柿木さんと聖なる夜
「っつーことでね、庄野さん。こんばんは。合コンしよう」
「………こんばんは、柿木さん。こんばんは。………合コン?」
「そう。こんばんはって二回も言ったよアンタ。動揺してる?」
「してる」
「…ん、ごめんね。……あのね、アンタ今、ちょっと暇あるかな? ロビーで座んない?」
「え? 合コンってあれ? 彼氏が欲しい人が行くところじゃなかったか?」
「なんかの店っぽくなってるよ?! あながち間違ってなさそうなだけに驚きだよ!」
「っえー。私、アレはイヤだ。断る」
「おぉぉ? なんなの、庄野さんにしては珍しく一刀両断じゃねぇ? …たとえば前にでも、ヤなこととかあったりした?」
「ヤなことっていうか…。あのな」
「うん」
「私、女の子のおしゃべりは好きなんだよ。こう、鳥が歌ってるようなもんだろ、アレ。上がったり下がったり、同じ音が続いたり」
「……アンタの、女の子に対する評価はなんとなく理解したよ」
「でもな、男はダメだ。妙に甲高い音であっちに行ったりこっちに行ったり、話の中で起承転結が迷子になるような話し方なんて、いったいどこで身に付けるんだ、アレは」
「…うん。俺、なんとなくアンタが男嫌いなんじゃないかっていう気がしてきたわ」
「なんだ? 私は別に、男が嫌いなんじゃないぞ。…いや、べつに、そういうのとは話したくないだけで、その」
「うっわーー。マジで。ガーチーで? 」
「んー。あ、あれか。いつも男ばっかりの環境にいるからな。男にはもう飽きてるんだよな。そんな感じ」
「そっち?! まさかの理想高すぎ発言なの?! っつか男ばっかりなのかよ?!」
「ああ。気が付けば大体、周りは男だな。察するに私は少々、女らしくないらしい。話が合わん、迂闊に相槌代わりの同意もできんとなれば致し方なかろう」
「そもそもその喋り方がね! 反省するならソコでしょ?!」
「ん。もう、した。反省しても、構築できなかった。…で、だからな、柿木さん」
「はい?」
「合コン、女の子がたくさん来て私に構ってくれるなら、面子をそろえよう」
「……聞きたいんけど、それってじゃあさ、その場にアンタも来るの? なんで?」
「あ? 合コン開くからお前そっち側の責任者な、で、私に声をかけたの図、じゃないのか? これ」
「………いーやぁ?」
「いや? どっちの意味だ? 肯定、否定?」
「待って。ね、待って? この場合さぁ、俺が男を集めて庄野さんが女の子集めてってのがね、なんてーか流れっていうか」
「だから、そこで私に心当たりが少なすぎるから逆転して私が男の方を担当するんじゃないか。柿木さん、女の子の知り合いたくさんいそうだし」
「……なんでそう思うの?」
「んー、だって私に対してこんなに会話を続けられる人、そんなにいないぞ? 顔もいいし突っ込みを見るに頭もいいし。対人スキルも高そう、体つきも良さそう。ここまで好条件な種なら、私なら放っておきたくない。そう推測してみた」
「…ふ、ふふ。……推測してみた、じゃないでしょーっっ! アンタさぁ、そうやって不意打ちでガツンと……ねぇちょっと、庄野さん最近の攻撃レベルが上がってねぇ?!」
「ふっふー」
「笑うの?!」
「柿木さん、今日はテンションが高いな。うん。…ところで、攻撃って? なんか前にも言った気がするけど、私はまだ柿木さんに手を出したことなんてないぞ?」
「そ っ ち か よ ! っつか、体つきとか手を出したとか! 庄野さんてば何気に単語のチョイスが…あ、ああ。ホントあれだ。男ばっかりだったわけだ。アンタの周り」
「? だから、そう言ってる」
「ついでに言えば、男か年寄の二択?」
「あれ? なんでわかった? 正解だよ」
「だろうねーー。なんでわかるんだろうねーー」
「柿木さん、感じ悪い。なんなんだかなぁさっきから、アンタ」
「ん。……ん。ごめんなさい。俺が一方的に悪くて一方的に突っかかりました。悪かったです」
「えぇ? そこで謝るのかよ!? 私がびっくりだよ!!」
「……」
「逆切れしてこないのか?! どうした? それはこれからなの?!」
「………庄野さん。とりあえず今から、チキン食べに行こうか。で、そこで合コンの話、詰めよう? ダメ?」
「チキン? 腹は減ってるから構わんが、なぜにチキン? しかも合コン?」
「手ぇ繋いでくれる? …そう。で、かばんは自分が持ちたい派なの? 遠慮?」
「や、いや、えーと、も、持ちたい派…。で、あの、この手の繋ぎ方って」
「チキンはモス? ケンタッキー? ちょっと遠いけどから揚げ専門店の心当たりあるよ? いっそ居酒屋?」
「ん。……うーん。モスで。海鮮ライスバーガー食べたい。…で、この手なんだけど」
「あ、ごまかされないの? ライスバーガー? なに?」
「ライスバーガーに係る『なに』じゃないよな? これ、指が…痛いんだけど」
「…は?」
「だーかーらー。こうやって指と指との間にてめぇの指が入ってくるとな。痛ぇんだよ! ふっつーにつなげ! 普通に!!」
「………」
「っあー、ガチで痛かったよ。…っつかな、大体、アンタの指、節が太いんだよ! 手のツボ押しはわかるけど」
「は?」
「…え? 違うのか?」
「……う、うーん。そうね。違う…くはないのか? 結果的に」
「だっろー?! あのさぁ、私みたいにガチでPC前に一日中いる職種だとさぁ、痛いんだよ。そうやって繋がれると」
「そ、…そう? なんかこう、ドキドキとかしない?」
「痛みでか? 指を挟まれて動悸がするまで痛むとか、いくらなんでもそこまてじゃないぞ?」
「…そうね。そりゃ、……そうかもね」
「普通に繋いでいてくれれば、私だって迷子にならないし。痛くもない。…で? モス? ケンタッキー?」
「選択肢が減ってる?! や、それならモスに行こう。あと俺が奢りたいから奢らせて? 今夜だけ」
「今夜? 次の時に奢らせてくれるならいいけど、なんで?……あ」
「「メリー、クリスマス」」
「…ふぅ。そっか。そうか。クリスマスか、今日。すっかり忘れてた」
「アンタの周りはうるさそうなのにね。その手のこと、好きそうじゃない?」
「あいつらは基本、本国スケジュールで動くからなぁ。もう年末休暇に入ってるんだ」
「………外資系なの? 庄野さんとこの会社」
「外資系っていうか、あいつらがどうしてだか多国籍なんだよ。アメリカ、ドイツ、東欧と見事にバラバラ」
「あれ? じゃ、昼飯はどうなってんの?」
「どうなってもなにも、異常に過保護なあいつらがお世話係とやらをつけてきててさぁ」
「…ちょいまち。いやいやいやいや聞きたくない。これ以上キャラは増えない。いいね?」
「キャラ? いや、増えないよ。明日からの付添いは断ったからな。今日」
「あ、そう? 断ったの?」
「なんで柿木さんが嬉しそうなんだよ…。大変だったんだからな、説得」
「っあー。聞く限りの人たちじゃねぇ。過保護こわー」
「棒読みひでぇッス。って、だから合コンは年明けだな。最速」
「ん。わかった。じゃあねぇ、その辺りの打ち合わせとかはまた明日以降にしよう? 昼飯とか」
「昼? …ん。ん、わかった。じゃあ私、チキンとライスバーガーな。ポテトはシェア?」
「シェア一択。アンタ、飲み物は?」
「今は水で。でも、帰るときにココア頼んで、で、ちびちび飲みながら帰る。あったかくてー、甘いのー」
「はは。ね、席取ってて? 注文するから」
「ゴチになります。係長」
「………や、そこは係長じゃなくて基樹君で。名前呼びで」
「? なにか言ったか?」
「いーやーーー。言ってないッスよー」
あーあーあー。とりあえず俺、今度の年末までに距離、縮めるから。もっと。
だからとりあえず、ココアは一口ちょうだいね、庄野さん。
…こいつら、これで付き合ってないの? どこに行こうとしてるの?この小説は。
まぁでもね、きっと柿木さんは気が付くんですよ。
年末の彼女の帰省時期に。
ははっ、簡単に甘々になんてしないんだからね!