29.護り石
アマンダはまだボクの家に居候として滞在している。
黒衣の女性の事を話してからアマンダは考え事が増え、黙り込む事も少なくなくなった。
そんなアマンダを街に連れ出して気分転換させるのは妹の綾香の役割らしい。今日も自転車に乗せて街のアーケードに行きお腹いっぱい色んなものを食べてきたらしい。
アマンダは綾香に救われていると言った。でも本当は綾香の方が救われているんじゃないかと思う場面が多くある。あの子は本当はお姉さんが欲しくて小さい頃から泣いていた。ボクが男だからそんな妹に何にもしてやれなくて悩んだ時期もあった。
でも中学に上がってからは、そんな愚痴をこぼす事なく妙に明るく振舞っては周りの人に気を使っているように見えた。
だから蒼い目のお姉さんがやってきて綾香は小さい頃に味わった哀しみを今一気に取り戻している最中なんだと思えてならない。
ボクは腹違いの妹の密かな願いが叶えられた事を我が身のように嬉しい。
「アマンダ!アマンダ!早く起きなさい、遅刻するわよ」
「綾香、まだ眠いよ。映画は今度にしようよ」
「だめだめ、早起きは3ドルの得って言うでしょ、早く支度しなさい」
アマンダは頭の上にはてなマークがついたまま叩き起こされ、映画に行った。
いま春休み中の綾香は蒼い目の姉と進学までの短い休日を満喫しているようだ。
母親の美知留はそんな二人を優しく送り出すのだった。
美知留はアマンダの母親のみらいと通信し、アマンダの無事を毎日のように連絡しているようだ。
映画を観終わってちょうど昼過ぎになっていたので二人は駅前で昼食をとることにした。
オープンテラスのレストランを程よく見つけ、二人で男の子のはなしや雑談に花を咲かせ、まるで同級生のように笑い合っていた。
そこに黒い服を着た老婆が孫を連れて来店した。
ふたりの隣の席にすわった老婆はアマンダの背中越しに座り、物言わぬ孫には林檎のジュースを自分は林檎のパイを注文した。孫とも会話を交わさず微動だにしない二人をアマンダの後ろに見て不思議そうに見た綾香だったが、アマンダには黙っていた。もちろん綾香は兄とアマンダのあの日の会話については何も知らない。アマンダはしばらく笑顔で会話をしていたが、綾香の様子が少し変わったのと、視線が自分の方を向いていないことに気づいた。その視線の方向に振り向いた彼女は驚愕した。
「もしかして?おばあさんは・・」
それを聞いた老婆がゆっくりと振り向いた。
「まあ、貴女はアマンダ、そしてそちらはお人形さんの妹ね」
「わ、わたしあの時名前をい、言いましたか?」
「いいえ、聞いてないわ」
「お人形さんってなんですか?」
老婆は含み笑いをした後こう言った。
「貴女にあげた護り石は貴女を"旅"の不幸から護るもの。決して手放してはいけませんよ」とだけ言い店を立った。
綾香はアマンダに訊ねた。
「ねえねえ、アマンダ。なにお話していたの?全然分からなかったわ」
「何もないわ。さあ帰りましょう。急いで」
祐介に会わなければ。今すぐに。
アマンダは小走りで駆け出した。
「綾香!!祐介に会いに行く!!祐介の会社はどこにある!」
「だめよアマンダ、あそこの会社ね、なんか警備が凄くって関係ない人は入れないらしいよ」
「じゃあ前で待つ」
「えっ五時まで待つの?まだ何時間もあるよ」
「でも行く」
一時間電車を乗り継いで無人バスに乗り30分、二人はタイガベルモンターニュの前に立った。
「とりあえずお兄ちゃんに電話してみるね」と言い綾香は電話をしている。
「お兄ちゃん、お兄ちゃん、アマンダがね急に話したいことがあるからって会社の前まで来たんだ。外まで来れる?」




