38.悪だくみ
事件が起こったのは、ボクが研究室で何日か過ごした後だった。
「わかりました、これをお渡しします。これがこちらに帰ってくるための"鍵"です」
「美月くん、それを渡してはだめだ!!」
「早く渡せばこんな事にはならなかったんだ。私はあの時代に行って救世主となるのだよ。さあはやくシークエンスを開始しなさい」
~二日前
「緑村くん、そろそろテストケースが終わる頃なのではないのかね」
菅井が言う。
「はい社長、前社長のパラメータと近時間移動のパラメータの誤差を計算して、その間の時間軸へは"どのような"時間にも正確に到達が出来るようになりました」
「ただ、帰ってこられないというのは危険極まりないね。何か方法を模索はしていないのか」
「・・・いまはありません」
菅井は美月の眼を見つめた。この女は嘘をついていると直感した。なにか方法を既に構築している。その方法を我が物にしたいとも思っていた。
「ふふん、早く帰れる方法を見つけたまえ。残された時間は少ないぞ」言い捨てるように実験室から去っていった。
「ふぅ~」ため息を吐く美月は宙を仰いだ。
~三日前
「おい美月くん、このコックピットの椅子を取り外そうと思う」
「どうしてそうなさるのですか」
「君もあの時尻もちをついただろう?俺はなあっちに行ったときに1.5mくらい上から落ちてしこたま背中を打って気絶しちまったんだよ。だから転送は立って行う事に変更するぜ」
「そうですね。あれはかなり痛かったですから、その方が得策かと思います。ふふふ」
「おお、そうだ。中村を異動させたよ」
「え?どこに異動を?」
「今は君の古巣にいるさ。全く役に立たんだろうがな。わっはっはっは。ここに来ることも許しているからまあ仲良くやれや」
「社長、ありがとうございます」
「社長じゃねえって。執行ナントカってやつだ」
~四日前 会長室
「菅井さん、あなた最近管掌している以外の部門の者に独断で何かを頼んだ事実はありますか?」
菅井はぎくりとしたが、冷静を装いこう答えた。
「滅相もございません、何かの間違いかと」
「わかりました。下がってください」
公臣はニヤリと笑ったまま電話を掛けるのだった。
~今日
菅井は研究棟の旧薬剤研究室、現在の名称でタイガニュートリションに来ている。
「加藤君、依頼したものは出来ているかね」
「社長、こんなものどうなさるんですか。今の時代には全く必要ないものですけど」
「良いんだ。名前は言えんがある国の依頼でな、国立博物館である過去の輝かしいテクノロジーへの表彰式に実物を展示したい旨があったんだよ。終われば返却してもらうから心配しなくてよろしい。レシピも入れてくれたよな」
菅井は小型のジュラルミンケースにそれらを収納して部屋を出て行った。
「さて、仕上げだ」と言い菅井はシャフトに乗り込み、役員用のバンドをかざして地下へと降りて行った。
部屋の前についた菅井はインターホンを押して中にいる人間を呼び出した。
「菅井だ、開けてくれたまえ」
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「社長、菅井さんが来られました。開けてくれとおっしゃってますが」
「??・・・うむ、構わん。開けてやれ」
重い鉄扉が開いた後、菅井は入室してきた。
「邪魔するよ。おおこれはこれは太賀ミストラル部長もおいででしたか」
「そりゃあよ、俺ぁここしか部屋がねえんだよ。寝泊りもここでしてるしな。何の用だ菅井」
「テストとして私をある時代へ送っていただきたいのです」
「行ったら行ったきりになるんだぞ。それでもいいのか」
菅井はふっと笑い「あははは、何をおっしゃいます。あなた方は帰ってくる方法を見つけているはずです。その証拠があなた、太賀のお兄様の御帰還でしょう?」
「いや、そんなもんはねえよ。あれは偶然が重なったって言ってるだろうが!!」
「まあ、いいですよ、今はね。さ、この時間に設定してください」
美月はパッドを受け取り画面に表示されている月日を見て愕然とした。
「なぜ、この時間なのですか?何をなさるおつもりなんですか」
菅井はその言葉に激高し言葉を荒げた。
「うるさい!うるさいうるさいうるさいっ!!」
「てめえ!!何興奮してやがる!」
『パァーン!!』
銃声だ。菅井は拳銃を隠し持っていた。
脚を撃たれた公聡は倒れこんだ。
「やめてください!!菅井社長!わかりました!今から入力しますのでやめてください」
「わかりゃあいいんですよ。。まだですか!まだかかるのですか?」
「い、いまやってます。パラメータの整合性を測る試験をしなければとんでもない時代へ飛んでしまいます。それでもよければ今すぐ起動して差し上げますが」
「やはり君は度胸の据わった娘だね、ねえ、前社長さん?」
「うるせえ、人を撃ちやがってただじゃおかんぞ!」
「はいはい、帰ってこれたら説教は死ぬほどお聞きいたしますよ」
「もうすぐ試験が終わります。20××年8月8日午後12時、東京スカイツリー。これで宜しいんですね」
「そうだ、それでよろしい」
「てめえ!!何する気だ」
拳銃を公聡に向けたまま菅井は言う
「この中にはあのウイルスの特効薬として当社の先々代が開発したものの複製が入っています。レシピと一緒にね。わたしはあの時代へ行って先々代より早くこれを世に出します。そして菅井家の起こした会社があなたの会社よりも大きくなるのですよ」
「貴様!狂ったのか!」
「私は黒い服の老女なんて見たことないしあなた方の戯言にはもう飽き飽きしたんですよ」
「馬鹿め!地獄に落ちろ」
「さあ、早く帰りの切符を渡しなさい、早くっ! 」
「わかりました、これをお渡しします。これがこちらに帰ってくるための"鍵"です」
美月は首にかけていた金属板二枚を外した。
「美月くん、それを渡してはだめだ!!」
「うるさい」
一発銃声がし天井にめり込んだ。
「早く渡せばこんな事にはならなかったんだ。私はあの時代に行って救世主となるのだよ。さあこれの使い方をレクチャしてくれたまえ」
「この金属板一枚は時間移動をした際のエネルギーを記憶できるようです。帰ってくる際はそのエネルギーをもう一枚にマイナスエネルギーとして放射する仕組みになっています。太陽がエネルギーを放射して植物に与え、そのエネルギーが形を変えて太陽に還します」
「何だか分からんっ!御託は要らんのだ。使用方法を言え」
「使い方は、帰りたい時に金属同士を擦り合わせるだけです」
「早く渡せっ」と菅井は金属板をひったくりポケットにしまった。
「ここに立てばいいのだな。早くスイッチを入れろ」
美月は太賀を瞬間に見た。
太賀がウインクをしたのを見た。
「菅井君、それでは転送できん。そ、そこにレーシングカーのシートがあるだろう?それに乗らなきゃ向こうに着けんよ」
「そうか、緑村くん、早くしたまえ!」
コックピットを備え付ける美月。
「これでおさらばだな」
美月はシークエンスを開始した。
光に包まれ消えゆく菅井に向かって美月が何かを言った。その手には本物の金属板がぶら下げられていた。
「帰りの切符は無いわ。地獄へお行きなさい」
菅井がシートを立とうとしたがもう遅かった。
~
「社長!しっかりしてください。救急車を呼びます」
「いや、いい。大ごとになるからそれはいかん。友人の医者に行くからそこまで連れて行ってくれるか。あれは偽物だったのか?」
「はい、先日社長の一言がきっかけで色々と考えるようになったんです。ほら、ここに秘密を残して外には出るなってやつです。駅前のショップで似たようなものを買って二つに繋げておきました」
「おおそうか。きみは本当に優秀だな。儲けものだ。そしたらあいつを送り込んだのもあいつの希望地でないって事だよな。あいつは昔から詰めが甘いんだよ。そういう奴はおれぁ嫌いなんだ。一体どこへ送って差し上げたのだ?」
「はい、東海道中膝栗毛です」
「わあっはっはっは!!そりゃあいい。わっはははは」
~目を醒ました菅井
「あいたたたたたたた、落ちた。痛い腰と背中を打った。あっ無いっ拳銃もパッドもケースも無くなっている」
菅井は辺りを見渡してみるが近くにはなにもない身体が痛いし動かない。
「ここはどこだ?」
そうしているうちに誰かが近づいてくるのが見える。
どんどん近づいてきて菅井の前に立った。日傘をさして黒い服を着ている。
「あら、スネークボーイ、初めまして」
菅井は気を失った。
~
「お父!お父!南蛮人が死にかけてるぞ」
「ごん、そりゃあ南蛮人が悪さして切られるっつう話聞いたことあるから、お侍えにお手打ちにされたんだろ」
「違うぞ、血は出てねえし息もしてる」
~
「お、おいっおめえどっから来た」
棒で突く藤吉。
目を醒ました菅井。
「おいっおいっ、ここはどこだ!ここは。今は何年なんだ!」
「天明3年だよ。あんたどっから来たんだ?竜宮城にでも行ってたってのかい?」




