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絶望高校帰宅部  作者: 南野海風
七月
83/202

082.七月十二日 火曜日





 教室に入ると、柳君はすでに席についていた。


「おーす一之瀬ー」

「おはよう」


 擦れ違うクラスメイトと挨拶を交わし、僕も席についた。


「おはよう、柳君」

「ああ」


 柳君は今日も変わらない。

 まあ、あたりまえか。変わったことがあるとすれば、それはこっちの方だ。





 昨日の月山凛のことだ。

 当然というべきか、身の丈にあっているというべきか、やはり僕は普通に彼女のことで悩み、考え、柳君をちょっとだけ違う視線で見始めている。

 追いかけまくる月山さんと、拒否し続ける柳君。

 知らなかったこれまでならまだしも、もう知ってしまった。完全無視できるほど僕はさばけてないし、ましてや干渉しまくるなんて無遠慮なこともできない。


 ……うーん……どういうスタンスで接すればいいんだろう? 願わくば、柳君にも月山さんにも望ましい未来になって欲しいとは思うが……


「……どうした?」

「いや」


 じっと見ていたって何も解決しない。少し探りでも入れてみるか。


「柳君ってさ、彼女いる?」

「いない」

「作りたいとは?」

「今はいらない。急にどうした?」

「夏休みのこと考えてた。彼女とデート三昧なのかなぁ、と。いきなり遊びに誘ったりとか迷惑かな?」

「そんなことはないが。……そうか、夏休みか」


 来週からだしな、と柳君は冷めたものである。まあいつも通りだ。夏休みを喜んでいるかどうかも見た目では判断できないし、遊びに行きたいと思っているのかどうかもわからない。

 そんな柳君を見ていて、僕は決めた。


 ――月山さんの応援はしないでおこう、と。


 柳君の情報は、少しだけ渡す。でも積極的にくっつけるような真似はしないでおこうと思う。いや別にあんな美少女と柳君が付き合うのが許せない、とかそういう嫉妬ではなく。

 だって柳君の意志ははっきりしているから。


 中学時代、ずっと月山さんをフリ続けていたらしい。それは間違いなく柳君の意志である。つまり月山さんには悪いが、柳君にその気はないということだ。

 柳君にウザがられるのも嫌だし、僕は応援はしない。

 でも、もちろん月山さんの邪魔もしない。必要以上に関わらない、というだけだ。


 自分のスタンスが決まると、なんとなく楽になった。

 あとは僕が月山さんの「お願い手伝って! 腰がくだけるほど罵倒してあげるから!」という小悪魔の誘惑を断りきれるかどうかである。当然拒む自信はない。


 月山凛、か……

 彼女の姿は、思い出すまでもなく、あのただならぬ美少女オーラごと僕の網膜に強烈に焼き付いている。

 日本人離れした色素の薄い白い肌と、あの明るいキャラメル色の髪。もしあれが地毛だったら、外国の血が入っているのかもしれない。


 昨日会った時は結構残念な感じだったが、あれはきっと柳君が関わっていたからだろうと思う。

 高校から九ヶ姫に編入しているのだ。あそこの入試は求められる学力も高いし、何より中学での生活態度が大きく関わるそうだ。だから品行方正なお嬢様が多いのだ。

 昨日見た限りの月山さんでは、どうにも受かるかどうかあやしい感じだった。


 月山さんの普段を推測すると、こうだ。

 明るくてよく笑い、誰とでも気兼ねなく話せるタイプ。多少のバカは魅力だろう。男にも女にも人気があって、きっと彼女がいれば盛り上がるというムードメーカーみたいな存在。たぶんこんな感じだと思う。

 そして柳君が絡むと若干壊れる、と。


 ――あ、そうだ。


「柳君、一枚撮っていい?」


 僕は携帯を操作し、カメラレンズを柳君に向けてみた。


「なぜだ?」

「ちょっと対比を見たいから。これ持ってくれる?」


 僕は対女子用に考えていた「一枚撮りたい口実」を駆使し、「写真を撮る理由」を突き出す。


「…………」


 僕が財布から出して渡したのは、三分の一スケールのタバコの箱である。当然玩具だ。


「それを持つとあら不思議! 柳君が巨大化しちゃったよ!」


 ピサの斜塔を支えたり、口の中から誰かが出てくるとか、あの辺の遠近法を利用したチープな手法のアレである。


「……おまえバカだろう」


 若干呆れられたようだ。でも僕がバカは承知と言わんばかりに笑うと、柳君はタバコの箱を渋々持ってカメラ目線をくれた。





 もちろん対比なんてどうでもよく、せっかくメルアドを手に入れたので、さっそく美少女にメールを送ってみようと思ったからだ。


 タイトルは「柳君がビッグに育ちました」で、今撮った写真を送信、っと!


 ついでにクールな友人にも送信、っと!





 ほどなく返信が来た。





『一之瀬さん、一生ついていきます!!!!!』


 うそつけよ。君がついていくのは柳君のあとだけだろ…………って思うけど、冷めた気持ちより嬉しい気持ちの方がはるかに大きい! 網膜に焼きつきっぱなしのあんな美少女が僕に「ついていくッス!」とか言ってくれたと思うとシャレにならんくらい嬉しいな! 結婚してくれ!





 さて、少し遅れて来たもう一通のクールな方は……あれ? 写真つきだ。


『昨日からこっちはテストです。できればタイミングを選んでほしいかと。』


 そんな本文から始まり……写真を開くと、うつぶせに倒れているキャラメル色の髪の女子――恐らく月山さんの姿が添付されていた。


 ああ、容易に想像できる。

 柳君の写真にテンション最高潮の月山さん。

 調子に乗った月山さんを、ウザい上にテスト直前というタイミングでピリピリしていた清水さんが鉄拳制裁。


 そしてこの写真に繋がる、と。





 本当に彼女らは友達なのだろうか。

 僕はそれを確かめたくなったが、どうにも確かめるのが怖くて聞けなかった。



 正直なところ、柳君と月山さんの今後の進展より、あの二人の関係の方が気がかりだった。












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