41.お好み焼き「豊臣」
木村はいつもの席で人を待っていた。
サワーを飲み切らないように少しずつ口に運んでいる。
「おまたせー、太郎ちゃん」
「おいやめろ、名前で呼ばないでくれ。恥ずかしい。俺は自分の名前が好きじゃないんだ」
「いいじゃーん。私たちもう、こ・い・び・とでしょ?」
「ま、まあ、そうだけど」
「あ、そうそう、なんかすごい賞をもらったんだって?おめでとう!」
木村はゆかりの差し出したグラスに自分のグラスを合わせた。
「それでさ、なんか最近変わったことなかったか?」
「あったわよ。失踪していた社長が突然戻ってきたの。それとわたし初めて幽霊を見たのよ。お侍の。あとはねー。中村くんがうちの部署に配属になったことかな。あと、私を騙してたわね。太郎ちゃん、中村くんと友達だったんじゃん」
頬を膨らませたゆかりに木村は言った。
「それはすまなかった。話の流れでな、つい。でも祐介が研究室にか?あいつそんな畑じゃないはずだけど」
「前社長の肝いりでね、自分で連れてきて紹介したって言ってたわ。私、その場にいなかったから前社長の顔を見損なったのよ。見たかったわ、きっといい男なんでしょうね」
「ふーんそうか。でもこないだの美術館の袋とじに書いてあったのが前社長の名前だったんだろ。あれが突然帰ってきたことに何らかの関係があるんじゃねえのか」
「でも、あれは江戸時代の本でしょ。埋められたのも江戸時代に間違いないって太郎ちゃんも言ってたじゃない?」
「何かのトリックなのか。それとも本当に江戸時代から帰ってきたのか。それがわからねえ。ゆかり、ちょっと探ってくれねえか」
「えー、いやだよ。幽霊がまだいるかもしれないじゃん。それにね美月ちゃんと約束したんだ。誰にも言わないって」
ゆかりは、はっとした顔をして言う。「あ、これ言っちゃいけないやつだった」
木村は頭を掻いて苦笑いをした。
「ゆかり、お前には隠し事なんてむりだよ。まあ、俺もだけどな。俺はな実はこう推理してるんだ」
木村は自分の推理をゆかりに順番に話した。
「すごーい、太郎ちゃんすごい。そんなこと私、露にも思わなかったわ。うーん、そうかー。そしたら美月ちゃんと中村くんと、あと私の知らない黒髪の女の子が地下実験室に行ったのも頷けるわ」
「それはなんだ、ゆかり」
「あ、これも言っちゃいけな・・・・・いやいやいやいや、今の忘れて。私の勘違いだから。多分夢かしら。そう夢よ、これは。ごめん美月ちゃん」
「まあ、とにかくだ。その前社長と緑村さんは二人で同じ仕事をしているってことだ。そして祐介が多分それに絡んでる。あいつが言ってたことが本当になってきた。これは危険な道かもしれない。なんかあいつから不思議な話をいっぱい聞いたよ。それと俺も見た黒い服のばあさんってのが最高に気になるな」
~地下実験室
「それはそうと中村くん、君はここに来たという事は何か俺たちに用事があったのだろう?なんだ、言いたまえよ」
「はい、部長。実はうちの居候のアマンダですが、こんなものを持っていました。画像を見てください」
ボクはモニターに画像を転送した。
「"ディジュリドゥ"だな。オーストラリアの原住民の楽器だ。シロアリに喰われたユーカリの幹を使って作られるんだが、木管のくせに金管のような音が出るんだよ、響き渡るこの音は何とも言えない味わいがある。これの大きさはどのくらいのものなんだね」
「はい、80cmに満たないくらいかと」
「ほほう、それはさぞ面白い音が出るんだろうな」
美月が「中村さん、それが"笛を吹く女"だというのですか?」と訊く。
「はい、ボクはともかく、少なくともアマンダ本人は思い込んでしまっています」
「アマンダさんにも護り石の持ち主だという事実以外に、この件にもっと深く関わってもらわねばならないって事になってしまいますが」と美月は言った。
「おい、中村くん、至急アマンダ君の履歴を俺のパッドに送れるかね。少々興味がある」
「はい、わかりました。すぐ連絡して送らせます」
~管理棟
「おい、人事部長!松本!お前だ!頼みがある」
「ヒイッ!社長っ??いえ研究室部長!、またなにかありましたか。ヒィィィ」
人事部の面々がそれを見て苦笑している。
「おいっ松本!これを見ろ。セントラルクイーンズランド大学の環境科学を専攻していた才女だ。今は観光ビザだ。おまえが彼女の就労ビザを各種申請の手伝いをしてやれ。わかったな。その他ややこしい手続きはすべてお前がやるんだ。その後うちの会社へ入社させる」
「しかし、部長・・・・・」
公聡は眉間にしわを寄せて松本を見た。
「しかし、なんだ?」
「い、いえ、なんでもありません」
「そうそう、入社後の配属先はわかってるな?」
「は、はい、承知しております・・」
太賀は大笑いをして退室していった。
松本人事部長は床にへたり込んでしまっていた。
「なんで俺だけこんな目に遭わなくちゃならないんだ!!」と言い、立ち上がりざまに、床のくず入れを蹴とばした。




