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スフィア  作者: ハーブスケプター


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29/59

28.新東京国立近代美術館

 東京の国立近代美術館は新しく建て替えられたもので、

今や東京の美術館や博物館を統合した存在となっている。

全国から洋の東西を問わず、そして新旧も問わない異色の美術館となっている。

その理由は戦火により全国に有った多くの美術品や工芸品が失われたからだ。

その集められた美術品群をここで一元管理している。

失われた国宝類や書籍などはホログラムデータ閲覧が出来るようになっている。


 土曜日の朝、木村は予定を急遽繰り上げて朝一番の列車で東京を目指した。

東京駅に降り立った木村は「江戸城」をくるりと回り美術館に到着する。

美月とゆかりは既に到着しており木村の到着を待っていた。

「お待たせしました。緑村さん。送ったデータは見てもらえましたか?」

ゆかりが頬を膨らませてるのを見た木村は、ジェスチャーで「ごめんごめん」と謝っている。


美月はそれを見てクスッと笑った。

彼女はすこし孤独から解放されている自分を感じていた。

「さあ、参りましょう。美術館側には社長から根回しをしていただいています」


 地上12階建てとなっているこの建物だが、各フロアごとにテーマを決めて展示されているらしく、目的の「東海道中膝栗毛」は6階の日本史館に展示されているらしい。

学芸員の案内で通された会議室にあらかじめ当該の「東海道中膝栗毛」が運び込まれ羅紗の上に置かれていた。

そして学芸員から「展示物を棄損しない限り何時間でも観ていただいて結構です」と言われたことに美月は感謝を述べた。


 アクリル板、マスク、手袋なども用意万端に整えてくれている。

「緑村さん、こりゃあ一体どういうことですか。社長の根回しっていってもこんな事までしてくれるもんなんですか?」木村は小声で訊いた。

「わたしにも理解できない範囲の力があるようです、うちの会社は。早速見てまいりましょう」


 表紙には「東海道中膝栗毛三篇上」となっている。一枚ずつ慎重にめくってゆく美月。昔の字体で判読は困難だが時折挟まれている挿絵のユニークさに心を奪われる。挿絵自体この初版は十返舎一九本人の筆によるものらしい。特に本編には細工が施されていないように思うと美月は言った。本編の最後には版元の『通油町 村田屋治郎兵衛』の記述があり、そこで本来は裏表紙へと続くはずだ。

ところが"ここ"にやはり一枚の紙が挟んである。


 美月はこれを見た瞬間文字列の繋がりを感じた。

それは"本"、"瓶"、"土竜"であり、地中に「土竜」のごとく埋められていた(かめ)は「瓶」であり、その中に「本」が・・・・きっとそうなのではと思い美月はしばらく(くう)を見つめていた

『カトリーヌはこれを知っていた。わざと難題を投げかけている。あの人たちの目的は一体・・・』


(美月ちゃん)

(美月ちゃん!!)

我に返る美月にゆかりは言う「ほんとにもう。暴漢に襲われますよ。またですか美月ちゃんたら」


木村がすかさず「おい、緑村さんは上司だろ?ちゃんづけはやめろよ」とまた小さい声で言った。

「上司じゃないもん、もう無印のひらなんだよ、美月ちゃんは」

美月はその光景を微笑ましく笑い、その一頁の鑑定を続けることにした。

200桁のゼロイチ、その下に下線、その下に今度は沢山の数字、また下線、その左下に地図らしきもの、とバツ印、と日付らしきもの千七百八十三年七月三日、一番下に判子が押してある。


判子の銘は「蘭方美山堂」


 間違いない、これは前社長からのメッセージだと確信した。

前社長は江戸中期に飛ばされ、そこを懸命に生きて我々にメッセージを伝えてきた。

間違いない「美山堂」というシャレは社名をもじったものだ。

解き明かそう。数字はパラメータに違いない。そして到着した日付と地点。

ただわからないのがゼロイチ以外の数字の羅列だ。


これはなんだ。

なにを伝えたいのだ。本当に伝えたいことがあるのなら直接書けばいいのに、と思った美月はある可能性に気が付いたのだった。


前社長は"誰か"に見られたくないことを隠している。


このゼロイチ以外の数字は"暗号"だ。おそらくこれは私だけで解かねばならない。

誰にも言ってはダメだ。これは私だけに送られたメッセージなのだ。


 美術館を後にした三人は堀の外周を歩きながら話した。

「木村さん、この事を記事になさるのですか。なさるのなら一つお願いがあります」


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