39.黒と白
公臣は思い出していた。あの日当時住んでいた長野の自宅や離れたあの別荘の事を。
あれはいいところだった。戦災から逃れて自然も豊かで本当に綺麗な場所だった。ある日、黒衣の老婆が目の前に現れて一枚のカードをくれた。老婆は僕たち二人でいる時もたくさん現れたけど僕ひとりでいる時も頻繁に現れた。
ある日はカトリーヌと言う名前だったり、フランソワーズって名前だったりした。同じ顔だったから見分けられなかった。
いつも何か少しだけ言って去って行く。それの繰り返しだった。
学校の帰り道や公園、そんな所にも何度も現れては何かを呟いて去った。ある日僕たちは彼女たちの住んでいるって言う教会に招かれたんだ。
兄と興味津々でそこに行った。でもそこは教会って言うよりも占い館みたいな所だった。
高校生だった僕たちは彼女たちから面白い話を聞いた。兄は最初信じてなかったけど、僕は食い入るように彼女の話す童話に聞き入ったんだ。
「あなたたち双子はこの世界の救世主となる運命があります。お父様の会社を引き継ぎとても大きくします。世の中のためになるものや仕組みそれらを献身的に提供するカンパニーとなります。二人揃って仲良くしなさい。"離れて"はだめよ。あげたカードは肌身離さず身に付けておきなさい。きっといいことがあるわ。コンフィボーイ、貴方は仕組みを作り、シャイボーイ、貴方はある機械を作り上げる。そしてそれらを使って過去に飛び地球を正すのです」
彼女たちは間違っていると思った。
いつも快活な兄のことをシャイボーイと呼び、その真逆の僕をコンフィデントなんて呼ぶ。
それに何だ僕にくれたカードは。
兄のそれを見せてもらったが"時間"と書いてあり綺麗な図柄だった。
僕のは何だこれは。
兄にも見せてくれと言われても見せたくなかったのでいまだに見せていない。
"雨"と書いてあり、どす黒い雨が降るような図柄だったからさ。
それからしばらくしてマーガレットと言う白い服を着た老婆が僕の前に現れたんだ。
~
地下実験室
「太賀部長、緑村さん、一体どうしたんですか」
ボクは二人に会いに地下に行った。
ボクは初めて自分のバンドが反応して地下に下りるボタンが出現した事を子供のようにはしゃいでいた。
そして、そんな事があったなんて知らずに実験室に入った。
そこには包帯をして横になっている太賀前社長と心配そうに横にいた緑村さんだった。
「おお、中村くんか。よく来たな。あっちの仕事はどうだ。やっていけそうか?」
「え、はい。ありがとうございます。え、いや、どうしたっていうんですか?」
美月が言う「社長、お話ししても?」
「うむ、仕方あるまい。彼にはすべて話しておいた方がいいだろう」
ボクは緑村さんから経緯を説明された。
「それで菅井社長はどの時代に飛んだんですか?」
「おい、美月くん、そこは一番面白いところだからさらに詳しく話してやれ」
「わたしは菅井さんに渡された数値を入力せずに、ある本に書いてあった数値を入力したんです」
「それは先日話されていた太賀部長のあっちに行った時の数値?」
「そうだ、中村くん、美月くんは機転を利かしてそれを入力した。菅井のやつは今頃あっちで大工でもしてるだろうよ。そして毎日毎日偽物の金属板を擦り合わせているさ。わっはっはっは」
「それにな、あいつはコクピットに乗ったままあっちに行ったから、しこたま腰と背中を打って悶絶してたろうと思うと笑いが止まらないぜ」
それを聞きボクも少し笑ってしまった。
「そうしたら緑村さんが言っていた"邪悪な精神"というものも葬り去られたって事ですよね」
「いいえ、それはまだ無くなってはいません。これからが正念場となります」
太賀部長もうなずいていた。
~会長室
「兄さん、お怪我は大丈夫なんですか」
「うむ、実験していた機器の高速回転するタイプのやつがな、突然壊れてベアリング潰されてが飛んできたんだよ。まあ大事無い」
「何日か菅井さんが行方不明となっています。何かご存じの事はありませんか」
「いや、俺ぁ知らんね」
「そうですか、でもセキュリティのログを辿りますとね、菅井さんはミストラルのシャフトに乗った後、その後の移動に関してなにもデータが残ってないのですよ。地下に下りたって事までは分かっているのですがね」
「わかんねえな。神隠しにでもあったんじゃねえのかな」
「わかりました。次の旅行まで作業を引き続きお願いいたします」
公聡が部屋を去った後、公臣はカードを触っていた。
その手には二枚のカードが握られていた。




