全国の柿木さんへ
というわけで、連載といたしました。本文のみ重複させます。
「あら、ただいま。柿木さん。」
「…はい、ただいまでおかえりですね庄野さん。なんかすごい荷物ですけど。」
「ん、実家の方からイロイロ送ってきてさぁ。あ、あれだったらウチでご飯でも食べてく?全部インスタントラーメンだけど。」
「は?!アンタその大きさのダンボールで中身が全部アレなの?」
「あれって言うなよ柿木さん。うん、私さ、インスタントラーメン偏愛主義なの。」
「…い、いやいや、じゃあ俺を誘ってもどうしようもないんじゃないの?偏愛とまで言うんならさ、アンタの取り分、俺に分けちゃったら減るでしょ?」
「!?」
「や、驚きすぎだよ?!考えてなかったの?!」
「…お、お前アタマいいな…。」
「………庄野さんてさぁ、アンタこそガチで頭がいいくせに、どっか抜けてるよね。」
「むしろ穴だらけだな。」
「自覚してるんなら直そうよ!?」
「はぁ?面倒だろう?」
「…ああ、うん。アンタはそう言うと、俺は思ってたよ…。」
「予定調和か。あー、なんだ、負け犬の遠吠えか?」
「違うから!その二つの単語はびっくりするほど違うからね!?」
「…つくづく思うが、柿木さんのテンションていつも高いよな。疲れないか?」
「誰のせいだと思ってんの…。これでも俺、会社では冷静沈着キャラよ?あ、エレベーター来たわ。そのダンボール貸して。」
「なにぃ?!てめぇ私のインスタントラーメンを丸ごとっ」
「横取りするわけないでしょ。っつか、インスタントラーメンごときで熱くなりすぎだよ庄野さん、今、俺のことテメェ呼ばわりしたし?」
「あぁ?したか?」
「した。クッキリハッキリした。ね、先に俺が庄野さん家にコレ運ぶから。階数のボタン押して。」
「んーーーー、そうか。私にとって言葉が汚いのは日常茶飯事なのだがな。それでも、すまん。あと、もしかしてインスタントラーメンのお裾分けが欲しいんじゃなかったんなら…。」
「なかったら?」
「夕メシ、一緒に食ってくのか?」
「………っあー、俺はね、一応、男でね。」
「知っているが。」
「庄野さんとは、マンションの上下の部屋だっていう繋がりだけなのね。」
「?だから、知っているが。」
「ううううう、もう、どうやったら伝わるの、アンタに…。」
「……あっっ!」
「あ?わ、わかってくれた?」
「うん。」
「そう、俺さ、実は庄野さんのことが、もっと、さ。」
「インスタントラーメンが欲しいんじゃなかったらあれか、柿木さんのこれはもしかして、重い荷物を持って行ってやろうという紳士の精神による親切心か!」
「………そう、ね。そう、ねぇ。」
「いやぁ済まないな!私のことを女性扱いするなんてものすごく珍しい男だよ、柿木さん!感動した!!」
「…たかが軽いダンボールごときでアンタ……いったいどういう日常なの?」
「まあまあまあ。そうこうしているうちに着いたな。どうする?本当に夕飯はいらないか?お裾分けも?コーヒーも?」
「いらねぇよ!ちっくしょう、そこまで田舎のおばちゃん風に言われたら逆にやましくて上がりこめねぇ!なんだコレ、新手の撃退法?!」
「柿木さん…いきなり怒るなんて、実はそんなにラーメンが」
「欲しくねぇから!くそっ、次のチャンスで、ぜってーアンタん家にあがるから!」
「あ?ああ、そうか。それじゃあまたいつかな。柿木さん。」
「あーもー軽ぅく流されるなんてふざけんなしー。俺はヘタレじゃねぇのになぁ…。ところで庄野さん。」
「なんだね?」
「俺、柿木さんじゃなくてさ、基樹だから。木本基樹。」
「キモトモトキ?どこで切る?…ああ、もときなら、モックンで、やっぱり柿木だろう。」
「庄野さん?!そんなEテレマニアな発言には俺は付いていけないからね?!五分アニメとかニッチすぎてむしろ、誰も理解できないからね!?」
「そうだな、柿木さん。じゃあまたいつか。」
「別れの挨拶がさっきと同じかよ!やっつけすぎじゃね!?」
「うんうんうん。おやすみ、モックン。」
………あああああ畜生。くそったれ。なんであんな、可愛いかな。