俺と彼女のツーサイド1
「はぁ……、一体これで何回目なんだ」
7月31日、夏休み真っ盛りである。水上遊の今、為すべき任務はバイトが終わり疲れた身体にいち早く安らぎと休養を与えることである。
両親が海外旅行中で閑散としたこの自宅の鍵を開けたまでは良かった。自分の部屋へ機嫌よく入ったことを後悔し、同時にため息をついた。アルバイトが終わって帰宅途中に、コンビニで買った『甘党ランキング1位!至福のプリン』を部屋で月を見ながら堪能することが、働いた後の遊の楽しみである。今夜は満月だからな。しかし、今夜はいつもの様にはいかないみたいだ。それはこの7畳ほどしかない部屋の俺のベッドには招かれざる先客がいるからだ。
そう‥ベッドには枕を抱き寄せ、まるで猫のように身体を丸めて安眠している女の子の姿があった。
「はぁ……、一体これで何回目なんだ」
あぁ、すでに諦めはついているよ。しかし、こんな非日常なイベントが簡単に起きていいものだろうか。
遊は自分の境遇を決してうらやましくは思ってはいなかった。確かに女の子との出会いがないよりかは、ある方がいいだろう。しかし、これは『男性が好きな恋愛シチュエーションらんきんぐ』で上位に食い込むほどの状況だろうな。さすがに初心者の俺にはマズイ…。
遊はふとたわいもない思いにふけってたことに気づき、早くこの状況のクリアに努めることにした。
「自分の部屋で、寝ろよな。不法侵入罪だぞ」
静かな空間に俺の声が響く。それに反応しするように、
「ん…ふにゃあ…、遊?お帰り」
彼女は眠気に抗いながら、アニメのような萌え声で俺を迎えた。
ここで一つ、物語を円滑に進めるために早めに紹介しておこう。彼女の名は小笠原栞、俺の幼なじみである。幼なじみといっても、栞とは皆が考えるような腐れ縁のような関係ではない。小学校を卒業と同時に俺は地元から母親のIT関係の仕事上、東京へ引っ越した。栞とは大阪にいたころ出会った。もともと家が近所であったためもあるが、その頃の男子は女子を意識せずに遊んだものだ。そしてある日を境に遊ばなくなる。同じ様に俺も小学校から家へ帰るとランドセルをほっぽらかして、瑠璃の家へ毎日のように行った。瑠璃のお母さん、彩奈さん特製のイチゴ蒸しパンを一緒においしく食べて、日が暮れるまで遊んでいたものだ。
導入もさておき、話は再び戻る…。
「お帰りじゃなくてな…」
「じゃあいってらっしゃい」
そう言うと、この部屋は俺の部屋なのに、栞の独特の柔らかな花の香りが充満している。一瞬、その香りに惑わされそうになる。なんで女の子はこんなにいい匂いがするんだと思いながら、ふと我に返り、
「この状況はさすがに誘惑の要素がありすぎてですね…」
遊は左斜め下の方向に目をそらし、苦笑いしながら呟いた。
「え?よく聞こえないよ、ゆう~?」
「いや、いいんだよ。」
部屋が暗かったため、見えなかったが月明かりで徐々に部屋の中全体が照らされていく。遊は彼女は真新しい白地にちょっと大きめの淡いピンクと水玉模様のパジャマの袖で目をこすりベッドから起き上がった。
「栞、家の鍵は閉めてたと思うが……」
俺は布団にくるまって半分しか目が開いていない彼女に呆れながら喋りかけた。
栞はさも当たり前のように答えた。
「大家さんが、鍵作ってくれた」
彼女はまだ眠いのか彼女の目が、ゆったり閉じては開くの繰り返しをしていた。
「はぁー、合い鍵は返してもらうとして」
俺は、本日二度目の溜め息をして、女の子が部屋にいることを意識せずに話を続けた。
「こんな夜遅いと瑠璃のお母さん、彩奈さんも心配するだろ」
うん。我ながら大人の対応ができた自分を褒めてやりたい。これで瑠璃もお母さんを不安にさせないよう大人しく自宅に帰るはずだ。
すると瑠璃は、首を傾げて、ん~と考えこんでいる。ちょっと様子がいつもと違う。
「瑠璃、どうしたんだ?」
「あ、お母さんから遊に手紙を預かってきたの」
瑠璃はそう言うと、パジャマのボタンに細い指を添えて、上から順にはずし始めた。明かりは月だけだが順に幼なじみの胸の谷間が顔を出し始める。
「うぉ!や、やめろ」
余りの急展開に俺は焦り、顔を手で覆い咄嗟に後ろにジャンプしたが、テーブルの角に足を取られて、派手に床に頭を打ち付けた。
「っつ~、いててて…」
「遊、大丈夫?はい、手紙。忘れないようにここに入れておいたの」
すると栞はパジャマのボタンを一つずつ外していく。いくら部屋には月明かりしかないとはいえ栞の胸が見えそうになり、とっさに顔を手で隠した。
「バカっ!なんつーところに入れてんだ!」
「この方が忘れないと思って」
栞は胸の谷間に挟まれた手紙を取り出し、一枚のルーズリーフを丁寧に折ってある手紙を瑠璃から受けとった。紙からは栞のほのかな香りがスッと漂って、これも栞の胸に挟まれていたと思うと刺激が強すぎる…自分の部屋なのに落ち着かないな。
「手紙渡すために、遊が帰ってくるまで待つつもりが寝ちゃったね」
栞はすっかり眠気から目が覚めたのか、なぜかルンルン気分で細い足を鼻歌に合わせるように動かしている。なんて自由奔放な幼馴染だ・
そんな栞をスルーし、俺はさっきから彩奈さんからの手紙が気になって仕方ない。あの人は見た目良し、料理は行列確定のお店を開ける腕前ときて理想を越えたお母さん像だけど、残念ながら性格がなぁ…と独り言をつぶやく。ハート型に折られた手紙を丁寧に開けると、床に何かがゴトっと落ちた。
「ん?何か落ちたよー」
栞がベッドからすぐに反応し拾ったその何か…。俺は彩奈さんからのプレゼントだと思い、その何かを確認しようと瑠璃の手に顔を近づける。すると栞の手には、一本の黒い鍵があった。俺は栞の顔を見るが、栞もそれが何か分からず、不思議な顔をしている。鍵の事を考えても見当が付かないので、とりあえず鍵は後回しだ。俺は彩奈さんからの手紙を読み始めた。
「手紙に何て書いてある?」
どうやら栞は手紙の内容を知らないようだ。急ぎの用だったらどうすんだ、これ。
「今読むから、待ってくれ。えーと…」
『やっほー、遊君、しばらくだね、久しぶりだね。大きくなった?突然だけどー、来週は栞の誕生日なんだ。プレゼント買いに旅してくから、しばらく瑠璃を預かってくれない?てか、置いてくからよろしくね☆ん~と、そうそう、手紙と一緒に鍵入れたんだけど、栞に身に着けておいてね。…なければね☆彩奈より』
まだ書いている途中ですが、随時更新していきます!
完結まで進めるつもりです!