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絶望高校帰宅部  作者: 南野海風
九月
139/202

138.――A secret meeting 九月十八日 日曜日  態士




 とりあえず、九ヶ姫の文化祭についてはこれくらいか。

 おさらいすると、こうだ。


 文化祭に潜入するにはチケットが必要で、チケットは九ヶ姫の生徒から貰うしかない。

 中高生は制服着用での参加が義務付けられていて、「大学生ですけど」みたいな嘘もできなくはないみたいだが、少なくとも僕は誤魔化せないだろう。童顔だし。


 僕が参加することになると、九ヶ姫女学園に嫌われている八十一高校の制服を着ることになる。疎外感を感じるだけならまだしも、村八分状態になって追い出される可能性も意外とあるかもしれない。

 一人で行くと、まあ、針のむしろだろう。せめて味方が一人は欲しい。

 そこで互いの利点を照らし合わせると、候補としては柳君がいいだろうということになった。柳君はメンタルも強いしね。


 何より、彼がいたら女の子がよってくるからね! ……柳君目当ての女子が。僕なんて眼中にない女子が。むしろ「邪魔」と言っちゃった女子が。


 僕はもうその辺のアレは諦めようと思う。

 もうモテる柳君を至近距離で見続けようと思う。

 いいよ。僕にとっての女の子は観賞用でいいよもう。もう見るだけでいいよ。


 だが僕を舐めるなよ……どうせ僕は好かれる嫌われる以前に眼中にない存在だ。


 柳君の隣で、超至近距離で、女の子を見てやる!

 おっぱいとかケツとか超近くでガン見して、一生分の男のロマンを夢見てやる! モテない男ならモテないなりに、身の丈にあった楽しみ方をしてやる!

 ああそうさ、胸いっぱいに女子の楽園のトキメキを吸い込んでやるぜ!





 よし、これで僕の九ヶ姫女学園の歩き方は決まったな。

 今度は八十一(うち)の学園祭のことだな。


 僕が二人に相談したのは、「女の子に受けそうな出し物って何?」ということである。

 九ヶ姫と違って、うちは入場制限なしのオープンな学校である。ならばこの機会に女子を呼び込まなくてどうする。

 そう考えた僕は、まだ決まっていない我ら一年B組の出し物を、いかにも「女の子に受けそうな出し物」にしたいと思って相談したのだ。


 実はこれ、遠い意味では、月山さんたちにも関係している。

 女子が行きやすい出し物を準備できれば、当然この二人も来やすいだろう。学園祭の出し物であるなら、大手を振って柳君に会いに行ってもいい。この日ばかりは月山さんが言っても柳君は文句は言わないだろう。……まあ何するかはまだ決まってないんだけど。


 とにかく、このままだと「おさわり喫茶」なんてふざけたものが、数の暴力で実現する未来も見えなくはないのだ。なんだかんだでこのまま決定打に欠けて最終的に多数決になると……僕は僕ら(バカども)のことを信頼しているので、逆にそれもありえると確信している。

 そんなことになったら女子がやってくることなんてまずない。

 というか問題起こしてますます周囲の女子に嫌われるのが目に見えている。


 あのバカたちを納得させるためにも代案が必要で、その代案は「女子が参加すること」以外にありえないだろうと僕は思っている。

 決して僕一人の利のためのものではないのだ。

 ……まあ、自分の利を第一に考え動いていることは、否定しないが。


「一之瀬さ、一つ勘違いしてるかも」


 月山さんが小さなフォークをもてあそびながら、モンブラン(・・・・・)を凝視しながら言う。

 そう、僕のモンブラン(・・・・・・・)を。


「君のクラスだけで女子受けする出し物やっても、女の子は来ないよ」

「え?」


 それはいったい……どういうことだ?


「そのモンブランさ、美味しそうだね」


 ……このタイミングで催促来たか。

 なるほど、これ以上の言葉を聞きたければこのモンブランを献上しやがれ、と。おまえにはもったいないからよこせよこのブタ野郎、と。そういうことですか。


「凛。はしたないよ」


 清水さんのナイス援護が入ったが、僕はもう、これを注文した時点で諦めている。


「いいよ。清水さんもよかったら味見していいよ」

「あれ? いいの?」

「それより話の続きを」


 差し出した皿を「やったー」と笑いながら受け取る月山さんは、リクエストに答えて話の続きを始める。


「いいかい? そもそも、粗野で粗暴な男子校に行こうなんて奇特な女子自体が少数派でしょ。それもその少数は、学園祭を楽しみに行くんじゃなくて、他に目当てがあるから行くんだよ。どこで何やってようが目当て以外興味がないんだよ。基本的にね」


 月山さんの言葉は、最初から最後まで、目から鱗が落ちかねないような推測だった。

 そうだ、推測だ。

 でも僕は、それら全てに納得した。


 考えるまでもないだろう。

 男子である僕だって、自ら望んで八十一高校に関わりたいかと問われると、迷う。というかたぶん関わりたくない。学園祭なんて行かない方向で結論を出しそうな気がする。

 それが女子の立場なら、数々の風評と悪評から、なおさら気は進まないだろう。


 月山さんが言った「粗野で粗暴な男子校に行こうなんて奇特な女子」とは、八十一高校に付き合っている彼氏がいるとか、付き合いたい男がいるとか……恐らくはこの二つのどちらかに分類されるはずだ。危険を推してでも参加したいというなら、やはり恋愛絡みのことだと僕は思う。


 つまり、だ。


「今のままじゃ女子の参加なんて夢のまた夢、と……?」

「そうだね。少なくとも九ヶ姫の生徒で自ら八十一高校の学園祭に行こうなんて考えるのは、私たち併せて五人もいないだろうね」


 そう、か……そうだよなぁ……僕は根本的に間違っていたのか……


 僕が考えていたのは「学園祭に参加している女子を呼ぶための出し物の相談」だ。

 だが根本的な問題は「そもそも呼び込める女子が参加しないよ」という、本末転倒なものだった。

 これじゃ何を企画しても、女子なんて来ないだろう。


「……まいったな」


 これじゃ代案だって出せない。最悪「おさわり喫茶」が実現してしまうかもしれない。

 ……そうなったら問題が起こるのは目に見えているし、弥生たんもマジギレするだろうなぁ……あるいは実現してマジ触りして問題になって停学とか食らったりするのかなぁ……八十一で停学処分なんて相当なのになぁ……


「どうすればいいと思う?」

「諦めたら? 私たちは行くからそれでいいじゃない」


 月山さんのとびっきりの笑顔を見たらそれでもいいかと思わなくもないが、結局この笑顔は「モテない君へのサービスだよ」というものではなく、柳君に会える喜びに満ちているだけである。今くらい僕を見てよ! ……無理か! 畜生! 柳君に勝てないことくらいわかってるよ!


 もはや話に興味が失せたらしく、モンブランに手をつけようとする月山さんに代わり、清水さんが口を開いた。


「八十一はずっと……その、独走状態だったから、生半可な改善じゃ集客は望めないだろうね」


 その「独走状態」とは、バカのトップランナーという意味ですか? ハハ、上手いね!


「ただ、それを覆すような何かがあれば、話は違ってくるかもしれないよ」

「それを覆すような何か?」

「言いかえると、マイナス分を帳消しにしてなおプラスに変わるサプライズ的なものかな」


 ……サプライズ……って、なんだ?


「たとえば、ここにいる月山凛が参加すると言えば、うちの生徒たちも何人かは動くかもしれない。こう見えて凛は人気あるから」


 ええそうでしょうね。三大美姫なんて言われてうちの高校でも有名……ん?


「有名? ……有名人を呼べってこと?」


 そういえば、大学の学園祭なんかでは、有名なアーティストを呼んだり芸人を呼んだりするとか聞いたことがある。

 もちろん僕らは高校生で、基本的に金はない。そんな人たちを呼べるわけがない。

 だが、金じゃ動かないところの有名人ならどうだ?


 その筆頭が、ここで「モンブランうめー」と幸せそうに呟く月山凛だ。今は食い意地張ってるだけの残念な女だが、残念分のマイナスがあっても余裕でプラス寄りの超美少女である。

 もし、こんな美少女を、あと二人呼べたらどうなるだろう? 来ることを周囲に広めたらどうなるだろう?


 ――九ヶ姫の三大美姫と言われる月山凛、天城山飛鳥、佐多岬華遠。

 男たちの憧れの女子たちを呼べれば、どうなるだろう?


 不可能か?

 彼女たちを呼ぶのは不可能か?

 いや、そうでもないか?

 だって僕は、三人のうち二人は知っているのだから。そしてそのうちの一人は絶対参加という意思をすでに貰っているではないか。

 不可能な道のりとは思えない。


 僕は思い切って、今考えていたことを清水さんに話してみた。


「もし決まったら、うちの生徒はだいぶ行くと思うよ」

「マジで!?」

「うん。天城山先輩と佐多岬先輩を守るために、って参加すると思う。あの人たちも人気者だからね」


 よっしゃー! ……ちょっと「守るため」とか引っかかるけど、うん、とりあえずよっしゃー!!


「私たちもうちの生徒が多く参加すると心強いし、私は賛成だよ。凛は?」

「反対する理由はないよ。でもあの二人が来るかな?」

「難しいと思うけれど。ま、一之瀬くん次第だね」


 わかっているとも。わかっておりますとも。


「フッ、任せとけ。男にはこういう時の秘策があるんだ」

「「秘策?」」


 僕は硬く拳を握り、突き出した。





「当たって砕けろだ!」


 女の子二人は三十秒ほど固まった後、棒読みで「うわー頼もしーいアハハ」と笑った。










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