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スフィア  作者: ハーブスケプター


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45.息吹

「主任!、大変です!海綿動物0083の様子が。何かがおかしいです!」

「中野さん、きちんと報告なさい!何がどうなったというのですか!」



 二人は歩道を腕を組み歩いていた。


「ねえねえ、太郎ちゃん。あたしね最近行き詰ってるの。研究も何をしても進展しないしさ。他の三人は何でも出来る人達だから次々に成果を出すしね。あたしだけ置いてきぼりなのよ。いつもあたしは置いてきぼり、あの夜も美月ちゃんに置いてきぼりにされたし、不幸な少女なのよ」


木村は無言だった。落ち込んでいるふりをしている人間は、いつも自分で答えを決めてから人に相談を持ち掛けてくる。そしてその人間に対して自分の敷いたレールに乗るように誘う。

同意を引き出し、自分の確定させた答えを自分の中で「正義」に変換する。

大体の人はそうなのだが、目の前でしゅんとしているゆかりだけは違うようだと思う。

彼女に答えは見つけられていない。


木村の身体は意思に反し動き、瞬間、ゆかりを抱きしめていた。

「ゆかり、落ち込むな。おまえは出来る。必ずやれる。これは俺の記者、いや男としての感だ」


「ありがとう太郎ちゃん。あたし頑張るよ。地球を救うんだ、あたし!」

「えっ!そんなにデカい野望なの?」



「ねえねえ、お母さん、あたしにはどうしてお父さんが居ないの?」

母親は少女のいつもに質問にこう答えていた。


「お父さんは海に出ていなくなってしまったの」


それは事実なのだが、当時3歳の少女には意味が解るはずもなく、ただただ友達とは違う自分の境遇に疑問を感じていたのである。大火から22年経った。都市の復興も大部分が行われ、日本の国土はあと地方都市の復興を待つばかりだった。政府の環境省の職員だった中野耕造は、海の水質汚染を調査し水質改善を目指すプロジェクトに参加していた。


 政府が民間から買い上げた漁船が多数あり、その一艘の大型船に乗って中野耕造は海洋に出ていた。その船には深海探査船も積み込まれており、今日は硫黄島沖の海溝の上に来ている。


「中野さーん、そろそろポイントに着きまーす!」

「分かりましたー。準備にかかります!」


深海探査機に操作員と乗り込んだ耕造は「じゃ、地球を救うヒーローはちょっくら行ってきま~す」と言い深海へと旅立った。


「橋本さん、いまどのくらいの深さですか」

「いま1000を越えました」

「この辺りまで壁に張り付いているはずの海綿は見当たりませんね」

「やはり汚染によって絶命してしまったのでしょうか」


ふふっと笑いを漏らして耕造は「さあどうでしょう。もう少し下まで行ってみませんか?この艇はどれくらい潜れるんでしたっけ」

「6000まで理論的には行けるとのことですが、そんな怖い事出来ないので、いつもは3000程度で止めていますよ。さあ、今日は記録更新と行きますか?」


「そうですね。しかし昔は1万数千まで潜れる潜水艇があったはずですが、これはそれの半分ほどですよね。なぜそんな技術があったのに、今はそんな艇が存在しないんですか?」

「そうですよね。多分海洋調査への情熱がさほどなくなったのが本当のはなしなんでしょうね。今、海は徹底的に汚れちまって誰も手を付けたくない程の対象になっちまったんでしょうかね」

「うむむー、由々しき事態ですね、それは。海こそが生命の源であり母であるはずなのに!海を笑うものは海に泣けってんだ!大体人間ってのは傲慢すぎる!海綿動物と70%はDNAが同一のくせに!」


「まあまあ、そんなに興奮しないで。それはそうと本当なんですか?70%って話し?」


 その時、耕造は見つけてしまった。3000mの深海に息づく原始生物の大群を。

「おおっ、橋本さん!あれを見てください。凄いです。サンプルを回収してもらえませんか」


そしてこうも続けた「彼らがここに沢山いるって事は、ここの海の環境がいいって事です。たぶん汚染されていない領域です。わたしたちはどうにかして各地にあるこう言った領域を全世界に拡げたいと思っています。そしてその方法を探しています。僕はそれを見つけてヒーローになるのですよ」


だから次の海洋調査が決まったら、真っ先に手を挙げようと考えていた。

夜遅くに自宅に帰った耕造は、妻の章子からお腹の中に赤ちゃんがいることを告げられた。

飛び上がるほど喜んだ耕造は、章子に「昨日な、素晴らしいものを見たんだ。それはそれは素晴らしい海の底の生き物でさ、人間と同じで月の周期ぴったりに産卵するんだよ。僕は海の底でその生物とコンタクトをしたんだ。たぶん彼らは僕のことを見ていたし、ボクも彼らと意思が通じ合った気がしたんだ。祝福をしてくれていたよ、多分」と二人抱き合って喜んだ。


3年後


「おいっ、ゆかり。父ちゃんは地球を救うヒーローになって帰ってくるぞ。それまでいい子にしてるんだぞ」

と言うと、ゆかりは父の指を強く握りしめ離さなかった。母に抱き替えられたゆかりは大泣きし、手の付けられぬほど暴れたらしい。



 海洋調査ポイントについた調査船。

遠くに雷雲が見えてそれが北方向に流れていたら"狂い鯨"が出やすいと。

放射能に冒された魚を大量に摂取した鯨は、身体の機能が低下、雷の音を聴いた時、方向などを見失って狂ったように潜ったり水面に出たりを繰り返し、自前のソナー能力も失って航行する船舶を衝突横転させたりするのだそうだ。


「わっかりましたー!船長ー!!潜水艇を念のため引き上げてください!」と耕造は大声で伝えた。

チームは、しばらく雲の動きを見て再開しようと決めた。


遠くの雷雲の方向で、多くの鯨が水しぶきをあげて狂ったようにジャンプを繰り返しているのが見えた。

あんなものに底から突き上げられたら一巻の終わりだなと肝を冷やす一行であった。


 雷雲が去り見渡す限りの晴天となり、調査探査を再開することにした。


「いいですかー!!中野さん!!ここに停泊したままだと、鯨にやられかねないので近くの島に避難します!!5時間後にここのポイントに戻りますので、それまでに浮上していてください!!!」

分かったと頷いた耕造は潜水を開始し、徐々に徐々に海底に向かっていた。


「そろそろ800か。やはりこの水深では正常の景色ではないようだな」

1200、1500と潜航を進めていた時、少し景色が変わったようだ。

耕造はライトを点灯させ、潜水艇の全方向カメラを動作させた。そこにはあの時見た景色が暗闇の中に広がった。


「おおおおおー」耕造は感嘆の声をあげた。


「サ、サンプルを取らねば・・・・」

耕造はマニビュレータを岩の壁に近づける操作をしている。

ライトの先には、岩礁に他者を寄せ付けぬように鎮座している海綿がいる。彼はその海綿に向かって機械の手を伸ばし、サンプルを採取した。それは船内にカプセルとして回収し気圧装置の中に自動的に収まった。


「ふぅー、やった。とにかく出来た」


とにかくこのまま浮上を開始しよう。バラスト開放、浮上まで1時間と45分」



船長が叫んだ「おう!!もう浮上しているぞ!!回収に急げ!」


そのあと調査団が見たものは船内に海水が満水となった潜水艇であった。



その日のうちに中野家に夫の死を知らせる職員が訪問した。

泣き崩れた母親にゆかりは何も分からず抱きついた。

亡骸が家に帰ったのは三日後、その後ひっそりと葬儀が執り行われ、章子未亡人は微笑みを絶やさない娘の姿にまた泣くのだった。


二週間後、事故調査委員会から一通りの調査結果を受け取った。

船体の圧力容器は人員搭乗部分と機械駆動部分、そしてサンプルなとを収容する部分と三つに別れていて、機械駆動部分容器が何らかの不具合にて圧潰し、その後その歪により本船容器に応力が加わり、徐々に本船に力が貯えられ夫が最後の仕事で採取した海綿動物の細胞であったと聞く。


水圧がさほど強くない水深になったときに観測窓に隙間が生じ漏水が発生したとの事だった。

水深が深い時点でこれが起こっていれば、潜水艇は圧潰し、遺体も回収不可能だったと告げられた。


そして最後にガラスの薄い板に封印されたサンプルの細胞が手渡された。


章子はそのガラス板を手に取り抱きしめひたすら泣いた。

その様子を見ていたゆかりも泣いた。大泣きした。



「あたしはね、太郎ちゃん。顔も覚えてないんだけどお父さんの事。でも、お父さんと約束したの」

木村は頷いた。「うん」


「世界を救ってヒーローになるの!」


〜次の日


ゆかりは出社した後機材の点検を行い、各プラント設備、各水槽を目視確認を行う。そこで海水水槽の一つに違和感を感じた。


「あれ?この海綿さん、なんか大きくなってる?かなり?」

驚いたゆかりは小畑のところへ走り、水槽のところへに来てくれと願い出た。


「主任!、大変です!海綿動物0083の様子が。何かがおかしいです!」

「中野さん、きちんと報告なさい!何がどうなったというのですか!貴女、いつもしっかりしているのに、何ですか今日は!」

「先ずは見てください!説明はその後という事で」


83番の水槽の前で二人は立ち止まり互いに顔を見合わせた。

「どうなっているのですか?これは。見た目が変わってしまっていますね」

「分かりません、とにかく細胞を採取して調べないことには。目視のはんいですが、海水の透明度が昨日より澄んでいるように見えます」


「中野さん、急いでサンプルを採取してください。顕微鏡で確認」

「はい、わかりました」


その数分後「主任!これらの中に幼生が確認できました。これはどういうことでしょうか!」

「分かりません、発現の要因を探さなくては!急いで昨日のデータとの照合、微生物、その他有機物など一切の、そして全ての差異の確認を!」


ゆかりは突然訪れたこの現象に心を激しく揺さぶられていた。


「世界が救われるかもしれない」と







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