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スフィア  作者: ハーブスケプター


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34/60

33.過去へ

 緑村美月はボクが預けた二枚の軍票みたいななものをネックレスにして首につけた。そして大きく深呼吸を何度かした。そしてボクに目で合図をし小さくうなずいた。

動揺するボクたちを見て「大丈夫です。必ず戻ります」と言い再度目で合図をした。


ブゥンと大きな音がして後ろの大きな機械が唸る。

椅子に座っていたはずの美月は消えてなくなった。

あとには静寂と後ろの機械の反響だけが響いていた。



「きゃあ」

どすんと尻もちをついた彼女だったが、下が草むらだったため軟着陸できた様だ。


後ろで突然女の悲鳴が聞こえたものだから農作業をしていたらしい男も驚いて尻もちをついた。


「な、なんだ。何が起こった。人なんていなかったはずだ」

痛さをこらえて腰をさすっている女がこっちを見ている。

男は叫んだ。「おまえ何だ。カトリーヌの仲間か何かか!!」

彼女は立ち上がってこう言った。


「太賀社長!!助けに参りました」太賀はそれを聞き飛び上がって喜び、彼女の手を泥で真っ黒になった手で何度も何度も握手した。


「君は俺の後継者か?そうか君が後継者が!!名は何という。何年後から来たのだ」

「緑村美月と申します。社長がいなくなられて8年経ってしまいました」

「そうか、君は優秀だな。いまここに埋めたばかりのこれを見つけたのだな。儲けた。儲けものだ、うんうん。あの時君のような助手がいたらこんな事にはならなかった」

太賀は手を握ったまま訊き続けた。

「それで俺からのメッセージは()()()読み解いたのだな」

「はい、すべて読み解きました」


「すべてをか?」

「はい、すべてをです」

「なら話が早い、で、どうやって戻るのだ。戻る方法を確立したのだろう?」

「わたしが持っているこのネックレスが鍵となります。さあ、チークダンスのように手を握り腰に手を回してください。そうですそしてもっと近づいてください」


 美月はこの見たこともない美しい風景をもっと見たいと思った。名残惜しいとも思った。

そして美しい風景を取り戻すと心に誓い、左手で金属板を激しくこすり合わせた。

チークダンスを踊るふたりが一本の鍬と三度笠を残して消えていく。

光に包まれながら消えていくさまを一匹の鹿が見ていた。


 ドスンと大きな音とともに美月と抱き合った時代劇風の旅人が現れた。

ふたりともあいたたと腰をさすっている。

旅人は高らかに笑い「儲けた儲けた大儲けだ」と叫んだ。

そしてびっくりしているボクたち二人を見て

「おお、きみたちが新しい研究員だな。よろしく。太賀公聡だ」と言いボクたちに汚れた手で握手を求めてきた。

「社長、いえ前社長、彼らは研究員ではありません。カトリーヌ達の悪戯に翻弄された人たちです」

「そうか、あのばあさん、方々で悪さしてやがるな。今、社長は誰がやっとるんだ」

「社長は菅井さん、弟さんは会長になられています」

「菅井が?ぷっ、あいつがか。あははははははは。常務だった公臣が会長だと?ふふふ。まあいい。それとここのセキュリティはどうなったんだ。部外者が立ち入れるはずもなかろう」

美月は言う。「セキュリティをいったん無効にするプログラムを走らせてます。解除はプラント二番研究室の社内ネット接続端末から行えます」


 太賀はセキュリティ攪乱の解除は自分がしておくから、三人には会社を出てとりあえず帰宅するように促した。そして弟とけりをつけてくるとも言った。


~バス停


「大丈夫でしょうか。社長」

「あの方なら心配いらないと思います。眼を見ればわかります」

とにかく帰ろう。うちに帰ろう。温かい家に。


その後、社内ネット接続端末を操作している江戸時代の旅人を見て卒倒して逃げ出した女性がいたことを三人は知らない。




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