4.イエプーン
太平洋に面するこの街は州都ブリスベンからは少し離れている。ロックハンプトンと言うのんびりとした街がこの地方の中心である。
あの時シドニーを標的として発射された一発の巡航ミサイルが、軍のジャマーによりかく乱され、この街の沖合数百メートルの海中に堕ちた。シドニー上空で破裂するはずだった弾頭は、その3秒前に海中に落下し水深50mの地点で作動した。
爆発はきのこ雲とともに、大量の海水を巻き上げ瞬間的に周辺80kmの土地にわたって放射能の混じった海水シャワーを浴びせた。
遠くの周辺地域に住む人たちはゲリラ豪雨が降ってきたと思った人も少なくないという。
かなりの広範囲で街が焼き尽くされ一瞬で荒土と化した。
このイエプーンの街のように大都市への攻撃を避けるために犠牲になった地域は世界中で星の数ほどにのぼった。
50年経ち街はようやく元の姿を取り戻した。
大災害から十数年で早期に復興を果たした都市もあったが、この街のように時間がかかるのは行政が混乱したせいもあるが、故意に作り出された「順列」により後回しにされた所も多い。
周辺に暮らしていた人々は放射能の後遺症に苦しみ、それでもなお爆心地の中心であったイエプーンの復興を心から願っていた。
アマンダ・イーストウッドはこの街にある黒っぽい砂浜に立っていた。
他には誰もいない。
波の音と海鳥の鳴き声だけが同じパートを演奏するように聴こえている。
砂浜から沖合200mほどの海上の小さな塔が波にさらされていた。
アマンダはその慰霊塔に向かい一礼を捧げ手を合わせ祈った。
そして彼女は固く封印がしてあるエメラルド色に輝くボトルをそっと海に浮かべた。
Message in a bottle〜
ここから発せられた光線に焼かれ亡くなった彼女の祖父母に宛てた手紙だった。
「写真でしか見たことないお祖父さんお祖母さんへ」
アマンダは砂浜に背を向け歩きだした。
彼女はロックハンプトン空港から国内線に乗りブリスベンに向かう。
機内は満員ではなく、まばらに人が乗っている。
小型機のため機内環境はそんなに快適ではないが、満員でないのが幸いだと彼女は思った。
通路向かいに老夫婦が乗っている。
その老婦人がアマンダのことが気になるらしく、通路越しに声をかけてきた。
「素敵な黒髪ですわね」
「はい?あ、ありがとうございます」
「どちらへご旅行なの?」
愛らしい笑顔で銀髪の老女が続ける。
「私達夫婦は日本へ行くんですよ」
「あら、奇遇ですね。私も実は日本なんです」
アマンダは彼女に負けるものかと笑顔いっぱいで答えた。




