文化祭一週間および弱小部活動の現状 #2
結構空いたけど内容がいいわけではない・・・・・・
次の日の朝である。
「聞いたぞ。またギリギリらしいな、文芸部は」
法明の机の前にはクラスメイトの真田涼太がいた。部の大きさでいえば一、二を争える野球部所属の彼は、そういった悩みは当然ない。
「本当に大変だよ。剣道部の方だって文芸部とまではいかないけど部員は五人で大変なのにさ」
「まあ、頑張るんだな。あの葉月さんのいる部で活動してるんだからさ」
「それはどういうことだ? 彼女のいる部はつぶれないって伝説でもあるのか?」
涼太の言葉の意味が理解できずに聞き返すと、涼太に本気で驚かれた。
「お前というやつは……あの葉月さんと同じ部にいてなんの幸せも感じないのか!」
あ、そういうことか、と法明は一瞬で興味を失った。
「だいたい君は女子に無頓着すぎる。あの葉月さんの……」
机を挟んだ法明の前で力説を続ける涼太から一旦目を切る。もちろん、これ以上聞く必要はないと思ったからに違いない。
と、目を反らした先で話題の葉月と目があった。
どうやら、こちらを見ていたようだが、すぐに恥ずかしそうに視線をはずされた。
まあ、あれだけ大きな声で涼太が騒いでいたのだ。聞こえていれば、恥ずかしいのも当然か。
そう思った法明は、また涼太の話に意識を戻した。
「チィース、と皆さんお揃いで」
「君も、早く議論に加わってくれ。昨日も言ったけど、これは部の存続がかかっているんだから」
入室早々にコウメイに指示を下された。
「その感じだといい案はでてないみたいだな」
自分の椅子に腰掛けた法明は、やっぱりなといった感じの声を出す。
そして、自分の竹刀袋を指すと
「このあと、剣道部にも参加するって言ってるんだけどさ。えっと、」
「いいよ。僕たちだってただ情報交換のつもりで集まっただけさ。交換する情報がないならいても一緒さ」
コウメイが法明の言葉を遮って言った。そして、本当に席を立つと荷物をまとめだした。
「お、おい。別にいいんだよ、あと少しはここにいても」
自分が追い出したように感じたのか法明が慌てて止めようとする。
その瞬間。コウメイの目が音もなく何かを言った気がした。別に法明になにか伝えようとした目ではない。ただ自信にみちた、何もかもが自分の下にあり文芸部の存続など別に考えるようなことではない、という目だ。中学生の時から何度か見たことはあるが、この目はコウメイが何か企んでいる証拠だ。
法明は何も言えなくなった。
「え。ああ、所沢勝だろ。知ってるよ。っていうかあいつのこと知らない一年生なんているのか?」
体育館の二階部分に作られている、半面は畳、もう半面は板張りという通称武道場と呼ばれる施設。
中には剣道の防具に身を固めた剣道部員が休憩をとっていた。本来は五人いる剣道部だが、文化祭が近づいているためか今日は二人だけだった。
武道場の隅に座って水分をとっている二人の一年生部員のうち片方は言わずと知れた鍵谷法明だ。そして隣に座るメガネの少年は土屋元春。当然ながら剣道部員で法明の同級生だ。
「とにかくあいつは勉強においちゃ誰も勝てない存在だからな。特に成績上位の人間にはとっても有名だと思うよ」
いままで面をかぶっていたからか汗に汚れているメガネを丁寧に拭きながら元春はそう続けた。かく言う彼も成績上位者の一員であり、彼もまたコウメイを倒そうと頑張っている一人なのだ。
「そうか。いや、ちょっと最近あいつがおかしいような気がしてな。それこそ文芸部のために事件でも起こしてしまいそうな雰囲気なもんでね」
「変わっているといえば、いつも変わっているような奴だからな」
「ま、そうだよな。それに、あいつの考えていることは誰にもわからないと思うぞ。さ、練習再開しようか」
「よし、確か俺の一勝二敗からだったな」
法明が横に置いてあった面に手を伸ばすと元春も自分の面を手に取る。
しばらく無言で面をつけていた二人はしばらくして板の間の真ん中で向き合った。もちろん竹刀を握っている。
軽く頭を下げた二人は竹刀を正眼に構える。
先程までの和やかな空気はわずかも残っていない。数瞬の静寂。
先に動いたのは法明だった。足が滑るように前進する。正眼にあった竹刀が跳ね上がり元春の面を狙う。
元春もただ打たれるはずもなく自分の竹刀を持ち上げて面を狙う竹刀を受け流す。そのまま流れるように今度は法明の胴を薙ぐ。
スパァァァンと乾いた音が武道場に響く。
一瞬二人がお互いに何が起きたかわからないような表情をうかべた。
剣道は本来打突を打ち込む際には鋭く声を発する。しかし元春はきれいに胴を薙いだにもかかわらず一言も声を出さなかった。
「法明、お前なんだかんだ言って文芸部やコウメイのことを気にかけてるんじゃないか?」
そう、今の斬撃はもともと当てるつもりはなかったのだ。法明が防御してくれることを前提とした一撃だったのだ。しかし法明は防がなかった、いや防げなかった。
「やっぱ、剣道ってのは気の乱れが天敵だな」
「怪我するぞ。・・・・・・今日は終わりにしよう。どうもさっきの話はまずかったみたいだな」
帰り道。
アパートへ向かう道で法明は黒髪を揺らす影をみつけた。
法明は小走りに追いかけた。別に他意があってのことではない。ただ、早くに終わったはずの文芸部の部員が今頃になって帰っているのが気になったのだ。
「葉月さん」
「あれ、ノリ君?剣道部に言ってたんじゃ」
「ちょっと事情があってね。葉月さんこそ、何してたんだい?」
法明の質問に葉月はちょっと困ったような表情を作った。
「あのね・・・・・・ノリ君はコウメイ君が何をしようとしているのか気にならなかった?」
「え、そりゃ気になったけど」
「やっぱり?私も気になったからちょっと友達にそれとなく聞き込みをしたの。そしたらね・・・・・・」
葉月はそこで言葉を切ると足を止めた。
「・・・・・・何かあったの?」
「コウメイ君と関係ないかもしれないけど・・・・・・変な噂が流れてたの」
「変な噂?文芸部について?」
「ううん。実はね・・・・・・」
「ノリ君は学校の七不思議って信じる?」
後半部は結構改善点ありかも