柿木さんと勘違い
二話目の重複でございます。
「おっとこんばんは、庄野さん」
「はい。こんばん……ああ、柿木さんか。んん、こんばんは」
「アンタ最初、無意識で挨拶してたでしょ?俺にぶつかりかけても気が付いてなかったとか……目ぇ開けたままで呆けてると危ないよ?」
「んー。眠くてねぇ」
「夜の8時でナニ言ってんだか。ところで、髪、切ったの?」
「切った。今。街で」
「単語で喋ってる!そんなに眠いの、庄野さん」
「ん。今なら、立ったままレムれる…」
「眠れるの間違いだよね!?あながち間違ってなさそうで怖いよ?!」
「柿木さんさぁ、もし良かったら私の家のドア開けてくれる?面倒なんだ…」
「どこまで眠いんだよ!むしろそれなら俺んちで…あ、今のなし」
「ナシ?どうして」
「アンタがそうやって、躊躇なしに上がってきそうだからだよ!男心なの!!」
「ふーん。オトコゴコロ、難しいな」
「……ねぇ、今アンタ、脊髄反射で喋ってるでしょう」
「悪い。わかった?」
「わかるよ…わかる辺りが我ながらすごいけどね。…髪さぁ、切ったら剛力に似てるね、庄野さん。………か、」
「ありがとう」
「わいいとか一切、言わせないソッコーさ?!しかも無表情のありがとう!?リアクションが薄いし!なんなの、嫌いな子だった?」
「………んんんん、あの、な」
「なぁに?」
「……今の、褒められたところ?お世辞?」
「…………うん?」
「いや、私さぁ、急にゴーリキーとか言われても、ロシア文学に詳しくないんだよ。どんな髪型だったけ?や、ゴーリキーってロシアの作家のことでいいんだよな?いたよな?」
「……ちょっとごめん庄野さん。俺が、良く、理解できないよ」
「あれ?いたと思ったんだけど……じゃ、じゃあアレか、ポケモンか!あの、岩のお化けみたい、な……」
「俺は他人の女の子の髪型についてポケモンに例えちゃうような男だと思われてんの?!ちーがーうー。剛力。剛力彩芽さん!女優さんの!」
「女優!?っあー、ちょっとそっちは私がダメだなぁ。全然わかんないや」
「……あああ、そう。そう」
「で、じゃあそのゴーリキさんとやらはどんな人…あ、携帯で検索してもいい?」
「どんだけ知らないんだよ!いいよもう!ショートが良く似合う、かわいい子なんだよ!!」
「あー、ショートヘアかぁ。なるほど、髪を切ったねって、短くなったねって言いたかったんだな柿木さん。それならそうと言ってくれれば…」
「かわいいはスルー!?」
「女優さんならかわいいんだろう?…あ」
「な、なに?!」
「眠気、取れたわ。ありがとう柿木さん」
「………いーえーーーー。どーいたしましてー。エレベーター、呼ぶ?」
「ありがとう。ふふふ、これでまた戦えるよ」
「は?アンタ何と闘うの?眠気?」
「ナニ言ってんだ柿木さん。飛ばした眠気と戦えないよ。あ、ボタンは私が押す。何階だっけ?」
「庄野さん?!」
「冗談だよ。私の階下だろ。大丈夫、泥船に乗った気持ちで」
「まかせられねぇ!ちょ、やっぱ俺の……」
「「冗談だよ」」
「…台詞が被ったのは初めてだな、柿木さん。結構、感動するなコレ」
「んーなことで感動してくれるんだったら、いくらでも努力するし」
「いやいやいやいやいや」
「イヤの数が多すぎじゃねぇ?!」
「柿木さんが合わせてくれるから、被ったんだろ?それって、私のことを良く見て、言いそうな事を覚えてくれないと出来ないだろ?だから、感動」
「……そこまで読み取れるんなら、もう一声」
「…んんんん?あ、そっちの階に着いたよ柿木さん。おやすみ」
「っ!!そ、そうね。………おやすみ、庄野さん」
っあーーーーー。もうちょっとあったら、庄野さんにあと一押し、出来たかも。っつか今夜も上がり損ねたし、俺……あの子いったい、何と闘うんだろうな。