柿木さんと苦手なもの
てれってれっとグダ話の回。
どうでもいいので直接、あげます。
「あ、柿木さんだ。ただいま、柿木さん」
「おかえり、庄野さん。……うん、やっぱりいいわ」
「うん? なにが?」
「ただいまで、おかえり、だよ。俺の考える幸せの上位なの。あ、庄野さん、今夜も一緒にメシ食える?」
「ん、や、んー。……柿木さんさぁ、嫌いなモノってあったっけ?」
「そうねぇ、匂いが強すぎるのはちょっと避けがちだけど。どうしたの?」
「や、私の従姉妹がさぁ、……あ、そっちの階に着いたな」
「あーっと、今日はどっちの家でメシ食う……って言ってるあいだが勿体ないか。ちょっとこのまま、アンタんちまで行っていいかな? お邪魔しないから」
「しても構わない、よ。ん、んん、待った。エレベーターのドアが閉まったところでなんなんだけど、今夜は柿木さんの家に行っていい? 着替えてからそっち行くし」
「いーやぁ、もう俺が待ってるからこのまま移動しちゃおう。それで? 従姉妹さんがどうしたの」
「あーーーー。じゃあ適当に立っててくれる? 座っちゃうと私がこのままダラダラってしそう。着替えてくる」
「はいよ。待ってる」
「待ってて」
「…………待ってて、だって」
「あ? 何か言ったか? 柿木さん」
「っうっわぁ?! アンタ着替えるの、ものっすごい早くねぇ?! なんなの忍者?」
「忍者ならクノイチだな。光栄だ。さて手土産とメシこれな。行くか」
「ん。荷物貸してくれる? 持ちたいから」
「はいはい。……っあ、それでな」
「うん?」
「従姉妹」
「ああ」
「学生自分のころからの片思いこじらせてた男の子と先日めでたく両想いになったとかで」
「……へぇ?」
「京都に二人旅」
「………………ははぁ」
「……柿木さん、タメが長すぎじゃないか? 大丈夫か? 京都にトラウマでも」
「ないよ! むしろ羨ましすぎて言葉も出ないほうだよ!」
「ふぅん? つまり京都にそんな勢いで思い入れが」
「ないよ! 二度目のナイよ?!」
「おっじゃましまーす。柿木さん、その紙袋の中、今日はカレーなんだよ。一緒に食う?」
「喰う。じゃあこの重さって、白飯も入ってるってこと?」
「入ってるな。とりあえず3合分持ってきた」
「おっと、それはガチで楽しみかも。座ってて? レンジで温めてくる」
「頼む。……いやいや、それで、その土産だよ。私さぁ、八つ橋苦手なんだよね」
「……っあーー。理解したわ。なるほどねぇ。アンタ、どれがイヤだか知らないけど、匂いが自分の部屋にこもるのが嫌なくらいに苦手なんだ?」
「うん」
「カレー作っちゃうほど?」
「……うん」
「そっか。よし、ご飯あったかくなったよ。皿だして」
「……柿木さんさぁ、私がさぁ、なんていうか突拍子もないこと考えるって笑わないよな」
「なに、急に。笑わないよ? アンタはかわいいよ」
「ん、まぁその辺りは置いておくとしてな? 私はかなり昔から『変わった子』だったわけなんだけど」
「置くの?! ねぇ、いま俺、渾身の甘目ストレート絶好球投げてなかった?!」
「こういうふうに、家に上がりこんで一緒に飯食うような仲の子に優しくしてもらったことって、考えてみたらないんだよな」
「いやいやいやいや俺が知ってるだけでも何人も名前あげられるし! アンタがたいがいボケ倒して『なかったこと』にしちゃってるだけじゃねぇ?!」
「…………柿木さんと私の考える優しさには、もしかしなくても違いがあると思うな、私」
「はぁ?!」
「無ければ生きていけないほどの重いものじゃないけど、私にとってアレは、……うーん」
「どこのマーロウなの、アンタ!」
「うーん。美味しいカレーと白飯と。アレだな、こうなるとアイスクリームとアルコールが欲しいな」
「自画自賛極まりねぇ! アイス? 一緒に買いに行く?」
「んんん。うん。食べたい。ちょっとでもカロリー消費したいし」
「ね、それってさぁ、歩いて買いに行くのがアイスクリームな現実はドコに行くの? わりと俺、素で疑問」
「馬鹿だなぁ柿木さん。カロリーを消費しようとした行為で、全ての現実的甘味はチャラだよ」
「……あ、そう。そんな感覚なの」
「うん。けど私は気にならないけどな。もしかしたら他の女の人だと、水差したことに怒られるかもしれないから柿木さん、この先同じことがあったら注意しとけよ」
「しとけってアンタ……。俺としちゃアンタが怒らないなら注意することもないよ」
「……うん?」
「うん。で、フレーバーは。決めた?」
「うぅぅぅぅ? 味は……ミントにする。けど、な?」
「さぁさぁさぁ。エレベーター来たし。手袋代わりの俺のポケットにアンタの手も入ったし。行こうか」
…………えっとねぇ、庄野さん。言い訳させてもらえるのならアンタのせいだから。ここまで踏み込んで俺が土壇場で逃げるのって、アンタがことごとく華麗にかわしてきたせいだからね!!
…………あ。ああ。これがアンタの言うところの「親切にされてもらった覚えがない」ってことか。うーわ、俺も同じ轍ふんでんのか、これ。
珍しく短い話でした。いやいや、このくらいがイイかも。