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柿木さんとくいしんぼ

「…へぇ。広い街の中で違う会社の人と偶然に会うなんて、こんなこともあるんですね、柿木さん」

「そうですね、庄野さん。こんにちは。店の中で会うとか、すごい偶然。…メシにしてはちょっと遅い時間みたいだけど」

「こんにちは。そうかな?私たちは大体いつもこの時間だよ。場所は毎回適当だけどね。…それより柿木さんたちこそ、メシ…じゃなかった、ご飯が遅くないですか?」

「んー?何なの庄野さんのその言葉づかい。っつか俺、前から思ってたけど、アンタすぐに言葉が雑になるんならさ、遠慮はいらないよ?最初から」

「…そうか?それは助かるな。実はこの年になっても未だに一般女子の喋り方がうまく構築できてなくて。柿木さんと喋るときは緊張するんだよ。最初だけだけど」

「確かにすぐに気ぃ抜くしね、庄野さん。…うん。で、話は戻って、アンタのメシはこんな時間になるの?いつも?」

「まぁな、大体。あ、柿木さん、紹介するよ。同僚のグローリアだ。こんな格好だけど日本語はペラペラなんで安心してくれていい」

「初めまして、カキノキさん。グロウです」

「木本基樹です。柿木じゃないんで、そこらあたりよろしくお願いします」

「…ヨーク。またキミ、勝手に人にあだ名付けたの?っていうか、わりと本気で本当に、どこのどなたなの?ボク、この子のお話をヨークから聞いてないよ?」

「どうしてグロウに言う必要があるんだよ」

「あるでしょ。ボクとキミは共同研究者。一心同体未来永劫どこまでも同じ時間を過ごす運命なんだからさ」

「気持ち悪い言い方をするな。…ってかね、お前、うるさいよ。やっぱり糊で机に接着してくれば良かった」

「…ああ、グルー?ふーん。どうせならキミにくっつけてくれたらもっといいんだけど。じゃあ、机にとめられちゃったらボクは翼を生やすよ。キミの横を飛びたいから」

「……野郎、ついでに壁にでもぶつかっちまえ」

「あ?柿木さん、何か言ったか?」

「言ってない。っつか庄野さん、下の名前ヨークじゃないよね?」

「違う。こいつらが勝手に言ってるんだ」

「ヨークがボクたちのことを好き勝手に呼ぶから」

「お前たちがシオノギだのヨーコだの呼んでるからなぁ、この間なんて部長にまで聞かれたんだぞ?京子さんて本名、何かな?だと」

「それは…ボクでさえ呼んだことのないヨークの名前呼びは、ちょっと許しがたいね」

「ん。それは駄目でしょ。アウトだよ庄野さん。そこらの男に名前、呼ばせないでくれる?」

「はぁ?ナニ言ってんだ二人とも。そこじゃないだろ。京子さんて呼んでるのに本名を聞かれる珍妙さがポイントだろ?」

「「………」」

「違うと思います」

「…それで柿木さん、彼はどなたかな?」

「ああ、俺の下についてる子だよ。高木君だ」

「初めまして。木本さんのアシスタントをしてます。高木です」

「そうか。刑事さんね。理解した」

「…名探偵コナンの関連なら、佐藤刑事もどこかに欲しいですね」

「お?切り返しが早いな。柿木さんもこんなアシスタントがいてうらやましい」

「…そう。彼はこの若さで空気も読める子なんだよ。うらやましいでしょ?」

「同僚がコレだからなぁ。私はいっそ柿木さんが欲しいよ」

「ははは。アンタ時々、不意打ちでガツってくるの、やめてくれる?」

「?私は殴ったりしてないぞ。今は」

「…そうね、物理的にはね。ま、俺としても是非ともアンタを目の届くところに置いてたいかも」

「んー。私は柿木さんの仕事の役には立ちそうにないな。専門分野がニッチすぎる」

「……ヨーク、ランチのオーダーはボクがしておいていい?キミの好きそうなの頼んどくから」

「頼む。ってなぁ柿木さん、ところで今日はやけにテンションが低くないか?」

「だからー、何回も言ってるけど、俺はそもそも冷静なキャラなのー。庄野さんだけが特別なのー」

「特別かぁ。そういえば今日のランチ、何だった?グロウ」

「なんなのそわそわして。…って、そうか、確かに頼むメニューを聞いとかないと落ち着かないよね、ヨーク。ほうれんそうとなすとひき肉のトマトソースのパスタと、出始めの牡蠣を使った魚介ドリアをチョイスしといたよ。二つとも大盛りで頼んだし、シェアしよう?」

「おおおお?!!なんという私得!でかしたグロウ!」

「…木本さん、彼女のテンションが今までで一番高いんですけど」

「くいしんぼさんだからな、庄野さん。さて、俺らは行くか」

「あ、テーブルの上に何もないと思ったら、今から出るところだったのか。引き止めて悪かったな、柿木さん」

「とんでもないよ庄野さん。アンタ、今夜も同じくらいの時間に帰ってくる?」

「その予定だな。狂うことはまずない」

「じゃ、偶然また逢えたらお話ししようかね」

「うん?…ん、覚えておこう。じゃあまた、後で。柿木さん」

「後で」




「係長。さっきの、庄野さんのお連れの方にはご挨拶しなくてよかったんですか?」

「いい」

 んだよ。アイツ、庄野さんからは見えない位置でずっと俺にガンつけてきやがったし。

「偏見かもしれないですけど、金髪碧眼であれだけ流暢に日本語をしゃべられると驚きますよね。すごいイケメンでしたし」

「そうだな」

 シェア。っつーことは何よ、アイツ、庄野さんと同じメニューを今から食べるわけ?なんかマジでむかつく。

「ところで途中、グルーだとか鳥になるとか言ってたのって、何だったのかわかりますか?」

「…ああ。彼の名前がグローリアでグロウ、英語で接着剤がグルーだ。庄野さんがGrowとGrewで引っかけたんだよ。で、お返しにってヨークと翼で、彼が鳥に引っかけたんだ」

「ヨーク?」

「彼女は、庄野京子さんだ。ひらがなで書けば、しょうのき、ようこさんでも読める。だから会社で周りからシオノギだのヨーコだの言われてるんだろう。ヨーコがなまってヨーク。彼なりの愛称なんだろうな」

 だから、それでいったらアイツ、なんのかんの言っても庄野さんのこと名前呼びしてんじゃねぇかよ。あー、ガチで苛つくわコレ。

「……あの短い間で、よくそこまで頭が回りますね、係長」

「高木刑事ほどじゃないさ」

 何だかなぁ。俺、今夜こそ庄野さんちにあがりこんでラーメンでも食うかな。あの子のインスタントラーメン強奪してやろうか。

「……ところで、係長」

「なんだ」

「課でも評判の飄々とした冷静沈着、表情豊かな無表情が崩れるところ、俺、マジで初めて見ました。係長の牽制も気が付いてないみたいだし、グロウさんの大概あからさまな態度にもスルー。特別なの、本人だけが気付いてないパターンですか?」

「高木君」

「はい」

「世の中、気が付かない方が幸せなこともあるよ。きっと」

「………はい」


 そうね。まったく。かわいくて鈍いとか。どこまで俺のツボなのよ、庄野さん。


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