重ねるにつれそれが少しずつ高くなる。へぇ、よくできた構造だ。小さい子供を下の階に、上に行くたびに年齢も上がっていくということか。
想像する。
年齢が上がって、少し背が高い机や窓の高さ。それを新鮮に思う施設の子達……。はしゃぎ声。笑顔。
やっぱり、人間って人間なんだなぁ。と、『ACE』は思う。
「……お?」
通り過ぎようとした部屋に、赤ん坊がいることに気づく。窓ガラスの向こうにベビーベッドと、その中で眠る赤ん坊がいる。心なしか、黒髪に白髪が混じっている気がする。
「……ま、り……マリア?」
扉にかけられていたかわいらしいネームプレーには、マリアと書かれていた。
「こんにちはー……」
鍵は開いていたので入った。どうやらまだ寝ているようだ。もうすぐお昼だが……まあそんなものか。1歳……あるかないかといったところだろうか? 立つ練習をしているような年齢だろうか……。
「……かわいい」
赤ん坊とはなんとも可愛いものだ。ああ愛らしい。そう『ACE』は思う。
すやすやと眠っており、『ACE』が来たことには気づいていないようだ。
『ACE』はその子にしばらくの間見とれていた。愛らしい寝顔をしばらく見ていた。
「……この子も……」
ワケアリ、なんだよなぁ……。この施設に来ているって事は。捨てられた……かわいそうなことだ。ただそれしか言えない。
この子はどうなるのだろうか。この子は幸せになれるのだろうか。
「幸せ、ねぇ……」
何を考えているんだろう。自分の幸せすら確保できていないのに。他人に幸せをもたらそうと頑張る。
……待て、そもそも幸せって何だろう? お金? 地位? ……分からない。どうすれば幸せになれるのか? ……分からない。
「…………」
分からない。
なんとなく、マリアちゃん(だよね?)のほっぺをつつく。
ぷにぷにしている。
「!?」
ビクンッ! とマリアちゃんは目を開く。
「お、起こして……」
「んあああああああああ!! ああああああ!!」
泣き始めた。
泣き始めた!?
「うぇ、え、ちょっと、泣かないで……!」
いかん。やばいやばい。
赤ん坊のあやし方なんて知らないぞ!?
突然の事態にどう対応していいのか分からない。
あたふたと、手元がおぼつかなくなる。
「ほら、ほら……」
「んああああああああああああああ!!」
柵を外して抱きかかえようとする。しかしマリアちゃんが拒むのでうまく抱けない。
「わわ、わっ!」
「んあああああ!! んん!」
「うぎぃっ!?」
手元が狂い、マリアちゃんの口に指が入ってしまう。そこを、思いっきり――噛まれた。
痛い。
痛いいいいいっ!!
「はははー。大丈夫ぅー? 『ACE』ー?」
「えへ……大丈夫だよ、血は出たけど……ほら、絆創膏してあるし。もうそんな痛くないし」
帰り。夕暮れが町を橙色に照らしている。身長は低いが、その影はとても伸びている。
「しっかし間が抜けてるっていうか、『ACE』って何か足りないよね? 一箇所足りないっていうかさ」
『CPS』は満足そうに満面の笑みで言った。
「ど、どういう意味よ」
「あははー。昼休みはちゃんと外出て遊ばなきゃだよー」
「も、もうー!」
ばんばんばん、と『ACE』は『CPS』の肩を叩いた。
この平和な時間。
それもまた、彼女の人生を変える。
第2章・終
第3章へ続く