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絶望高校帰宅部  作者: 南野海風
九月
153/202

152.月二十六日 月曜日





「――はい、それでは次のおたよりー。好きにやっちゃっ亭キムラさんからですー。どもねー。


 もし俺に天城山飛鳥のような恋人ができたらって妄想しただけでメシ三杯は軽くイケちゃうんですけど、これって恋?


 いやー、みんなそうだと思うよー。俺ももうすげーテンションあがっちゃってるからー。今夜とかたぶん寝れないからさー。

 だってほらー、あのお嬢様校の九ヶ姫女学園と合同学園祭になるんでしょ? そんなの興奮すんなってのが無理だろー。かったるいばっかだった男だけの学園祭が、一瞬にして高校一大イベントに早変わりだっつーのなー。なー? そうだろー?」



 土曜日放課後の九ヶ姫生徒会一同の八十一高校訪問は、月曜日の朝には全校生徒に知れ渡っていた。一部の者にしか見られなかったはずだが、噂の拡散には確実に成功したという証明である。

 朝から信じられないくらいの盛り上がりを見せていた八十一全校生徒に、更に火に薪をくべるように生徒会からの全校放送があった。


 曰く「今度の学園祭は九ヶ姫女学園と合同で行われることとなった」と。


 朝っぱらから狂乱の騒ぎはピークを迎え、その勢いは昼休みになっても衰えることなく、いまだ騒ぎは収まっていないのだが――


 まあ、お祭り気分で騒いでいるだけではいられない連中も、中にはいるわけで。





 昼休み。

 いつもの昼の放送が聞こえる程度には、一年B組は落ち着いていた。


 パンと学食組が戻ってきたのを確認して、僕らはクラス委員長の竹田君と副委員長の西沢君、自称情報通の渋川君の三人を中心にして、各々昼食を取りながら会議を行っていた。

 いつもはゲームで遊んでいる連中も、すぐ飛び出してどこかで遊んでいて昼休み中戻ってこない連中も、午後は昼休みから抜けてサボるヤンキー久慈君さえも、今日この時ばかりは真剣な表情で、我らがリーダーたちの話に耳を傾けていた。


「生徒会から正式な発表があった以上、これからは生徒会が指揮を執る。よって俺たちができることは少ない」


 いつも寝ぼけている竹田君が、今しっかり起きている。それだけ取っても彼の意気込みが伺える。……まあ午前中の授業はいつも通り寝ていたが。


「だが少ないからこそ完璧にこなすべきだと俺は思っている。チャンスが巡ってきたのなら全力を尽くす。こんな時にまでちんたらやってる奴はバカじゃねえ、ただのダメな奴だ。専門用語で言うところのマダ男だ」


 うん、今やらない奴はダメな奴だと僕も思う。……まあマコちゃん辺りはあんまりやる気ないかもしれないが。朝からすっげー面白くなさそうな顔してるし。つまんなそーな顔してるし。

 ……ところで「マダ男」ってなんだ? 物陰からドヤ顔でひょいと出てくる肌男の親戚か何かだろうか?


「とりあえず俺たちがやるべきことは、俺たちB組の出し物を決定することだ。今日中に決めないとかなり厳しいからな。

 いいか、女子が参加するんだ。そこを踏まえて意見を出せよ。もうおさわり喫茶は却下だからな」


 クラスメイトたちからベタなものも欲望まみれなものも的外れなものも、出し物の意見が飛び交う中、僕は渋川君に呼ばれた。

 彼は僕を呼ぶと、そのまま教室の後方へと行く。僕も弁当を持って渋川君のあとを追った。





「どうしたの?」

「これから調べてきた情報を整理する。手伝ってくれ」


 おお、情報の整理か。渋川君らしいな。


「手伝うのはいいけど、僕は何をすれば?」

「意見を言うだけでいい」


 どうやら意見を述べるだけの簡単な仕事らしい。

 僕らは向き合って床に座り、クラスの騒ぎとは違う場所にいるかのような別次元で、静かに皆と違う話を始める。


「おまえに九ヶ姫のことを任せている間に、俺たちもできることはしていた。聞いてるよな?」


 ああ、確か、アレだ。


「他のクラスの出し物のチェックとかしてたんだよね?」

「そうだ。だが正式に生徒会が動くことになった以上、俺たちには不要になった。だから生徒会に提出しようと思ってるんだ」


 うん、それがいいだろうね。きっと生徒会が活用してくれるはずだ。


「放課後、クラス委員を集めて色々話し合うとか言ってたよね?」

「ああ、それこそ俺たちが今握ってる情報を話し合うんだよ。九ヶ姫が関わるならまずNGって出し物がいくつかあるから、それらの方針変更の通達とかな。とにかく時間が厳しいから、できる限り無駄は省きたい。俺たちの情報があれば、まあ多少は早く済むだろ」


 そっか、時間制限もあるんだよな。あと一週間だもんな……これまでの準備がすべて無駄になる可能性もあるわけだから、確かに時間はシビアかもしれないな。

 それに、何気にB組(ぼくら)も他人事じゃないしね。まだ出し物決まってないから。


 渋川君は生徒手帳を取り出し、捲る。


「まず三年の『裸神輿』がダメだろうな」

「え? 何それ?」

「裸にふんどしで手作りの神輿を担いで校内を練り歩く、と言った男臭い出し物らしい」


 うわあつまんなさそう……それ楽しいの本人たちだけだろ……


 というかさ、まず「脱ぐ」って発想をどうにかしてほしい。そのせいで「妖精さんが出た!」なんてひどいフォローをすることになった僕の苦労を知ってほしい。少しでいいから知ってほしい。


「これはNGだよな?」

「うん、ダメだと思うよ。どうしてもやりたいなら校庭辺りでやってもらうしかないね」


 なるほど、と渋川君は手帳にメモする。


「次は二年の『裸喫茶』が……これはかなりキテ(・・)るな」


 渋川君的にもアレらしく、彼は思いっきり顔をしかめる。

 ……というか「脱ぐ」って発想をさ……いや、まあいいや。渋川君に言ってもしょうがないし。


「ぶっちゃけると、裸エプロンで接客するっていうアグレッシブな喫茶店らしい」

「それダメだろ。というかさ、なんでまず脱ぐって発想になるの?」


 もう国で定めるべきだろう。男の裸エプロン禁止ってさ。

 ……ああ、いや、でも、しーちゃんや守山先輩なら需要は高いのかなぁ……そんなの見た瞬間、己の理性が崩壊しそうだけどな……見たいような見たくないような……


「俺に聞かれても答えようがないが……確かに脱ぐ系多いな」


 マジかよ多いのかよ……もうアレだわ。女子を遠ざけようとしてるとしか思えないわ。


 その後も、主に裸系の出し物の意見を求められた。

 当然僕は却下した。


 まず安易に脱ぐという発想が許せなかったし、脱げばなんとかなると思っている甘えも許せないし、見せる方は気持ちいいかもしれないが見せられる方の痛みは無視しているのが気に入らない。

 だいたい海辺でもないのに裸で女子に近づくとか。

 それこそ通報ものだろ。





 メシがまずくなること請け合いの裸系の出し物の話が終わる頃、昼休みも終わろうとしていた。


「こんなところか。悪かったな、付き合わせて」

「いや、役に立ったんならいいんだけど」


 手帳を閉じた渋川君と一緒に立ち上がり、ふと黒板を見た。


「まだモメてるね」

「そうだな……でももう粗方まとまってるのか?」


 黒板には、三つの出し物が書き出されていた。 

 非常に静かな、それこそ一対一で話しているかのようなB組会議は、その三つの意見で対立している様相になっていた。


 一つはコスプレ喫茶。

 なんか色々な衣装を着て接客しようぜ、というシンプルな喫茶店のようだ。……でも今渋川君に聞いたところによると、よそのクラスでも喫茶店やりたいって声は多いみたいだけどな。たぶんコスプレ喫茶もどこかの教室とかぶってると思う。


 二つ目は、おばけ屋敷。

 女の子をキャーキャー言わせてやるぜ、という彼らの下心が見えるような出し物だ。まあ肝試しでもやったから、これはこれでそれなりに需要が見込めるのかな? でもこれもよその教室とかぶってるような気がする。人気あるらしいからね、おばけ屋敷。


 三つ目は、……おお、B級グルメ屋台が入ってるじゃないか。やっぱり僕と同じように「こいつぁイケる!」と思ってくれた同志がいたようだ。


「コスプレ喫茶は多いだろ。俺が知ってるだけでも三クラスはあるぜ」

「だいたいB級グルメ屋台って何すんだよ。予算も少ねえし、特殊な材料がいる食い物ならアウトだぜ? でもありきたりなもん出すならB級でさえないだろ」

「おばけ屋敷はベタ過ぎねえ? それにせっかく女子が来るんだから、ちゃんと顔あわせて接することができる出し物にしたくねえ?」


 などなど、決してケンカ腰ではない冷静な意見が飛んでいた。

 うん、今日ばかりはみんな結構真面目に話し合ってるじゃないか。


 彼らはこんな一面も持っているのか……意外と言うしかないものの、ちょっと感動した。


 ……まあ、大喜多君は皆にボッコボコにされたのか、机で死んでいるが。





 だが話し合いは平行線で結局結論は出ず、ついに昼休みが終了した。


「よし、わかった」


 竹田君は頷き、宣言した。


「この三つの内のどれかで決定するから、明日まで何にするか意見を定めてくれ。俺としては、この三つはどれも欠点があると思う。自分が支持する案と、それを埋めるアイデアや代案なんかも考えてほしい。

 そして明日も話し合って、話し合いで決着がつかなければ、最終的には多数決で決める。それでいいか?」


 行き詰まっていた会議である、文句は出なかった。





 明日決定か。

 うーん……僕も考えなきゃ。


 もう一度妹に聞いてみようかな?










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