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スフィア  作者: ハーブスケプター


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31.パラメータ

 緑村美月は管理棟14階で会長と面会していた。


「緑村さん、パラメータがみつかったそうですね」

「は、はい。解明には時間がかかりましたが、入力をいまコンピュータにやらせているところです」

「あの時間へ飛べるのはいつごろとお考えですか」

「はい、二週間後にはテストを終えるのでその後には直ぐにでも」

「急いでください。そうしないと何らかの妨害が入るやもしれません」

「了解いたしました」


美月はいまあることを決意した。


ロビーに降り立つと祐介から着信が入った。

柱の陰に入り込み小声で会話を始める。


「中村さん、ダメです。勤務中の私信は」

「すみません緑村さん、急用なんです」


 美月は会社前のバス停まで走った。


「どうしたというのです?中村さん。この方たちはどなたです?」

「実は右のはボクの妹です。そして左がアマンダ・イーストウッド、護り石の持ち主です」

「あなたがあの石の。詳しく話してください。急用とは何ですか」

「アマンダと妹が食事をしている時、あの老婆が現れたらしいんです」

「なんですって?」

「詳しくは彼女から聞いてください」

アマンダが話し始めた。

「黒衣のおばあさんが来たのです。そして護り石を決して手放すなと。名乗っていないはずの私の名前を知っていました。そしてこの綾香のことをお人形さんの妹と言ったんです。綾香のことまで知ってました」

綾香はギョッとして「人形の妹ってなに?お兄ちゃんが人形なの?」


美月はいま思案に暮れていた。そして決断した。

「妹さんは申し訳ないけどお家にお帰りなさい」

そして二人に耳打ちしてこう言った。

「中村さんとアマンダは19時にもう一度ここに来てください」

「緑村さん、どうするんですか。一体何を?」

「セキュリティを攪乱して突破し研究棟に入ります」


美月はその足で研究棟へ向かった。

「中野さん少しよろしいですか」

「あ、美月ちゃん、ゆかりと」

「はい、ゆかりさん、お願いがあります。ここに書いてある時刻になったらこのメモリに入ってるプログラムを実行してください」

「一体何が始まるんです?このプログラムってなんなんです?」

「これはこんな時が来るかもしれないと思って前もって作っていたセキュリティ撹乱のためのプロトコルです。今夜ある方達を地下の実験室に案内します」

「ち、地下に実験室なんてあるんですか?」

「はい、わたしは貴女たちと仕事をしながら地下である実験をさせられていました」

「唐突すぎます!なんです?それ!」

「詳しいことは改めて話します。とにかく今日はこれをお願いしたいのです」

「わかりました。紳士服屋さんのスパイ映画みたいですね。彼に話してもいいですか?」

「ゆかりさん、それはまたの機会にしてくださいませんか?」


 19時前、美月はバス停まで急いだ。

もうそろそろゆかりに頼んだプログラムが作動してプロトコルが差し込まれる頃だ。

バス停にふたりの影を見つけ「さあ、参りましょう」と言った。

「緑村さん、大丈夫ですか?ボクはともかくアマンダはセンサーに引っ掛かるのでは?」

「ご心配には及びません。いま各種センサーにはお休みをしていただいておりますし、守衛室のモニターにもエンドレスで同じ動画を表示させています」


そのようだ。いつものカメラ類が動いている気配がないし、センサーの光も無くなってる。

「さあ、いまなら人に会えずに研究棟まで行けます」


 タイガ社は17時で一切退社が原則で、やむを得ない理由で残業が発生する場合にのみ18時半までの在社が認められている。ただし研究部門と経営者層だけは例外で退社期限は設けられていない。


 エレベーターの前に立った三人を後ろから見ている人物がいる。

三人はシャフトに乗り込みドアを閉めた。

「ここからは手動になります」と言いながら、美月はメンテナンスボックスを開けて手に持ったデバイスを近づけ何やら入力している。

タッチパネルに表示されてなかったはずのB1が点灯し、シャフトが下に動き出した。


 薄暗い廊下を歩き三人は大きな扉の前に出た。

「ここで待っていてください」

美月は虹彩、そして静脈認証、容姿認証をして一枚目の扉を開き中に入っていった。

「コンピュータ、セキュリティレベルをミヅキ0001に同期させなさい」

コンピュータは「セキュリティレベルを変更」と言った。

「コンピュータ、入り口のドアを全開放しなさい」

ドアが開き美月は二人を招き入れた。

そして

「コンピュータ、ドアを閉めこの後誰にも入室をさせるな」

と言いドアをロックさせた。


 その頃エレベーターに乗り込む一つの影があった。ゆかりである。

「あれ?地下なんてボタン何処にあるのよ!あれ?あれ?置いてきぼりなのわたし!?」


「緑村さん、これらは一体何ですか」ボクは訊ねた。

「そちらにある二つのチャンバーは物質転送装置の実験に使われていたものです。今は使われていません。そしてこの椅子は次元転移装置つまりタイムマシンです。でもこれはわたしが作ったわけではありません。ただ引き継いだだけです」


「タイムマシン?そんなものがこの世に本当に?これ動くんですか?」

「ええ、実際に稼働しますし、前任者からの情報を元にわたしも実験した結果、確証は得ています」

そして

「少ない時間移動の場合、比較的簡単なパラメータを使って移動できるのですが、大きく時間移動をしようとすると変異を補正するための数値が大量に必要となることがわかりました。そして大きな時間尺の一番遠い地点をうんと過去に設定出来たならば、そしてそれが正確なものであれば、今の時代からその時代の間に存在する全ての時間には容易に到達できると理論上は考えられていました」

美月はここで顔を曇らせ「ただ、それは全て片道切符であり、ここには絶対に帰ってくることの出来ない旅行なのです。わたしはその帰りの切符を手に入れるための努力をしてきました」


ボクはとてつもない事を言い出したこの人をじっと見つめていた。


「そしてあの文字列がその帰りの切符ではないかと思いずっと考察していましたが、それは間違いだとようやく分かりました。あの文字列はこの時間旅行をするためのプロセスの単なるチェックリストだったのです。そのチェックリストは今急速に消されていっています。中村さんからお預かりした金属製の板ですが、これをX線測定や元素分析など様々な検査をしたところ、面白いことがわかりました。まず金属は地球にはない金属で出来ていること、そしてその表面には肉眼には見えない彫刻が施されていました。

それはヒエログリフを用いて一枚には太陽そしてもう一枚には植物と書いてありました。この板がどういう経緯で地球にあるのかは想像の域を遥かに出ていますが、わたしはこれを使ってある実験をしたのです。その実験でわたしの無意識にした行動が鍵を開けることになりました。今からそれを再現いたしますので見ていてください」


 美月は二つの金属板の鎖を小さなぬいぐるみに結び時計もくくりつけてコックピットに座らせた。


「見ていてください。1分後に彼を送ります」と言いスイッチを入れた。

椅子からぬいぐるみが消えた。

そして1分後にとなりのテーブルの上に現れた。

ボクは自分の時計と彼の時計を見比べた。確かに1分前を時計は刻んでいた。


「アマンダさん、その二枚の板を擦り合わせてみてください」

アマンダがその通りにそれをした瞬間目の前からぬいぐるみが消滅した。


そして彼はコックピットに戻ってきたのだった。


ボクとアマンダは呆然として話す言葉を失っていた。

美月は続ける。

「黒衣のカトリーヌが何をしようとしているのかはまだわかりません。ただ私達に害をなすものではなさそうです。そう、害をなすものは他にいるかもしれません。わたしは今から往復切符を持って旅に出ます。ある方を救いに。そして必ず戻ります。ここで待っていてください」


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