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スフィア  作者: ハーブスケプター


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51.「一路」

「おそらく最後の一つを公臣が持っているという事は、この時刻は今のままでは前には進まないだろう。一つを残してな」

美月は公聡に「パラメータのデータがどこかに吸い取られているログを発見しました」と言った。


「そうだろうな。あの時あいつがここに来た時なんだろう?時間の一致はあるんじゃないか?」 

「はい、その通りです。あの日と一致します」


「ふむ、そうか。やはりな。奴め、それを盗む理由となれば次元転移装置も奴の手中にあるって事だな。何を企んでやがる」


 公聡はその時昔を思い出していた。

あの別荘での出来事の数か月後に起こったことを。


兄の公聡は「勉強は頑張るけど父さんの会社を継ぐなんて嫌だよ」と言った。

弟の公臣は「僕も兄さんと同じさ」とだけ言った。


父親はそんな二人を見て「合格だ、二人とも。そういう反骨精神が無いと男として人間としてはだめだ。まあ勉学に精進するんだな」

「もういいかい?部屋に戻るよ」

兄は父親に向かって言った。許しを得た公聡は二階の自室に走っていった。


残った弟は父親にこう言った。

「父さん、僕はね。兄さんとは違うんだよ。さっきはああ言ったけど、僕は父さんの会社を継ぐよ。その為の勉強もする。僕は兄さんとは違うから」

そして「僕はね父さん、兄さんよりも友達を作るよ。兄さんよりも沢山ね。そして仲間にするんだ。みんなをね」と言いながら笑った。


父親は歪んだ笑顔で笑う公臣のことに悪寒を感じずにはいられなかった。


一か月後


 母が言う「二人とも今日から中学生よ。同級生は貴方達より年上の人ばかりだから色んなことがあると思うけど何かあればお母さんに言うのよ」


 新学期が始まり二人の兄弟は地元の進学校に通い始めた。一か月は何事もなく平穏に過ぎていったが、新緑が樹々を彩る頃に事件は起きた。

公臣は兄とは違い内向的で外では無口でほとんど誰とも口を利かない。クラスの中でも一人だけ成績優秀で年重も小さい。もちろん2つ向こうのクラスにいる兄も同じだ。だが兄が違ったのは、物怖じしない性格で誰であろうと打ち解け仲良くなる。


そんな違う性格の弟がトラブルに巻き込まれるのは時間の問題だった。

ある昼休みのこと、同級生四人に焼却炉のある敷地裏に連れていかれた。


そこで殴られまではしないが小突かれ、胸ぐらを掴まれ投げ飛ばされた。運悪く焼却炉の台座に後頭部を強打し気絶してしまった。


その後目を覚ました彼が見たのは、四人の同級生達が手足があらぬ方向へ折れ曲がり失神している姿だった。

公臣は怖くなりその場から逃げ出した。走って教室に戻り何事もなく午後の授業を受けていた。

当然、午後になっても戻らない数名を探すために教員たちが学校内を探し廻った。


その後、救急車が数台到着したことで学校内は騒然となった。

救急車に運ばれる生徒の中で意識のあるものが言った。


「知らないお婆さんが突然出てきて何か叫んだ。そしたら僕たちはうしろに飛ばされて気絶した」

事件性があるという事で警察も出てきて大騒ぎになるのだが、その後、公臣が更に孤立していく事になるきっかけとなってしまった。


公聡は弟の身に起きたことの詳細は彼が語らないので知らないのだが、あれから弟はより一層表向きの性格を封じ込め自分の中に閉じこもる様になったのを覚えている。



 あの日以来更に内向的になった弟が、大学に入学したあたりで割と誰とでも話せる様になった事に、兄として喜んだ事を今も忘れていない。


 俺は大学を卒業して直ぐに父親の会社に入った。弟は卒業の後渡米し何年か現地大学で働く道を選んだ。

小さい頃に父親に言われた事が真反対の道を選ぶ事になったのは皮肉以外の何物でも無い気がしていた。自分たち二人には路は一つではなかったと思ったものだ。


公臣は8年ほどして帰国した。風貌も性格もまるで変わった姿となって。


しかし、決定的に弟が変わったのはアメリカが原因ではなくて、あの中学の一件である気がしてならない。あの日に何があったのか。何が弟を変え俺を騙して過去へ送ったのか。


だが答えは分からなくていい。

奴たちは俺たちの邪魔をしようとしている。

それだけが分かればそれでいい。



「逃げなくていい、私は貴方の味方。貴方を傷つけようとしたモノには罰を与えた。貴方の珠の意志。私はマーガレット。これからは心静かに過ごしなさい、グッドボーイ・・・・・」

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